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「長物は屋内では使い難いのだがな」
ハルバートの柄の上部を持って構える。跳ねるように飛び掛ってきた赤い目をした大きな黒犬、下級獣魔『ブラックドッグ』の頭部を叩き割り、新たに侵入してきたゴブリンとブラックドッグを力任せにまとめて薙ぎ払う。
その隙に一匹のブラックドッグが肉薄して噛み付こうとしてくる。だがタイミングを合わせてその鼻っ面に蹴りを入れ地面にのびた所を石突きで頭部を叩き潰す。
「……全員戦闘態勢をとれ!」
「うらああああ!」
ジャミルとラインが逸早く状況を把握すると剣を抜きグレイの所へ駆けつける。それを確認すると広くは無い部屋の入り口を二人に任せバックステップをして距離をとりつつ懐からカードを抜きちらりと見た後早口で詠唱する。
「『サンダーボウ』」
放たれた雷撃は二人が交戦する入り口と反対側のまだ混乱している班員の方へと向かう。
「うわっ!チッ!気でも触れたかテメエ!」
ハシントがすぐ真横を奔って行った電撃を見て罵声を浴びせてくるが。
「ハシントさん!後ろ!」「後ろー!」
「ああん?」
双子の声に振り返ったハシントは硬直した。窓の鉄格子から腕をねじ込み棍棒を投げんとしたそのままの姿で痙攣しているゴブリンの姿、先程の電撃がなければ今頃はどうなっていたか。
周囲の状況を確認する。
ジャミル、ラインは入り口で敵を迎撃中、今のところ危ういところも無い。
「な、何だ何が起こった!?め、眼鏡、眼鏡はどこだ?」
リードは混乱しており戦力として役立ちそうに無い。
「ごがあああああああ……ふがああああああああ……」
この期に及んで高鼾のサッカには殺意と少しの尊敬の念を覚える。後で蹴りをいれるにしても今は敵に対処しなければ。
眼球を左右に動かし状況を確認。サダリアはジャミルとラインが討ち洩らした時の為に二人の後方で剣を構えている。双子の兄妹はようやく剣を持ち構えたところで表情に緊張が見て取れる。トニーは槍を持って窓を睨んでいる、先程のことで警戒しているのであろう。アリエッタとハシントはまだ放心状態か動けずにいるようだ。
「闇夜を照らす光、我らの道標となり輝け、『フィールドライト』」
新たなカードを取り出し窓の外の様子を確認するために早口で魔法を放つ。部屋の入り口にいる2人には順光、悪魔には逆光となり援護としても役立つだろう。入り口は奴等に任せておけば問題なさそうだ。
窓から見えるのはゴブリン1とブラックドッグ2、窓の鉄格子を盾として一方的に魔法で攻撃を行いこれを殲滅する。
「グルルルルル!」
鉄格子を破壊しようと体当たりしてくるブラックドッグとゴブリンだが対悪魔用拠点としての側面を持つこの休憩所の構造は堅固だ。慌てる事無く魔法を唱え放つ。
窓の外の敵が沈黙すると同時に部屋の入り口での音も止んだ。とりあえず戦闘は終わったようだ。
「……まだ外に敵がいるかも知れん、出るぞ!」
ジャミルがそう言って部屋から出ようとするのを止める。
「落ち着けジャミル。まだ外は暗くて俺たちには不利だ。日が昇り次第動くべきだろう。それに……」
ラインも同調するように言う。
「今回は2年もいるしな」
「……そうだな、すまない少々混乱していたようだ、俺もまだ未熟だな。」
そう言うと近くのベッドに腰掛けた。




