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「……さて各自見回ってもらったが報告をしてもらうとしよう」
点検を終え集まった班員にジャミルが言う。
「あー、おいジャミル!それ飯食いながらにしねえか?さっきから腹減ってんだよ!」
ラインに続いて他の班員も不満を口にする。
「自分もさっきから漂ってくるにおいでもう堪りません!」
「確かにお腹すいたね。」「ねーお兄ちゃん」
「わ、私は別に」グ~「は、はう」
「……この落ち着きが無い状態で聞いても仕方が無い、わかった先に夕食としよう。」
「へへ、そう来なくっちゃな!」
点検班が広間にあるテーブルの周りに座るとサッカがリゾットの入った巨大な鍋を台所から運び机の上に置いた。すでに人数分の食器も揃えられておりカップには茶が湯気を立てている。空腹の限界である班員は皿に盛られると凄い勢いで掻き込み始めた。
「うおクチャクチャ、うめえじゃねえか!モグレイグ」
「……確かに美味い、それにこれは香草か?いい匂いがするな」
「おいしいねー」「そーだねー」
「わ、私もこれくらい料理ができればなあ……」
「すごく美味しいですよ!サダリア先輩が味付けをしたんですか?」
リゾットは大絶賛のようだ。
「ふふ、いいえ。サッカさんが主動となって作ったのよ。」
「へ~、人間見た目によらねえな!」
「ふはははは!畏れ入ったか!」
「うん、凄いですね!」「ねー」
「……確かに賞賛に値する味だ。米の中にも深い味が染み込んでいる、なにか特別な出汁でも使ったのか?」
ジャミルの疑問にさらりと答えてやる。
「ああ、サッカの男汁だ」
「ぶはっ!」「ゲホッ!」「キャッ!」「ゴフッ!」「ゲエッ!」「「わっ!」」
盛大に噴出す点検班と端のほうで一人食べていたリード。
「冗談」
にやりと笑って言ったが思いのほか周りは怒っている様子だ。
「今の先輩の冗談は笑えないっスよ!」
「おい!何いきなり言い出すんだ!」
「ひどいですよ!」
「……」
ジャミルまでもが明確な非難の目で見てくる。とりあえずあやまった方がよさそうだ。
「スマン、ここまで驚くとは正直思わんかった。本当に済まない……支給されている調味料は味があまり良くないからサッカが持ってきた手製の調味料を使っただけだ」
「ふはははは!長時間かけて様々な食材を煮詰めた後粉状にしたスペシャルブイヨンだ!貴様ら味わって食うがよい!」
「ったく、まあ美味いからいいけどよ・・・ムシャ」
「あらサッカさん、綺麗にお食べになるのね」
「はっはっは、こいつこう見えても貴族の一員だからね」
「「「「「!?」」」」」
うん、正直俺も始めて聞いたときには驚いた。変な話し方だとは思っていたが。
「ふはははは、まあ随分前に没落したらしいがな!ふはははは!」
「い、意外っス」
「……ところでお前たち、報告はどうした」
「ああ!すいません食事しながらって言ってましたね!南側外壁ですが特に問題はありませんでした」
「北側外壁は」「異常ありませんでしたー」
「あ、あの、宿泊室ですけど入り口の扉の鍵が壊れていて閉まりませんでした。」
「何?それは問題だな。直せそうか?」
「い、いえちょっと無理そうです」
休憩所は天気の悪化などが生じた際すぐに退避できるよう入り口は広く鍵もかかっていない。かわりに多くのベッドが並ぶ宿泊室の入り口は寝ているときに鍵がかけられるように作られている。
「ふむ、これは学校に報告する必要があるな」
「あ、あと……お、お手洗いは洗う必要がありそうです……」
「……そうか、わかった。次はラインの番だ」
「バクバク…ん、ああ用具倉庫と、モゴモゴ…非常用食料庫はゴク、問題なかったぜ。グエップ」
物を食べながら話をし、ゲップまでするラインにリードは不快そうに顔を歪める。
「チッ、最低限のマナーすら無いとは……まったくもって低俗な輩と行動を共にするなどやってられんな」
ラインもそれを聞いて怒りを露にした。
「あ?何もやってないゴク潰しが何エラそうなこと言ってんだよコラ」
「フッ、つまらない仕事など僕がなぜやらなければならない?そんなもの体を動かす以外能が無い貴様等がやればいいではないか」
「テメエ!」
「ライン落ち着け。この程度の挑発に乗るな。リード、君も無闇に人につっかかるな、迷惑だ」
集団行動でのトラブルは極力避ける必要があるというのに厄介な奴であると思う。
「下郎が気安く僕も名前を呼ばないで貰いたいね。貴族の僕はここを卒業したら士官待遇になることが決まっているのさ、今もこれからも貴様らは精々僕の盾になる以外役に立たないのさ!……まあいい、こちらも貴様等と同じ場所にいるだけで苦痛でね、吐き気がする」
そう言い捨てると広間から出て行ってしまった。
「ちっ、何なんだよあいつは!俺たちに突っかかってきやがって!」
「そうですよ!貴族だからって自分たちをただの盾扱いするなんて許せません!」
「ひ、ひどすぎますよ!」
「マルカあの人キライー。」「うん、僕も!」
ラインの怒りは収まらずそれに他の班員も同調し熱気に包まれていく。
「まあ落ち着け、リードもかなりの魔力の保持者だ。おそらくもっと別の区域に配属されて活躍したかったのだろうが一番遭遇率の低いここに配属されイラついているのだろう。それに確かに口の中に物が入っている内に喋ったりゲップしたりはマナーが悪いと言われても仕方が無いことだ。まあ、だからといって他人を貶す行為は良くないがな」
一人をスケープゴートにして団結するような集団は好ましくない、ジャミルも加えて説得する。
「……グレイの言うとおりだ。彼にも色々あるのだろう。それにあちらが先に貶してきたとはいえこちらもやり返して良い、ということは無い。任務が終わるまで味方の中で不和を起こすべきではない。彼に余裕が無いからといってこちらの余裕まで無くすな、解ったな?」
二人の言葉に場の熱狂は治まっていった。
「だがよお、あれは流石にねえよなぁサッカ?」
ラインは自分の意見に同調しそうなサッカに向けて話を振る。
「うぬ?別に我は気にしてないぞ」
「へ?」
思わぬ言葉にラインが呆けた声を出した。
「彼奴が気に入らないのならば気にせずに相手にしなければいいだけではないか?」
サッカは何をわざわざといった表情で語った。こういうところがサッカを大きく評価できる所だと思う。
「全く、お前らしいなサッカ」
「ふふ、流石サッカさんね」
「……サッカの言うとおりだ、皆サッカを見習え。」
「おお!よくわからんがもっと褒めるがよい!ふははははは!」
大笑いするサッカにより場の空気が弛緩していく。あちこちで談笑も始まり楽しい食事の再開となった。
「……グレイ」
「どうした」
「……サッカは凄いな」
「ああ、尊敬できる。少しバカだがな」
本心から頷ける。だから俺はサッカと一緒にいるのだろう。
「……ふっ、そうだな。」
その後は全員で後片づけを行い夕食を終えた。団体行動においてコミュニケーションというものは極めて重要な要素であり食事や酒宴は食べ終わるまで席を立たないこともあって会話を行うには絶好の場である。食事を終えた班員は一名を除き互いに会話できる程度には親睦を深めることが出来た。




