ロッカー女さん
ロッカー女さん
ぱたん………。
………ばたん。
「えっ、と」どうやら人間は………と、言うよりも。僕は。あまりにも突然にあまりにも予想外な事があまりにも唐突に目の前で起きると、驚愕ではなく呆然もしくは唖然を選択するようです。勿論の事それは無意識に、なのだけれども。そして、これもまた同様に個人差がある事だとは思いますが、僕の場合はその時間およそ十秒といったところだったかと思う。とりあえずの落ち着きをみせてからその時の事をこうして思い出してみても、そのあたりは詳細には記憶していないようです。把握もしていません。きっと、飲み込めていないのかな。
うん、だってさぁ………。
ま、それは兎も角として。
数秒ほど費やしたフリーズの後にぱちくり。すぐにまた、ぱちくり。それはまるで、正しく起動する為の再スタンバイをしているみたいにぱちくり。と、短い間隔で不規則な瞬きを何回か繰り返す。そして漸く、つい今し方の状況を一旦は整理してみるべきだと思うに至り、そのとおり脳内で時間を過去へとしゃかしゃかしゃか、この更衣室に戻ってきたあたりまで巻き戻して、み、る………よぉーし。
それじゃあ、再生してみようか。
僕は更衣室に居る。わざわざ言うまでもないのだけれど其処は男子更衣室であり、理由は勿論の事お着替えをする為だ。だからこそ更衣室に来たんだし、だからこそ室内に数台あるロッカーの内の一台の前に立っている。で、キーをインサートしてくるりと回転させると、かちゃり。滞る事なくロック解除。その流れで、何の疑いもなく扉を開ける。当たり前だ。何の心構えも何の身構えも考える事なく開ける。再度言わせてください当たり前の事だ。
当たり前の事だよね?
自然な流れだよねぇ?
ね、そうだよね?
そうなんだよね!
ほら、このようにしてさ。
ぱたん。と………ばたん。
えっと………もしかして僕、何か間違えておりますでしょうか? って、いやいやいやおいおいマジでチョット待てよ待とうよ待つべきだよだって僕、何一つ間違えてないもんよ! よし、念の為に再び巻き戻してみよう。僕は、私服に着替える為に此処へ来た。此処は更衣室だ。うん、間違いなく男子更衣室だ。で、これはロッカー。僕に与えられたロッカーだ。だからこのキーで、ロックも問題なく解除デキる。だからこそ、中には僕の私服があるワケで。めでたしめでたし………うん。ほらね、何も間違えてない。
でも、
でも、
でも、
だよ。
ぱたん!
「それならさ!」
「あうっ、あああの、お邪魔しておりますぅ………」
お邪魔しておりますですと?
どちら様ですかぁあああー?
「あああの、お、おおお、落ち着いてください御主人様………あああの、聞いてるでしゅか?」
って言うか、さ。
と、言うかだよ。
どうしてロッカーの中に、
女性が入ってんだよぉー。
「わわわごご、ごごご………」
「………」白い着物を召した、長い黒髪の、華奢で小柄な、所謂ところのたぶん性別女性で間違いないであろう人が潜んでいるというこの事実。この現実。どう受け止めてイイのか僕には判りません。誰か教えてください。習ってないです。対処も対応も何もかも。
「えっと、その、御主人様、あの、私」
「………」しかもたしか、初見の時は僕の下着を握っていて、更にはそこに顔を埋めていましたよね? たしかにそうしていましたよね? 変質者なの? そうなの? ねぇ、そうなんですか? 此処は男子更衣室ですよ? って事は当然の如く、男女別々という事ですよ? でしょ? そうでしょ? そ、そそそ、それなのに、さぁ………。
「だ、どどど………」
「………」それなのにぃー!
「あああの、あの、あの、は、は、話せば判りますから、ね?」
眼前に提示された解読不可能な展開に後退りをする僕を見るや否や、正体不明のその女性はおずおずと追いすがってくる。その声はどうしてだか焦燥に激しく満ちていたのだけれど。
でも、ね。
「決して怪しい者ではありませんから、どうか」
焦燥するのなら、それは僕の方ですからお姉さん!
