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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あのとき俺は〜小・中学校編〜

作者: じゅり

多少のトラブルはあったものの、それなりに平和な幼稚園時代を終え、俺は小学生になった。

卒園と入学の間に引っ越しがあったので、周りは知らないやつだらけだった。

ここでも俺はなぜか異性に囲まれた。

幼稚園時代の写真を見ると、小さくて目がくりっとしたなかなかの美幼児だったようだが、その可愛らしさは成長の過程で失われる類いのものだったらしく入学式の写真には今の俺の面影が窺える、平凡ながきんちょが映っていた。

容姿が平凡になっても、俺の『女は守るもの』という考えから派生した優しさは異性には十分魅力的に映ったらしい。

どこに行くにも、何をするにも女の子たちは俺についてきた。

ある時、そんな俺を「カマ野郎!」とからかうクラスメートがいた。

…カマ野郎ってなんだ?

他にも何かたくさん言われたのだが、その大半の言葉の意味がわからなかった。

意味がわからない以上、なんて返答すればいいのかわからない俺は戸惑った。

わからないことは、わかる人に聞けばいい。

だが、彼は俺に怒っているようだった。

おかしそうに笑いながら言ってはいるが、彼の目は笑っていないし、気のせいでなければ最近彼と目が合うと睨みつけられる。

わからないことが多すぎて、何から聞けばいいのかもわからない俺に、彼に返せる言葉はなかった。

だが、これだけ怒っているからには俺は何かしてしまったのだろう。

気のせいで済ませずに、睨まれたと感じたときに彼と話をするべきだった。

不甲斐ない自分に溜息が出た。

すると彼は顔を真っ赤にして騒ぎだした。

今度こそ明らかに怒っている。

まともに返答しない俺に、彼が怒るのは当然なのだが、女の子たちはそうは思わなかったようだった。

気落ちと混乱を伴ったせいか、彼らと彼女らの言い争いの内容のほとんどが俺には理解できなかった。

こんなに人の言う言葉が理解出来ないのは幼稚園以来だった。

だが、言い争いという名の言葉のキャッチボールは、規模も熱も増しながら続いている。

幼稚園のあのときは、俺には理解出来ない言葉を理解する園長先生がすごいのだと思ったが、もしかしたら…俺の頭が、悪くて理解出来ないだけなのではないだろうか。

いや、間違いない。そうなんだ。

だって、言い争いは俺を除くクラスほぼ全部に拡大していた。

成績がいいから、みんなが褒めてくれるから、俺は勘違いをしていたようだ。

勉強が出来るからといって賢いわけではない。

俺はそういう類の馬鹿だったらしい。

気づいたら涙が止まらなかった。

幼稚園以来に大泣きした俺は、知恵熱を出して翌日学校を休んだ。

放課後クラスの女の子たちがお見舞いに来てくれたらしいが、俺はちょうどぐっすり寝ていて会うことは出来なかった。

熱も下がり夜に起きて、夕飯を食べ終わった頃、熊田くんとお母さんが訪ねて来た。

玄関先で謝り続ける熊田くんのお母さんに、母は困りながら落ち着くよう諭し、リビングに案内した。

母も実のところ慌てていたらしく、当事者でありながらとり残された俺たちは、閉じるリビングのドアを唖然として見送った。

昨日のことで熊田くんたちが来てくれたのはわかる。

だが、なぜ熊田くんのお母さんがあんなに謝っていたのか、目の前で熊田くんがどんどん泣きそうな顔になって唇を噛み締めだしたのかが、俺にはさっぱりわからない。

せっかく訪ねて来てくれたのに、いつまでも玄関で立たせておくべきではないだろうと、とりあえず俺の部屋に招き入れた。

昨日何を怒っていたのかはわからないが、返事をせずさらに怒らせてしまったのは俺だ。

