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「「「……」」」
アリエッタは思う、なぜお兄様は私をこの馬車に乗せたのだろうか?
「「「……」」」
馬車の中は誰も喋らずひたすら無言であった。リードという名の感じの悪い魔術師はこっちと視線を合わせたくないのかずっと窓から外を見ている。グレイっていう大きな人は何か板のようなものを見ている、お兄様の友人らしいから悪い人ではないと思うけど少し怖い。唯一この馬車で同じ学年のハシントは床で不機嫌そうな顔で武器の手入れをしていてとても声をかけられそうに無い。お兄様はずっと手綱を操って前の馬車と一定間隔を取り続けているし大きな声じゃないと御者席まで届きそうに無い、それにこんな状況で大きな声をだす勇気も私には無い。
「……あはははは……」
前の馬車からは微かに笑い声が洩れてきている、羨ましい。
「「「……」」」
無言。
馬車の隅のほうで縮こまり座っている私。
この静寂を破ったのはハシントだった。
「……先輩、これあんたの得物っスか?」
武器の手入れをしていたハシントが近くに置いてある布が巻かれた3メートル近い長い棒を指差し少々乱暴な物言いでグレイに聞いている。
「ん?ああ、そうだが」
板をしまいグレイがハシントの方を向く。
「見てもいいっスか?」
「構わん」
「おい」
「ひゃあっ!」
急にハシントに声をかけられ思わず驚きの声を上げてしまう。
「そこのとってくれ」
「あ、は、はい!」
慌てて床の棒を取ろうと手を伸ばした。
「きゃっ!」
しかし予想以上の重さにバランスを崩し前に倒れる。馬車の床が近づいてくる、目を閉じて衝撃に備える。しかし肩にかかる衝撃に目を開けると叩きつけられる直前に素早く席を立ったグレイが肩を支えてくれていた。リードは五月蝿そうにこちらを一瞥したがまた窓の外を見始めた。
「大丈夫か?」
「ひゃいっ!」
予想以上にグレイの顔と接近しており返事と驚きが混じった変な言葉を叫びつつ慌てて身を引いてしまう。グレイは棒を片手で拾うと床の上に座っているハシントの傍に置いた。
「ほれ」
「ども」
「あ……」
今更ながら助けてくれた礼も言わずに他人の顔を見て飛び退くという失礼な行為をしてしまったことに気づく。
「ご、ごめんなさい!」
「ん?何か謝られるような事をした覚えは無いが」
グレイは首を傾げている。
「あ、あのさっきは助けてもらったのに、失礼なことをしてしまって……」
「ああ、まあこんなむさい男の顔が近くに来れば驚くだろう。別に気にしていないから謝る必要は無いさ」
少々自嘲気味に言うグレイ。間近で見た顔を思い出す。確かに端正な顔つきという言葉は似合わないけど顔は整っており、眉は太く目付きは鋭いが穏やかな色を浮かべていた。肩を支えてくれた腕は逞しく、御伽噺の王子様などとはとても似てはいないが男らしさを前面に押し出したような精悍な男性であった。
「どうした?顔が赤いぞ」
「ひゃ!?大丈夫です!」
いけない、もっとしっかりしなければ!
「ならいいが。気分が悪くなったならばすぐ言うことだ、体調不良を隠し続けるほうが何かあったときに問題となる」
「は、はい」
ハシントは話し合っている二人に目もくれずに布を解いていた。
「へえ、こいつはすげえ」




