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「……全員集合せよ!」
ジャミルの号令に従い全員が学部ごとに整列する。
「……これより新暦180年度第一回街道哨戒任務を開始する」
「「「はっ!」」」
全員が敬礼を行いジャミルも敬礼を返す……もっともリードだけは敬礼をせず憎らしげにジャミルを睨んでいた。
「……だが慌てる必要は無い。まずは自己紹介をやってもらおう。一般兵科、騎士、魔法学部の順で頼む、気を楽にして喋ってくれていい」
リードの言葉にまずラインが一歩前に出て声を上げた。
「俺は3年のライン=ガナッシュだ、今日はまあ結構見知った奴もいるんで驚いた。よろしく頼むぜ」
次に長身でウェーブがかったブロンドの髪を伸ばした女性が続いた。
「同じく3年のサダリア=ルーデリアです。気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
にこやかにサダリアと名乗る少女は挨拶をした。場の空気が少し穏やかなものになる。
「自分は2年のトニー=マッカイナです!任務は今回が初めてなので先輩方、どうか御指南の程よろしくお願いします!」
元気よく挨拶をしたのは小柄で毬栗頭の男であり、少年と言えるほど顔は幼く見える。しかし筋肉は細身ながらも締まっていることが伺える。
「……2年、ハシント=ゼレンキンっス」
ハシントと名乗る短い茶髪の少年はぶっきらぼうに挨拶をした。
次に緊張からかカチカチの動作で足を一歩前に踏み出すのは黒髪をツインテールで纏めた少女であった。
「に、2年のアリエッタ=コンポールです。あ、あの、よろしくお願いします。」
か細く小さな声で言った。
「コンポール?」
ラインが少女が名乗った姓に反応した。
「……俺の妹だ」
「おお!ジャミルに妹がいたのか!ふはははは!あまり似てないな!」「……ひっ」
大声で喋る巨漢のサッカにアリエッタは脅えるように半歩下がる。ラインがその様子を見て笑いながら言う。
「おいサッカ!あまり驚かせてやるなよ!」
「なあああにいいい?我はこれが普通だぞ!」
「ひゃあ!」
さらに大声を出すサッカにさらにもう半歩下がる。そこにジャミルが助け舟を出す。
「……そろそろ静まれ、次は騎士学部だ」
一拍おいてからジャミルが続ける。
「……まずは俺からだな。騎士学部3年ジャミル=コンポートだ。今回はここの班長を勤めさせてもらう、よろしく頼む」
「2年、ロッジ=チャベルです!」「2年、マルカ=チャベルです!」
まったく同じタイミングで言葉を発したのは小柄で顔も背格好も瓜二つな2人であった。二人ともロッジと名乗った方が髪が短くマルカと名乗ったほうは肩まで髪を伸ばしている。
「貴方たちは双子なの?」
「はい!兄です。よろしくお願いします!」「はい!妹です。よろしくお願いします!」
またしても同じタイミングで答える。
「……騎士学部は以上だな。次は魔法学部だ」
サッカが我先にと一歩前へ出て大声を発する。
「ふはははは!我が名はサッカ=ロータス!2年共精々頼りにするがいい!」
手に持つウォーハンマーを掲げながら笑うサッカ、巨躯と相まってその姿はどう見ても魔術師には見えない。制服であるローブが無ければだれも魔術師とは思わないだろう。
興奮するサッカに落ち着け、というようにその肩に手をかける。そのまま一歩前に出ると無難に自己紹介をした。
「魔法学部3年のグレイ=リラッタ、よろしく頼む。ああ、こいつも同じ学年だ。サッカ、自己紹介なのだから学部と学年くらいは最初に言え」
「おお!そうだったな!スマンスマン!」
「フン、落ちこぼれどもは本当に品がないな」
リードは真底嫌そうに顔を歪め吐き捨てる。
「魔法学部3年リード=レイヤードだ。精々僕の足を引っ張らないで貰いたいね」
周囲から非難の視線が向けられるがそれを蔑むような目で見返すと一人馬車のほうへ歩いった。
「何だあいつは……」「感じ悪いですね」「ちっ!」「ちょっとひどすぎです。」
あまりのリードの行動にあまり気の長くない者達が不満の声をあらわにする。声を上げない者でも不満そうな顔や困ったような顔をしている。
「……静かにしろ。これから今回の任務についての詳細を説明する」
「班長、一人いませんがいいのですか?」
「……仕方あるまい、後で伝えておく」
ジャミルは思わずため息をつく。班長という立場上表立って不満は言えないがこれからのことを考えると先行きが不安である。
「……では今から今回の任務についての説明を開始する。今回はディーラから南に位置するルーベルタウンまでの街道の哨戒を行う。知っての通りルーベルタウンは首都から北へ向かう為の交通の要所であり頻繁に正規兵による魔物駆除が行われている。よってここの街道は整備されており他よりも安全性も高い、悪魔と遭遇する可能性もかなり低いだろうが決して油断はするな」