俺は熊田くんに謝った。

熊田くんを見ると、驚きから怒り、困惑を表情に表したあと、最終的には玄関で見た泣きそうな顔になった。

なぜそんな顔をするのかわからなくて、オロオロしていると、熊田くんは唇を噛み締め俺から顔を背けた。

そして小さな声で早口で言った。

「俺こそごめん」

なぜ、何を謝られたのかわからなかったが、緩んだ空気に嬉しくなった俺は心のまま口にしていた。

「僕、熊田くんと友だちになりたい」

俺の言葉にさっき以上に驚いた顔をした熊田くんが、なんだかおかしくて笑うと、熊田くんは顔を真っ赤にして何も言わずに部屋から出て行った。

その勢いについて行けずポカンとしていると、リビングと玄関のドアが立て続けに開閉する音がして、母が俺の部屋のドアを開けた。

母はとても嬉しそうに言った。

「良かったわね」

「?」

「熊田くん、優斗のお友達になってくれるって!」

「!?」

俺に初めて男友だちが出来た瞬間だった。



翌日学校に行くと、休んだ俺を心配してくれた女の子たちに囲まれた。

昨日のお見舞いのお礼と、一昨日の騒ぎを詫びた。

みんな優しさで俺を庇ってくれたが、あれは返事をしなかった俺が悪いんだ。

女の子たちは困惑していたが、俺はその場にいたみんなにも謝った。

クラス全体がざわめいたが、教室の後方から声がかかった。

「優斗!ここ座れよ!」

熊田くんの声に一瞬クラスが静寂に包まれ、すぐにさっき以上にざわめいたが、俺にはもう聞こえなかった。

「熊田くん、おはよう!」

どことなく誇らしげな顔をした熊田くんの隣の席に、俺は笑顔で座った。

うちのクラスは毎日好きな席に座っていいことになっている。

朝座った席でその日の授業を受けることだけが決まりごとだ。

他のクラス、他の学年は学期ごとに席替えがあるらしい。

俺は幼稚園のときから毎日席替えが当たり前だったので、この話を聞いたとき驚いた。

熊田くんは物知りだ。

熊田くんと話すようになって、日々いかに自分が世間知らずだったかを思い知らされるが、そんな毎日はとても刺激的で楽しかった。

熊田くんと友だちになるまでは、教室に来ると女の子たちが俺の席を用意してくれていて、なんの疑問も抱かずそこに座っていた。

教室の前方に女子と俺、後方に男子が座っていることに気づきもしなかった。

熊田くんは、お前も男なんだから後ろに座らなきゃだめだと教えてくれた。

今まで前方に座っていた俺は、もしかして女の子扱いされていたのだろうかと、かなりのショックだった。

いやいや、女の子たちは、席がなくて困ってはいけないと用意してくれたに違いない!

優しさを断わるのは辛いが、不甲斐ない自分に決別を誓い、女の子たちに言った。

「優斗くん!今日は私の隣…」

「ありがとう。でも僕これからは熊田くんの隣に座るから。…(今まで気を使わせちゃって)ごめんね」

「!!!???」

女の子の優しい気持ちを断わるのが辛くて、俺はそれ以上顔を合わせていられなかった。

熊田くんの呼び声に答えてその場を去った俺には、女の子たちの驚きと絶望、そして熊田くんへ鋭い視線が向けられていることに気付く余裕はなかった。

昨日の放課後、わざわざ俺の家に来て「お、俺の隣の席、これからはお前の席だから!」とだけ告げて帰って行った熊田くんは真っ赤な顔をしていたけど、今朝の熊田くんは余裕の笑みを浮かべていてなんだか少しかっこいい。



俺は知らなかったけれど、熊田くんはこのクラスのリーダー?ボス?のようなものらしい。

最初は女の子たちが俺を心配をして、以前のように自分たちと過ごそうと誘ってくれたが、その度に熊田くんが断ってくれた。

女の子とばかり遊ぶのは男らしくないと教えてくれた熊田くんに、女の子の優しさを断わるのがすごく辛いと言った俺のためだ。

熊田くんは優しくて、強い!

