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「俺はその人を先生と呼んだ。毎日孤児院を抜け出しては足繁く通ったものだ……先生は色々なことを知っていて俺に教えてくれた。孤児院の先生に聞いても分からなかった様々なことを」
今思えば自分の幼き日の理解者は先生であったのだろう。
「先生は『私たちはこの世界に産まれたが、この世界のことを知らない』と言ってた。そして自分はこの世界の謎をもっと知るために生きているのだ、と。魔法やその基となる魔力も先生にとっては解き明かすべき謎だったらしくて熱心に色々なことを語ってくれた……退屈な話かな?」
「別に、貴方が勝手に話してボクが勝手に聞いているだけ」
どうやら少しは興味を持ってくれているようだ。
「……そうだったな。まあ、先生からこの世界は様々な法則や理論の上に成り立っている、ということを教わった。魔法以外にも物理、化学、数学、あらゆるものが新鮮で、何というか、そう、自然だったんだ」
「自然?」
「ああ、おかしな話だが……確立された理論を知ることで自分が何故だかとても安心できたんだ」
「へぇ……」
「まあ先生は半年くらいで引っ越してしまったが……別れの時に自分の研究の成果、と言ってこれをくれた」
ローブの裏ポケットから手帳サイズの額縁のようなものを取り出すと縁に囲われた透明な板の部分に手を当てた。
「!?」
突然透明な板の上に文字が生まれる。
「マジックアイテムさ、先生は自分がいなくなった後も勉強できるように色々な本の内容を押し込んだコイツをくれたんだ」
「嘘、マジックアイテムは今ではもう作れないはず」
「確かに、現存するマジックアイテムの殆どは古代魔術遺跡から発掘されたものだからな、信じられんのも無理も無い……だが現にここに存在する」
「む……」
「ま、この真偽は今はいいさ。こうして俺は先生に感化されてしまってな、ここの学校なら金もかからないし、それでここの魔法学部に入った。ここなら大きい学校だし多くの知識を得られることが出来ると思っていたのだが、な」
この学校に入学し、絶望した日々を思い出すと自然と声が不機嫌なものとなっていってしまう。
「けど?」
「率直に聞くが、絵画魔法についてどう思う?」
「どう、って聞かれても……絵を見て、イメージを作って、呪文を唱えて、そうしたら魔法が出て」
「そうだ!そこが俺には気に食わん!」




