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本は様々な知識を伝える。人一人の一生では到底得ることの出来ない膨大知識を読む人々に与える。元来自分は本を読むことが好きであった。

 思想、文化、芸術、歴史、技術、そして理論。

 数多いる動物の中でも自らの住む世界の成り立ちを疑い、解き明かそうとする生き物は人間だけであろう。

 何故物が落ちるのか、なぜ枯れ木に火がつくのか、生物がどのように生きているのか、そして死ぬのか。

数えればキリが無いほどの法則の上に人間は生きている。その法則を知ってか知らぬかは別として。

 人間が神秘を解き明かし技術として確立する、確立された技術は新たな神秘を解き明かしまた技術となる。

 知れば知るほどに世界の精緻かつ壮大な仕組みが露になっていく、そしてその一部として人間も存在する。

 ……そんな『理論』を知ることが好きであった。世界の謎が一つ解けような、それは他のどんな遊びよりも心を湧きたてた。

 この学校に入ったのも新たな知識を求めてのことであり、さらに学費・食費まで無料とくれば自分にとっては絶好の場所、もとい他に選択肢が無いようにさえ思えた。

 魔法学部を選んだのも他と比べて知識を得るにはもってこいの場所だと思ったからであるのと、かつて魔法にも『理論』があることを数奇な出会いにより知ったからである。幸い魔法が使えることとある程度の筆記試験での点数が入学の条件であったため自分の少ない魔力でも不合格となることは無かった。

 入学式の日、施設案内にて国内一と紹介された図書館は今まで見たことも無いほどの本に埋め尽くされており、思わず歓声を上げそうになった程であった。これからの生活は素晴らしいものであるだろう、そんな思いが生まれこれからの学校生活に大きく心を踊らせたのであった。

 だが、その期待が裏切られるのにはあまり時間はかからなかった。

 魔法学部においての魔法とは絵画魔法が全てであった。勿論絵画魔法が魔法の主流であることは周知の事実であるし現に絵画魔法を操る魔術師によって悪魔から人々は守られているという実績がある。しかしながら、魔法を極めて神秘的かつ超常的なものとして確固たる『理論』を求めず曖昧なる『想像力』を持った魔術師の能力を伸ばそうと様々な絵画と詩を集め、後はひたすら実戦における魔術士の戦い方やいかに魔法が凄いか、という歴史を読み上げていくだけの授業であり、辟易とさせた。

 図書館においても絶望を味わわされることとなった。膨大なる蔵書量を誇る図書館であるが、一般に公開されているのは歴史書・風土誌、などの社会に関するものや武器や防具、戦闘における各種指南書や戦術書などの国防に関するもの、文化・芸術に関するもの、多種にわたる絵画魔法におけるイメージの一例などが書かれた魔法指南書、絵画魔法一覧、聖女とそれを奉る修道院を讃える聖書、王家の偉大さや真実味の薄い逸話が書かれた本、各種文学作品その他諸々。

 空いた時間や夜に図書館を訪れ片端から本を読んでいったが『理論』が記された本はあまりに少なく、建築論や農学の方が非『理論』的なものよりも食指を動かされた。むしろ文学作品や歴史書、戦術書の方が感じ入る所が多かった程でありそれほど魔法に関する本は自分に失望を与えたのであった。

 一年と少し、それにより一般公開されている本の殆どは読み終えてしまったが、求めるほどの収穫は得られなかった。それはこの世界が未だ『理論』よりも『幻想』に大きく傾いていることを示していた。

 そんなある日、何度も図書館に通う内に顔見知りとなった司書から興味深い話を聞くことになった。それは学校上層部や研究所から「需要無し」とされた本やかつての悪魔との戦いで消失し、現在では使い手のいなくなった魔術書、その他危険な思想や技術、人を狂わせるような絵画魔法書などは纏めて封印区画に整理されることもなく押し込まれる、というものであった。

 封印区画、一般生徒は立ち入り禁止で誤って人が入らないようにその名の通り魔法で扉が封印されている区画。図書館の地下に存在する空洞を利用して作ったものとされており膨大な空きスペースが存在し普段は使わないものを入れる倉庫として格好の場所となっている。

 仮に、一般生徒がここに忍び込み関係者に見つかったならば退学程度では済まされないであろう。

 しかし、それでも。

 封印区画の扉と対峙する。この扉は学校の上級魔術師が丹精に『想像力』を使い、何人も入らないようにと強く『願い』封印が施されたのであろう。

 だが、それは自分にとってはひどく稚拙なものに見えた。例えるならば「この宝石の入った箱の蓋を開かないようにするにはどうすればいいか?」という問いに「テープを貼っておけばいい」というような子供のような答えを具現化したかのようなものであった。何も分からない幼児には効果があるだろう、しかしテープとは何かを知っている人間相手でははさみを使い簡単に開けられてしまう。「錠と鍵を作り、他人に勝手に開けられないように持っておく」のであればその蓋を開けるのは原理を知っていてもかなりの労力を必要とするだろうが。

 好奇心は猫をも殺すという言葉があるが、人間は好奇心の生き物であると思う。他の動物であれば危機を感じれば逃げるであろうし失敗を犯したならばそれを避け続ける。しかし人間は挑む。そして新たな資源を勝ち取るのだ。故に自分は行く。

―――そのような言い訳をしつつ、扉を開いた。


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