たまに女の子たちと喧嘩になってたけど、俺のせいなのに俺を責めることは一度としてなかった。

自分で頼ったくせに、女の子が泣いてしまったのを見て慌てるあまり「言い過ぎだよ!謝って!」と熊田くんに言ってしまったときも、俺自身が自分の卑怯さと無思慮に青褪めたにもかかわらず、熊田くんは俺の言うまま謝ってくれた。

もちろん俺はそのあと、熊田くんに必死で謝ったが、熊田くんは「いや、俺も確かに言い過ぎてたし。ごめんな」とまで言ってくれた。

俺は熊田くんの男らしさに感動して、涙が止まらなかった。

そんなかっこいい熊田くんの隣に情けない俺がいていいものか、他の男子に聞いてみたことがある。


「何言ってんだよ!優斗が隣にいるようになって(熊田くんが暴れなくなって)俺たち前より楽しいよ!」

「絶対合わないと思ってたけど…(熊田くん乱暴だし。でも優斗の言う事なら聞くし、前より穏やかになったよね。今更いなくなられたら困るのは俺たちだよ)…今はお前が一番仲良いじゃん!自信もてよ!」

「熊田くんが優斗が隣って言うんだから、誰も文句なんかないよ!(あいつに逆らえるやつなんかいねぇし)なぁ、みんな?」


いきなり仲間入りした俺に、みんな思うところがあるだろうに…

今まで男友達がいなかったから、戸惑うことも多いけど、なんかいいなって思った。

リーダーがかっこいいからだろうか。

男の友情ってかっこいい!

俺に男の世界を教えてくれたのは間違いなく熊田くんだ。

それからの日々も…熊田くんに脅されて一緒にいるんじゃないかって先生に誤解されたり、ことあるごとに熊田くんとクラスの女子が衝突したり、熊田くんの真似して一人称を「俺」にしたら女の子たちに熊田くんが怒られたり、私立受験するって言ったら熊田くんが毎日放課後俺の家で勉強するようになったり…平和とは言えないかもだけど、刺激的で楽しい小学校生活だった。


中学は家から少し遠い私立に通った。

母は小学校の友だちと一緒に近くの公立に通うよう勧めたが、俺は幼い頃の父と母が出会ったその中学校に通うことに決めていた。

友だちと一緒に中学に通いたい気持ちはもちろんあったけど、それ以上に大好きな父の面影を追い求めていたんだと思う。

誰も知る人がいないのは不安だったが、熊田くんに私立に行くことを告げると自分も行くと言って、受験勉強まで一緒にしてくれた。

みんな公立に行くのにいいのかと聞くと、熊田くんは「俺の隣はお前なんだよ!」と怒られた。

予想外のことにぼんやりしていると、焦ったように、そして照れくさそうに「お前の隣は俺じゃなくていいのかよ…?」と頭を抱えて蹲ってしまった。

腕の隙間から見える真っ赤な耳が、なんだかとっても嬉しかった。


二人とも無事受験に合格した。

熊田くんは特待生枠で学費免除がないと通わせられないと、熊田くんのお母さんが言っていたが、それもクリアしていた。

熊田くんはついこの前まで赤点常習犯と呼ばれていたのに、すごい!

偏差値の高いことで有名な学校なので、熊田くんはきっと県内でもトップクラスだ!

このときは誇らしい気持ちと明日への期待で胸がいっぱいだった。



学校が始まると全てが思わぬ方向に展開した。

熊田くんとはクラスがAとFと離れ離れで、渡り廊下を挟んで校舎さえ違った。

特待生は3年間生徒会に所属することが決まっていて、昼休みも放課後もその活動があった。

一緒にサッカー部に入ろうと約束していたから、迷わず入部したが、熊田くんは生徒会が忙しくて活動に参加出来そうにないからと断念してしまった。

幼稚園、小学校と同じように、次第に周りに女の子が増えた。

昔と違って、それと同時に男友達も増えたが、女の子とも仲良くしたいという奴等が大半で、小学校のときのような男同士のかっこいい友情という感じではなかった。

やっぱりあれはリーダーの熊田くんがかっこいいからこそのものだったのかもしれない。

友達はいつも周りにたくさんいるのに、寂しい。

熊田くんは…今なにしてるんだろうな。





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