「充分に完全に絶対に間違いなく一も二もなく怪しいですよぉー!」説得力の微塵もない言葉を告げながら迫ってくるお姉さんに、僕は漸く言葉らしい言葉を声にした。何このホラーテイスト!
「はうぐ、違うんです違うんですよ。ですから」
「何が違うんですかぁー!」ロッカーだからなのか這いずってはいないのだけれど、よくよく考えてみればその姿は変質者さんというよりも、うん………サ○コさんです。テレビじゃなくてロッカーから登場なんて、そんなの反則じゃないですか? それに僕、イワク付きのビデオなんて観てませをし、そんなロッカーがある事も知りませんから!
って………、
まさかの幽霊さんなの?!
「そんな、酷いです………ぐすん」
たどり着いたその答えにどう応えればよいのか僕が受け入れ損ねていると、ぴたり。と、○ダコさんがその場に立ち止まる。あれ? 何か様子が変だぞ。
「まだ何の説明もさせていただけてないのに………ひんっ!」
僕を睨みつけている瞳がみるみるうちにうるうる、涙で覆い尽くされていく。えっと、もしかして泣いてます?
「ひぐっ、うぐっ、ふえっ、ヒドいですおぉ………ううっ、ひぐっ、ぐっ」
泣いてるですと?!
「えっ、と、えっ? ええっ?」その涙が溢れ零れ、頬を伝って流れ始める。よくよく注視してみると、どうやら睨みつけていたのではなくて、見つめていただけ? いいやこの場合は………見据えていただけみたいです。くりくりっとした眼で、真っ直ぐに。けれど、それに気づいたところでもう遅い。何せ、習っておりませんから。なので、ずばっと言ってヤバい予感がするんですけどぉー。
「ふぐっ、ふえぇえええ~ん!」
「いやあの、チョット待って!」はい、予感的中です。その場にぺたんとお尻を落としたサダ○さんは、子供のようにわんわん泣きだしましたとさ。で、その姿を確認した途端。僕の焦燥は、その意味をがらりと変えた。
どど、ど、どどどうしよう!
「私、えぐっ、ちゃんと、ちゃんと説明を、ひくっ、しようと思っ、たのに、それ、なのにぃ………ふえっ、ふわぁあああ~ん!」
「あああの、ゴゴゴゴメンなさい!」慌てながらもオロオロとしゃがみ、左手を泣き喚くサダコ○ん風コスプレイヤー嬢の肩に当てた僕は、右手を彼女の頭にのせ、子供をあやすように撫でてみた。
「ふえぇええええ~ん!」
すると、泣きじゃくるサダコさ○風のその女性は僕にしがみつくようにして胸に顔を埋めてきた。
「えっ、いやその………」しかし僕は、良いアイデアはおろか何の手立ても浮かばず、焦燥が困惑を内包して多大な逡巡へと手を広げるのを感じながら、ただただ優しく頭を撫でるのみ。って言うか今更なのかもしれないのだけれど、御主人様ってどういう事なんでしょうか?
