05.旅立ち
この回も短編を追加変更した内容です。
11/6:誤字修正
あれからさらに3日が経ち、私の熱もようやく下がり声がでない以外は元通りと言ったところです。
未だに私に関しては説明されてないのですが、熱でほとんど寝てたので仕方ないのかもしれません。
でも、そろそろ説明してくれるはずです。
今日もお医者様と神官様のセットで診察と言う今までにない状態の日々です。
クリスは明日から学院が再開するそうで、先程学院に向かいました。
うらやましいです。
熱は下がったのにベッドから出ることは許されず、サラが持ってきてくれた本を読んでいるとお父様が部屋に来てくれました。
「アリア話がある」
と厳しい表情で言うお父様の言葉に私は頷くことしかできませんでした。
お父様が言うには、私の肩には闇の宝玉をもちいた呪術の後があり、その影響で声がでない事。
この国の教会では解呪が出来ない為、隣国のルーチェに行くことになった事。
学院はしばらく休学する事。
出発は私の体調次第という事。
お父様はそれだけ言うと私の頭を撫でて部屋を出ていきました。
いつもと様子が違うお父様に疑問もあります。
お父様は何かを隠しているのではないかと思うのです。
だってお母様には最初に会ったきり、兄様と姉様には帰ってきてから一度も会っていません。
姉様は既に嫁いでいるし、兄様も近衛の仕事があるけどもそれを引いても一度も会わないのはおかしい気がします。
でもいまそれよりも問題なのは私が隣国に行く事です。
あの時だけでレイヴィン様の件は回避できたと思っていいのでしょうか。
物語と時期は違ってるし、ここは物語とは異なる世界なのでしょうか。
それとも物語と違う動きをする私を遠ざける為の展開なのでしょうか。
そして学院の件は何かわかったのでしょうか。
誰かに相談するわけにもいかず、あの後もお父様に聞こうとしても余計なことは考えずに治療に専念しなさいと言われてしまいました。
治療と言っても痛みがあるわけでもないので、なんとなく他人事な感じなのですよね。
あれこれ1人で考えているうちに出発日になってしまいました。
荷物はサラが全てまとめてくれました。
サラとリゲルは隣国までともについてきてくれるそうです。
私はお父様から頂いた石板を首にかけ、玄関に向かいます。
声が出ない私の為にお父様が作ってくれたのです。
「「アリア!!」」
玄関でセシリア姉様とティルフ兄様が抱き着いてきました。
「お父様ったら今までアリアの事教えてくれなかったのよ。
突然、怪我してルーチェ国に行くって連絡がきてびっくりよ。
知ってたら看病に来たのに、出発日にしか来れないなんて!!」
「学院の事は知ってたが、アリアの事はクリスに聞くまで知らなかったんだ」
「「どうして教えてくれなかった(のかしら)」」
姉様と兄様がお父様に冷たい視線を送りますが、お父様気にしてません。
今回の件はお父様、いろいろ隠し事ありそうですね。
「それにしてもアリアの声が聞こえないなんて淋しすぎるわ」
「いつもはうるさいからな。
静かすぎて我が家じゃないみたいだ・・・いっ」
兄様の言葉に私は遠慮なく足をおもいっきり踏みます。
「相変わらず、手が早い・・・」
手じゃなくて足ですわと思いながらツンと顔をそむけると兄様が苦笑します。
「一昨日、学院に顔出ししたらレイヴィンが殿下達を生徒会室でしごいてたぞ。
珍しく行動的なレイヴィンをみたから雪でも降るんじゃないかと思った程だ」
兄様の言葉に私は驚きました。
殿下達をしごいているということは和解したということでしょうか。
色々聞きたいことはありますが、とりあえずレイヴィン様の危機は去ったと笑顔になります。
そんな私をみて兄様が頭を撫でまわします。
せっかく整えた髪型がぐしゃぐしゃになるのでやめてほしいです。
「アリア」
背筋を伸ばし、お母様の顔をみつめます。
そして今日も外に行く心得を言います。
私もうすぐ16になるのに未だにお母様の中では小さい子なのでしょうか・・・。
知らない人について行ったりなんてしませんわ。
そんな私の心の声が聞こえたのかお母様は苦笑して、私を思いっきり抱きしめてくれました。
「気を付けていってらっしゃい。
帰ってきた時には貴女の声を聞かせてね」
お母様の言葉に私は笑顔で頷きます。
お父様や使用人達に挨拶をすると私は馬車に向かいました。
隣国へ行くには日数がかかるので馬車は通常より立派なものでした。
馬車の扉にはシュテルン公爵家の紋章があります。
公爵様が馬車を貸してくれたのでしょうか。
そう思いながら扉をあけて私は固まりました。
だって馬車の中にレイヴィン様がいるのです!!
学院にいるはずの方がどうしてここにいるのでしょうか。
困惑しているとお父様が背後から
「ルーチェ国に行くのに案内人がどうしても必要でね。
レイヴィン様が立候補してくれたんだよ」
そういいながら私を馬車に乗せてくれました。
「レイヴィン様、娘を頼みます」
「お任せください」
笑顔で答えるレイヴィン様に私は再び固まります。
こんな笑顔のレイヴィン様ははじめてです。
何がどうなっているのでしょうか。
困惑してる私を余所にお父様とレイヴィン様は話を終え、馬車が動き出しました。
「ヴィル達とはじめて本音で話し合いをしてきたよ」
馬車後動き出してしばらくしてからレイヴィン様が小さく言いました。
「私はずっと言いたいことを言う前に諦めていたんだ。
何を言ってもだめだろうと。
今回の事もカミーラ嬢に惹かれていくヴィル達をただ見ているだけだった。
あの日ももう以前のように笑いあえる仲には戻れないんだと何もせずに諦めていた。
だからあの時アリアがあの場から強引に私を連れだしてくれら時、嬉しかったんだ。
私は孤独ではないのだと思えた」
レイヴィン様の言葉に私はただただ驚くだけです。
内容にもびっくりですが、こんなにしゃべるレイヴィン様は初めてです。
「だから今回の事、アリアの為に何かしたいと思ったんだ。
ヴィル達には今まで私達がフォローしてきた生徒会の仕事全部押し付けてきたし、
家督の事もセドに任せてきた」
押し付けてきた?
もともと殿下の仕事だったから何か違う気もしますが、レイヴィン様がそのようなことを言うのはものすごく意外です。
そして家督を任せたという事はレイヴィン様は家を出たという事でしょうか。
頭がパニック状態になっているとレイヴィン様が私の手を握ってくれました。
レイヴィン様の顔を見ると笑顔でした。
「アリアの声が戻るまで私はどこまでも君の側にいると約束しよう」
この言葉にわたしは涙がでました。
物語では名前すら出なかったのに憧れの人を助けられ一緒にいられる。
まるでヒロインのようだとわたしは嬉しくて涙を流しながら微笑むのでした。