3-8
一息に喋るとジャミルは一呼吸おいて続けた。
「……さらにアミン村に向かう北西の小道は3班が哨戒を行う、しばらくの間は3キロほどの距離を置きこの道とほぼ平行に伸びている道だ。何かあれば緊急信号で連絡を取り合うことになっている為留意しておけ……何か質問はあるか?」
「はいっ!」
元気よく手を上げたのはトニー、その表情には僅かな困惑が見て取れる。
「……何だ?」
「我々はどうして一番安全なこの街道に配置されたのでしょうか?」
「……今年は2年が多い、どこかの班で多く2年を引き受ける必要がある。おそらく君は自分の能力が低くてここに配置されたと感じたかもしれんがそれは間違いだ。他の班でも2年が多いところは比較的安全な道を哨戒することとなっている、君がここに配属されたのは単なる偶然だ。さらに言えば本当に危険な街道は学生なんぞが哨戒する筈が無い」
ジャミルの言葉にトニーは笑顔を浮かべた。
「わかりました!ありがとうございました!」
「……他に質問がある者は?」
「はい!」「はい!」
同時にチャベル兄妹が手を上げる。
「……ではロッジの方から」「「同じ質問です!」」「……」
「……まあいい、言ってみろ。じゃあロッジが代表してして言え」
「はい、最近何か魔物が増えてきているっていう話を耳にしたのですが大丈夫なんでしょうか?」
「確かに最近、具体的には半年くらい前からだが魔物と遭遇する回数が増えてきているらしいな。俺が2年の初めのときは哨戒中に魔物に遭遇することはあまり無かったんだがなあ」
何か最近おかしいなあとラインは首をひねる。
「私も少し気になりますね。」
サダリアも顎に手を当てて話しだした。
「ラインさんが言うとおりここ半年魔物は増加傾向にあるようです。さらに今までは遭遇しても低級の人魔、獣魔がほとんどでしたが・・・他の種の悪魔や中級の悪魔が出現するようになってきたらしいです、現にこの前の哨戒任務でも死傷者がでたそうですわ」
「中級か、少々厄介だな」
出会った事は無いがもし教わった通りの力を持つのならば危険だ。
「……中級ってそんなやばいんスか?」
ハシントも少し興味を引かれたのかグレイに聞く。
「一般的に悪魔の階級と強さは明確に比例するといわれる。低級の悪魔であれば一人でも倒せる程度の力であるし学校でも捕獲して練習台にしたりしていただろう」
「ああ、そっスね」
「だが中級では確実に倒すには一個小隊、上級にいたっては一個大隊でも微妙なところらしい。さらに言えば貴族級あまりに強力な力を持つために国単位で戦う必要があるといわれているけど……まあここ180年は何十年かに一度上級悪魔が出る程度らしいな」
「で、では中級までなら私たちでもなんとかなるんですか?」
おどおどとしながらアリエッタが聞いてくるがあまりに甘い希望的観測が出来ないように答える。
「いや、先程の話はあくまで正規軍であることを前提としている。さらに言い忘れていたが悪魔の種によっては中級といえども別の種の上級に匹敵する強さを持つものもいるし低級でも竜魔の巨体はかなりの力を持っている。まあ中級を発見したならば手を出さずに近くの街まで行き応援を連れてくるべきだろう」
「ひ、ひええ」
脅すようだが危険は極力避けるべきだろう。名誉の戦死なんてまっぴらだ。
話を始めた班員を抑えるべくジャミルはわざとらしく咳払いをした。
「ゴホン……確かに魔物が増えているという事実は懸念事項であろうがそれを今話し合ったところでどうしようもない事だ。さらに言えば我々は迫る脅威から街道を守るべく哨戒任務にあたるのであり魔物が増えてきたのならばより一層奮起して任務に当たるべきだ。戦うのが武人としての本懐、脅える必要など無い。」
「ふはははは!ジャミルの言うとおりだ!腕が鳴るではないか!」
不安な表情を浮かべていた班員も顔を引き締める。
「……では、そろそろ馬車に乗って出発するぞ」
「あ、あのお兄、は、班長!1つ質問が」
「……なんだ?」
「馬車、2台ありますけど……どちらに乗ればいいのでしょうか?」
馬車2台と斥候用の馬が1匹、ちなみに片方の馬車にはすでにリードが入りわざとらしく広いスペースを独占している。
「……」
ジャミルは班長として早速壁にぶつかったのであった。