「ひくっ、ひくっ、ふえっ、ふぐっ、えぐっ、うくっ………ひんっ!」
「いやあのだからつまりそのゴメンなさい! あああのさ僕が悪かったよ! だからさ、その、えっと、さ、泣きやんでよ、ね? お願い、もう泣かないでください」
「ひぐっ、えく、じゃあ、じゃあ、御主人様………もう、もう、イジワルしないですか?」
「えっ、意地悪って」
「ふえっ、ひんっ!」
「あっ、うん! しないしない! しませんから!」
「えぐっ、じゃあ、じゃあ、優しくしてくれるですか?」
「う? うん、優しくします! ですから」
「ホント、ですか?」
「う、うん。だからも」
「叩いたり蹴ったりとかも、しないですか?」
「えっ? そん………あ、はい。ぼ、ぼぼ、暴力反対です!」
「私、私、何でも言うとおりにするですから、ですからどうか、イジメたりしないでください………ひんっ!」
「あう、あわわ、ななな、だから泣かないで! しないよ! しないから! ホントに! だからゴメン! 僕が悪かったです! ね? だから、もう泣かないで、ね? ね?」
「うぐっ、ひくっ………はい。私、御主人様の言うとおりにします。うくっ、うぐ………泣きやみました。うぐ、もう泣かないです」
「う、うん………あの、えっと、ありがと」ウルウルとした瞳で僕を見つめながら泣きやもうと頑張る姿がなんだかとても健気に見えて、それにつられてと言うか何と言うか、ヨシヨシと思わず頭を撫でてしまう僕。
「はう、う、御主人様に褒められましたん………えへへ」
「えっ………」と。何か、可愛いかも。
「ありがとうございます、えへへ♪」
「………」何これヤバい。なんだか凄い早さで欲情してきるよ僕。
「………ん? 御主人様、どうかしましたですか?」
「………」どうしようどうしよう我慢しなきゃそんな事したらダメだよ犯罪だよだから我慢だよ我慢。
我慢我慢我慢………。
なんか、
デキないよぉー!
「あれ、えっとぉ、御主じ、んっ? はう、きゃっ! あうっ、あっ、あんっ、やんっ! んぐ! ん………」
どうやら僕は、ブレーキが効かないどころか壊れてしまいました。
詰まるところ、
ヤッちまいました。
完全に鬼畜です。
僕は何故だか僕を御主人様と形容する彼女に抱きつき、床に倒して、激しく抵抗する彼女の着物の前部分を力任せに左右へと広げ、露となった白い肌のうちのぷっくりと膨らんだ小さな胸に狙いを定めて強引に………って、あれ?
「………?」たしかにアクセル全開フルスロットルでケダモノ化してしまった僕ではあったのだけれど、激しい抵抗を示しても当然の筈の彼女は実のところ全くと言っても差し支えないくらいに無抵抗で、強張らせた表情で、きゅっ。と、目を閉じてはいるもののそのまま抵抗する気配を見せずにいた。
「………」なので、僕は。その違和感が沸き上がってきた途端にそれを拭いきれず、無視して眼前すぐそこに露となった膨らみを欲望のままに貪る事も出来ず、彼女のそんな挙動を不思議に思って固まってしまった。
「………っ、御主人様?」
すると、このまま続くのだろうと思っていた筈の力任せによる衝撃がぴたりと止んだからだろう、ゆっくりと瞼を起こした彼女は固まっている僕を視認してそう話しかけてきた。
「どうかしたのですか?」
そして、不思議そうにそう続けた。
「えっ、と、いやその………どうして抵抗しないのかな、と」実際のところこのような鬼畜に走った事なんてただの一度もない僕だったので、だから実のところはこういうものなのだろうかと考えてはみたものの、いくらなんでも無理やり押し倒されて欲望のままに貪ろうとしてきた輩を無抵抗で受け入れてくれるワケがない。それに、見た感じ突然の恐怖で動けなかったという事でもないようだし。詰まるところ、それなのに無抵抗という選択肢を選んだ彼女の意図と言うか真意が判らなくて、僕は逡巡しながらも訊いてみる事にした。
何はともあれ、
鬼畜にはならずに済みました。
が、しかし。
「抵抗、ですか?」
「えっ………え?」
「抵抗する理由なんてありませんけど、もしかして御主人様、そうした方が萌えるタイプの御方なのですか?」
永遠に癒えも消えもしないであろう程の傷をつけてしまうところだったこんな僕に、可愛すぎるサ○いいやもうイイよサダコさんは、意味が判りませんといった表情と口ぶりでそう答えた。
「いやそ、の………」なので僕は、大袈裟ではなく途方に暮れかける。
もしかして、僕の方が間違っているのか? いや勿論の事、僕は間違っている事をヤラかそうとしたのだけれど、でも、間違ってはいないようで、って、あれ?
