4-5
休憩所は街道のあちこちに建てられており基本的に無人であるが風雨をしのげる作りとなっていて一日で各街間を移動できない時には宿泊施設としての役割も果たしこの休憩所の整備と安全確認も任務の1つである。休憩所という名であるが悪魔退治の拠点にもなるよう堅牢に作られておりある程度の部隊が駐留できる規模を持つ。馬を付属の馬小屋にいれ水と飼葉を与えると全員が休憩所の広間へと集められた。
「……設備の点検と食事の準備を行う、二手に分かれよう。簡単でも料理ができる者はいるか?」
「私は一通りできます」
とサダリア。
「簡単なものならできるな」
「ふはははは!まかせろ!」
「まあ少しはやれるッスけど」
「「「!?」」」
グレイ、サッカ、ハシントの料理とは無縁に見える男三人が名乗りを上げるのを見て班員が目を見開き驚愕する。
「ああ、こいつは大喰らいでな。食費節約のために毎朝食堂を借りて弁当を作っている、意外と美味いぞ」
「へー、サッカが料理が上手いなんて意外だぜ」
「ふはははは!どうだ、恐れ入ったか!ひれ伏すがいい!」
「いや、そこまで褒めてねーし」
「ハ、ハシントさん料理できるんですか?」
「あん?悪いか?」
「ひいっ!す、すいません」
にわかに騒ぎ始める場を収めるためジャミルが口を開いた。
「……それでは夕食は4人に任せるとしよう。他の者は休憩所の設備点検を行ってきてくれ」
鼻を鳴らし動こうとしないリード以外は休憩所の様々な所へ散っていった。
「私たちも始めましょうか」
「そうだな」
馬車から降ろした食料袋の口を開け中を確認する。
「乾物ばかりっスね」
「仕方ないでしょう、何かあったときの為に保存のきく食べ物じゃないといけませんからね」
「しかし乾燥野菜に穀物、干し肉、焼きしめたパンか。各種調味料には恵まれているにせよ少々料理の素材としては物足りないな。まあこれで作るしかないが」
「ええ、何を作りましょう?」
しばらく悩んでいると水を汲みに行っていたサッカが戻ってきた。なぜかピンクのエプロンと三角巾、マスクまで身に着けている。
「ふはははは!どうした貴様ら。何か悩みか?」
「何作ろうかって話ッス、つーか何つー格好っスかそれ」
ふむ、と言いサッカが食料袋の中を見る。
「ふははははは!最初から手の込んだものを作る必要もあるまい!リゾットにでもしようではないか!」
「まあ片道2日弱の距離ではあるし往復2回分のメニューを考えればいいからな。腹も減ったしそれで行くか」
「スルーかよ。朝と昼はどうするんスか?」
「基本は食事に時間をかけるわけにもいかないしパンと干し野菜と肉を水で戻したものが基本ね」
「味気ないっスね、毎回そんなもんなんスか?」
「ええ、その分夕食は頑張るの。どの道日が暮れると急に襲われたとき大変だから進めないしね」
「よしっ!それでは始めるとするぞ!」
「俺は干し野菜を水で戻して切るか。戻し汁は?」
「ふん!もちろん米を茹でるのに使う!温めておくのを忘れるなよ!」
「干し肉はどうします?」
「塩気をよく、抜いてから薄く切れ!」
「俺はなにをすればいいスか?」
「とっとと釜に火を入れろおおおおおおおお!その前に貴様らエプロンと三角巾、手洗いを忘れるなよ!」
「はぁ?別にいいじゃないっスか、めんどくさいし恥ずかしいし」
「いや、衛生を心がけることは非常に重要なことだ、一人の病気が全員に広まる可能性もあるし食中毒のリスクもある。何かあってからでは遅い」
古来より病気はよく軍で流行るもの、共同生活をしているためだろう。
「そうねぇ、服も汚れちゃいますし。ハシント君もいいわね?」
三人の説得にハシントはそっぽを向く。
「ケッ、わかったよ着けりゃいいんだろ着ければ」
「ふはははは!その通りだ!さてこれより調理開始だ!」
サッカが指示を飛ばしテキパキと料理が作られていく。程なくして肉、野菜をいれ後はは火に通すだけとなった。
「案外早く終わったね。」
「そうですね、サッカさんの指示が的確だったおかげですね。」
「ふはははは!当たり前だ!もっと褒めてもいいぞ!」
しばらく大笑いするサッカを微笑みながら見ていたサダリアだがグレイとハシントに視線を移した。
「でも二人も手馴れた手つきだったわ」
「ああ、俺は孤児院出身だからな。家事は当番制だったから一通りはできるんだよ」
「……あら、ごめんなさい。辛いことを聞いてしまったかしら?」
「いや、物心ついたころからすでに孤児院にいたから別に辛いことはない」
むしろそういう態度を取られるほうがよほど堪える。
「そう、ならよかった。ハシント君は?」
「弟が5人、妹が4人いたんでメシも作らないといけなかったんスよ」
「あらあら大家族ね。ご両親も頑張ったわねえ」
「ふはははは!確かにな!何回やったのだろうなあああ!」
下品なネタを言い大笑いするサッカの頭を軽くはたいておく。
「食事前にする会話では無いだろ、それにそうからかってやるな」
「……別に気にしてないっスよ」
そういいつつもハシントは少しへそを曲げてしまったようだ。それを見てサダリアはハシントの手を両手で包み腰をかがめて上目使いをして謝った。
「ごめんなさいねハシント君。はしたないこと言ってしまったかしら?」
「え、ええいや、べ、別に本当に気にしてないっスから!」
「ははっ顔が赤いぞハシント!」
「ふふっ」
「く、くそっテメエさっきは人にからかってやるなとか言ってたくせに!」
「ふはははは!まるで熟れたトマトのようだ!美味そうな顔になってるぞ!」
「あらあら男同士で……ふぅ」
「いや、なにを想像してんスか!なに満足した顔してんスか!」
「ふふふ、別に」
「ふははははは、おもしろいな貴様らは!」
「俺はお前の存在が一番面白いと思うが……そろそろいい湯で具合だな。」
「おっといかん!……うむ、よいアルデンテ具合に仕上がったな!あとは香り付けをして完成だ!」
美味しそうな香りを休憩所の台所に満たし具沢山のリゾットは完成したのであった。




