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一度禁を破って以来時間に余裕があるときは深夜、封印区域に忍び込み本を読み漁った。
古の老魔術師が記した魔法に関する考察。
誰にも理解されなかった理論。
乱雑に積まれた古今東西の物理や化学の論文。
年代不詳の数式や公式が記されたノート。
かつて提唱され哄笑に終わった仮説。
膨大な本の山の中には本当に役に立たない情報や間違った仮説、もはや遺産と化した古ぼけた学術書なども少なくはなかった。しかしその中にも時折みつかる淡く光る宝玉、それを見つけ、読むたびに新たな疑問と知識が流れ込んでくる。疑問は新たに得られた知識により解決され新たな知識となり情報の海を巡る。理論は新たな理論を生む母であり、子であった。
そんな日々が続き、いつものように封印区域の奥で夢中になって本を読んでいたが。
「っ!!」
突如として聞こえた声にならない叫びが聞こえる。
はっとなり我に帰り声がした方向に向くとそこには狼狽した様子で、しかし懐から杖とカードを取り出しているローブを纏った小さな人影が見えた。
「……天かける光、疾く速きものよ。」
呪文の詠唱が聞こえる、記憶が正しければこれは雷の魔法だ。これを俺に放つつもりらしい、放たれた電流は恐るべき速さをもって体を貫くだろう・・・だが。
「轟音と共に駆け、貫き通せ!『サンダーボウ』!」
呪文の完成と共に杖の先端から雷の矢が。
―――放たれなかった。
「!?」
その隙を逃さず突っ込む。魔術師の腕を取り、うつ伏せに押し倒すとその拍子に被っていたフードが捲れる。
「リリア=エンク!?」
なぜ天才と名高い学校の有名人がこんなところにいるのか。
「うっ!」
強く抑えすぎたのか呻き声をあげるリリア、その様子を見て少し力を緩めると強い口調で問う。
「何故君がここにいる?」
「ひっ……」
怯えた表情をその顔に浮かべるリリアに今度はゆっくりと問うことにする。
「もう一度聞く。どうやって、何の目的でここに来た?」
「……ここへは、鍵を使って。」
リリアの目線の先には床に落ちた金色の鍵があった。おそらく組み伏せたときに落ちたのだろう。
「あの鍵は司書しか持っていない筈だが?」
「……拝借した。」
「え?」
今なんと言ったのか。
「カウンターの鍵庫から。」
「……拝借、ねえ。」
思っていたよりもアクティブな人物らしい。
「……」
「まあいい、次だ。生徒である筈の君が何故ここへ来た?」
まあ自分も人のことは言えない不審人物であることは間違い無いが。
「……」
「答えろ」拘束する力を強める。「うあっ……」
威圧するかのように睨みつけ、床に足で叩いて恐怖心を助長させてみる。
「……もっと……から」
「何?聞こえんぞ」
「……もっと、強くならないといけないから」
そう言い放つリリアの顔は脅え、震えていた。断片的な回答ではあるが嘘はついていないらしい……彼女も非正規にここへ入ったのであれば目的によっては敵対する必要は無いかもしれない。