と、いった感じに。
「私、自分でする以外は初めての事でしたので………なので、その、何もデキないのでシテいただくままでいようかと。御主人様の思うままに捧げようと思ったのですが………ゴメンなさい」
すると、再び固まっていく僕に彼女なりの不安を感じたのだろう、たぶん無自覚な爆弾発言を含めた説明をした上で彼女は謝るのだった。
「自分以外はって、いや、そ………」けれどそれは、僕が欲情するままにシテしまおうとした事に対する答えとしては成立していなかったワケで………と、言うか。なんと、受け入れようとしてくれていたワケで。つまり、どういう事なのでしょう?
「まだ何もご説明しておりませんでしたのに、それなのにこんなにも情熱的に契りを結んでいただけるなんて、私、とても嬉しいです」
「えっ………」と。ち、契り?
「一生懸命に尽くしますので、どうか、どうか末永く宜しくお願い致します、御主人様」
「………?」一応はまだ未遂と言えなくもないのだけれど、責任問題的な事なのかな。
「ですから、お気になさらずです。これが夫婦の営みですもんね」
「………」あ、なるほど。夫婦の、か。そういう捉え方もデキるよね。
って………えっ?
「もしかして御主人様、私の初めてをこのような場所で、という事に罪悪感を抱いてくださっているのですか?」
「………」だから抵抗せずに受け止めようとしてくれたのか………っていや待て何故に夫婦だと? それに、初めてとか今その発言で知りましたけど?
「御主人様は、とても優しいお方なんですね………私、知り合いからは殿方には玩具のような扱いを受けると聞いておりましたので、ですから自分なりに覚悟はしていたのですが、御主人様は違いました」
「………」それに、サダコさんっぽいから幽霊さん確定の方向に傾いているだけで、よくよく考えてみなくても彼女が幽霊さんってのは有り得ないよな。だとすると、遡ってやっぱり変質者さんという見立てが妥当………なのか?
「ですからそれも、お気になさらずですよ。御主人様は御主人様の思うままにいつでもどこでも私を抱いてください」
「………」いいや、待て待て。そうすると、僕は変態犯罪者さんなワケで。
「あっ、あ、あの、もも、勿論、恥ずかしいですよ? 今だって私、その、おっぱいが、おもいっきり、ですね、その、見えちゃっておりますし、そ、そんな状態で、こうして御主人様とお話ししているだなんて、こ、これはもう、御主人様の趣味なのかな、と。焦らしという行為なのかな、と。で、でで、ですが、これもまたこの後のアレやコレやを妄想させる為の策なのだと思うと、たしかに充分な策だと屈するしかない部分もありますから、つまり、そそその、恥ずかしいですけど私、かなり興奮しております。御主人様………あれ? あああの、御主人様?」
「………」と、なると。施錠してあった筈のロッカーにどのような手段で入ったんだろう? あ、中に入ってから再び施錠を………しないよね。っていうか、そもそも中に入るか? 入って閉めて施錠するという目的は何?
「えっと、ご主人様? どうしましたですか?」
「………」あ、僕の下着の匂いをクンクンしていたら誰かが入ってきたから、それで慌てて中に隠れて………いいや、それでもまだ施錠されていた理由が判らないし、何よりも施錠の方法や施錠の意味が説明デキてない。
「あうっ、あああのご主人様、もしかして、そのぉ………」
「………」と、言うよりも説明なんてデキないよ施錠されていた理由なんて!
「はははい………正直に申しますと、あのぉ、御主人様が私の、中に、ですね、その、入ってくるとなれば、その、とても痛いかもしれません。知識としてそのように聞いておりますから。ですが、ですが、そそそ、それは私がですね、私が未だ未経験だという事が原因なのですから、つまり私に問題があるのですから、御主人様はそのような事をお気になさらずとも………はうう、お優しいのですね」
「………」何よりも、このお姉さんは何者?
ダメだ。混乱してきた!
「きっと私、その痛みさえも幸せに感じると思います。私は今、御主人様に抱かれているんだと、それはつまり御主人様は私を御自身のモノにすると宣言なさっていただけたという事ですから」
「………」うん。どうやら正体不明のまま深い関わりを結んでしまった感のあるこの健気な女性は、何やら激しく勘違いをなさってくれているみたいです。実は僕、しっかり聞いてました。話している際の仕草なんかも、視線に止めていないだけで視界には完全に入れていました。他の事を考えつつも無かった事にならないかななんて思いながら、シカトぶっこいてたワケではありません。なので、ホントに混乱しています。
が、冷静な面も少なからず。
さて、これからどうしましょう?
