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4-7

宿泊室の鍵は経年劣化で壊れてしまったらしく修理は不可能であった。

「……万が一のこともある、見張りを立てた方がいいだろう」

 ジャミルは壊れた鍵を見つつ言った。

「そうだな。おお!2年の夜間警戒訓練にちょうど良くねえか?」

 ラインが名案が浮かんだと膝を叩いた。

ジャミルもこの意見に頷き、2年は案を出したラインを恨みがましく見たが結局交代で見張り役を立てて夜を過ごすこととなった。

「あの、アリエッタさん。交代の時間です」

 トニーが小さく声をかけつつベッドで寝ているアリエッタの肩を軽く叩く。

「ん、んん……きゃっ!ト、トニーさん!」

 まぶたを開けたアリエッタは近くにトニーがいるのを見て驚き跳ね起きた。

「静かに!他の人を起こしてしまいますよ」

「そ、そうですね、すいません……」

 慌てて声を小さくして謝る。

「うん、じゃあ……ただ今午前3時をもって夜間警戒任務をトニー=マッカイナからアリエッタ=コンポートへと引き継ぎます」

「は、はい。確かに引き継ぎました!お疲れ様でした!」

 形式に則り任務の引継ぎを行った。トニーは時計をアリエッタに渡す。

「じゃあ自分は寝ます。後はお願いします」

「は、はい」

 トニーはベッドへ、アリエッタは部屋の入り口付近に置かれた椅子に向かう。机も置いてあり天板の上に小さなランプが灯っており部屋をぼんやりと照らしている。

アリエッタは他の人を起こさぬよう静かに椅子まで歩き座った。

「ふわ~ぁ」

しかしながら眠い。アリエッタは自分の籤運を呪う。順番決めにおいてどうして一番つらいこんな中途半端な時間を引き当ててしまったのだろう。

周りは全員静かな寝息をたて、いやサッカだけはうるさく鼾をかいているが……ともかくぐっすり寝ていられるのが羨ましい。特にずっと寝ていられる3年生は。

はぁ、と息を吐き机に肘を突く。目の前のランプの火は揺れることも無くただ小さく灯っている。

今から1時間半後、四時半になったらマルカちゃんと交代できる。6時には起きなきゃいけないけど。学校では夜間訓練もあったけれどもどうしても眠いものは眠…い。だ…め、起きて……いない……と……すぅ。


ううん、何かおでこが痛い。腰もちょっと痛いし……なんか寝にくいなぁ……寝にくい?あれ?寝てちゃまずかったような、にんむ?任む?任務!?

はっとして机にに突っ伏していた顔を上げる。ランプの油はまだあるようだ、小さな火は灯り続けている。そしてその光に照らされて見たものは。

棍棒を振りかざし今にも振り下ろさんとした小柄な人影。

「……!?」

あまりに予想外な事態にただ呆然としてしまい何も考えることは出来ない、身体も凍り付いてしまったかのようだ。そしてスローモーションのように眼前に迫る棍棒、思わず瞼を閉じて……。

「キシャアアアア!」

自分のものではない叫び声に目を開けると眼前の皺だらけの醜悪な顔をした緑色の皮膚を持つ怪物の胸に見覚えのあるハルバードが突き刺さっていた。

仰向けに倒れ貫かれた胸から黒い霧を出し空気の抜けた風船のように萎んでいく異形、教科書でも訓練でも見たことがある最もよく目にすることができる悪魔、低級人魔『ゴブリン』。

力が抜け椅子から崩れ落ちるアリエッタ。今さっき起ころうとした事をようやく頭が理解し身体がガクガクと震えだす。

「何事だ!」「何だ!」「うるさいなあ」「今の声は!?」「わっ!」「ん?飯かぁ?」

ゴブリンの叫び声を聞き寝ていた班員が慌ててベッドから飛び起きる。

「敵襲さ」

いつもと変わらないトーン、慌てることも無く投擲したハルバードを掴むと萎んでほぼ消えかかっているゴブリンの胸から引き抜くグレイの姿がそこにあった。



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