「あの、御主人様?」
「え? あ、はいはい。聞いてますよ。あの、強引ですいませんでした」まずはやっぱり、素性を明らかにしたいところですね。そうじゃないと、少しも先に進めないよ。
「あうっ、そ、そんな! 謝らないでください」
「さて、と」判らない事だらけではあるものの、受け入れてくれているという事はどうやら間違いないようです。だからたぶんきっと恥ずかしさを紛らわす為に饒舌になっちゃうのだろう。そんなところも可愛いなぁ………って、いかん。展開が思わぬ方向に針を振っていて、ワケが判らなくなっている。でも逆に冷静でもあるから、それで判った。はっきりと気づいた。とりあえず、男性更衣室に女性がこんな霰もない姿で居るというのは非常にマズい。とにかくこの幽れ、じゃなくてお姉さんをなんとかしなくては。
「御主人様、私、何かお気に障る事をしましたでしょうか………あっ、やっぱり先にご奉仕するべきですよね。ゴメンなさい………」
「あのさ、あの、話しは後で。こんな場所でこの感じってさ、誰かに見られたら激しくヤバいよね? だから、早く出よう」
「えっ? と………はい」
「うん。そうと決まれば逃げよう!」何故にきょとんとするの? 世間知らずの深窓のご令嬢さんでも判ると思うんですけどぉ………あ、やっぱ人間ではないとか?
「逃げる、ですか? それは、御主人様と、でしょうか?」
「勿論です」置いとけないでしょーが。
「御主人様と一緒に逃げる、ですか。はうう………はい! 何処まででも逃げるです!」
「えっ」と、え? 何そのテンションの高さ。
「御主人様! さぁ、早く! 何処まででも行きましょう!」
「え、あ、はははい………」
………。
どういうワケでこうなったのか、この時の僕はまだ何一つとして知らないままだったのだけれど、もっと言ってしまえば考える事は山盛りあった筈なのだけれど。この時の僕は何故か、まずは彼女を連れてこの場から立ち去るのが何よりも先決と思い、そしてそれを選択して実行しました。
手に手をとってコソコソと慎重に。
時にはダダダと一目散に。
自宅へ向かって駆け出す僕達の姿はさながら、そう。サウンド・オブ・サイレンスな感覚でした。ま、外をこっそり確認してからとか、コッソリと慎重な時もあったりとか、何やかんや激しく違う部分もあったのだけれど。でもさ、ざっくり表現しちゃえばヒロインはどちらも白いお召し物だし。って、そこ以外は殆ど違うのだけれど、ね。特にほら、あの映画ってラストのラストが急転直下でシリアスだし………なんて、勿論この時はそんな事を思う余裕は欠片もなかったのはたしかです。
とにかく、その時の状況もそれからの展開も何もかも、頭の中に浮かびすらしていなかった。所謂ところの無我夢中。善後策は皆無。たぶん、彼女に対して申し訳ない事をシテしまったという弱味のような感情が少なからず影響していたんじゃないかな、とは思う。一応は、罪悪感に苛まれていたし。一応は、っていうところはサイテーなんだけどさ………冷静な面もあるにはあったのだけれど、それでもやっぱりかなりな感じでテンパっていたのは間違いない。
結果として僕は、彼女が何者なのか、それどころか彼女の名前すらも知らないまま、彼女………ロッカー女さんを自宅へと連れて帰ってしまいました。
それにしても、だよ。
こんな展開、
誰が信じてくれるというのだろう?
最初から最後まで、一切合切、端から端まで、どこをどう切り取ってみても、端折ってみても、或いは組み替えてみても、こんな事って絶対なくらいに有り得ないよね、うん。
絶対は絶対ではない、絶対に。
………何だかそんな感じです。
………。
………。
で、僕。
………。
これから先、どうしよう?
ロッカー女さん)つづく?