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2011年・2012年

正八面体

透明平面の森の中には綺麗に咲いたお姫様がいるという。

茶番劇ファルスに飽きた眉目麗しい異次元の女の子。

神様に見捨てられた悲劇の嗜眠症レタルギア症候群患者。

まさに眠れる国からの使者、婚礼衣装のまま死んだように眠っていると聞く。

そして誰かが邪悪な魔王を倒さなければ、彼女は永遠の眠りから覚めないという。

だからこそ僕は2Dヴィジュアルプレイヤーを被って旅に出たのだ。

怖いもの知らずの勇者になってきっと君を救いだしてあげると誓って。

可愛い君を夢に見ながら――1本のたばこを口にくわえて、ね。

深山幽谷に向かう道はまるで遠心分離された水平のアーキテクチャ。

ここはGIFのデータ群で出来た欝蒼とした森。

妖しく濁った魔の山ではとくとくと青いドットの雨が降っている。

ペイントで描かれたような低画質の画像データの動物たち。

コピペで増殖した鹿。色相を持たない赤犬。文字化けしている月の輪熊。

臨終に向かうように蝶は地獄の業火で羽根を一枚焼かれ、

どこか遠くの電波塔から弔いのためのカリヨンが鳴っている。

人工楽園の成れの果てでは崩れたホメオスタシスが支配する。

夥しい「新しいフォルダー」だけが下弦の月夜の宙に浮かび、

月光の光を浴びて虚ろに表面をキラキラと反射して輝いている。

千里の山を越えたならばきっと君に会えると信じ、

即興で作詞した自作のバラッドを奏で歩いていく僕の背後で、

可憐な白爪草に擬態した金属バットの黒猫が問いかける。

「人はどうして罪を食べられないのだろう。もし食べられたら餓死しないで済むのに」

電子音の実がたわわに実り、仮想化されたオーケストラの花が咲いた。

停止した斜陽。鴇色と闇の混色。三重構造画像。たった一つのビットレート。

壊れた熱量はある意味ではプレハブ小屋の癲狂院に似ている。

秩序とマウスコントロールを操作できないので、

iTunesから聞こえる虐殺と滅亡のループを止められない。

しおれたイラストの木々を越えて、僕は君の住む永遠の城に着いた。

僕の入城は乱れた諧謔曲の如し、イレギュラー。警告音が鳴り響く。

姫を守る衛兵たちや造兵廠で製作されたオートマトンたちが動き出す。

敵をバッタバッタと薙ぎ払い、悖徳の国から君を救いだそう。

そう思い、僕は伝説の剣を振りかざす。敵の鮮血を舞いあげる。

王座に腰かける悪の大魔王を斬り殺せば、君の顔を見れる。

魔王は手ごわいけれど、大量の経験値がある僕に勝てるわけがない。

致命傷を負わせ、魔王の首を刎ねる。はやく、君の顔が見たい一心で。

嗚呼、どんな顔なのだろう。期待が膨らみ心臓が痛い。

勇気を出して君が眠りについている薔薇の棺を開けてみる。

千年の孤独。不治の眠り病。星天井の天蓋。赤い赤い林檎の血液。

ああ!ああ、綺麗だ!美しすぎる。――僕は驚きを隠せない。

彼女は正八面体だった!純粋な正八面体だったのだ!

その幻想的な立体の実在、そしてその艶やかな結晶の美しさ。

このような形態が存在するなんて……僕は君を眺める。

神々しい八面の正三角形。透き通る内部。まるで天使そのものだ!

僕は美しすぎるその頬にキスを捧げる。彼女の平和を願って。

僕は、僕は――彼女の起動を夢見て、淡い恋の歌を作って待ち続けるだけ。

嫣然と君が微笑むことを望んで、僕は恋のレトリックを考える。

もうこの城には僕と君だけしかいない。これでハッピーエンドだ。

これで、僕の――正四角形の僕の話はおしまいさ。

空間融合のメルヒェンはこれでおしまいさ。

平面の森に平穏が訪れて、いま、次元のレヴェルは一つあがる。

綺麗な閉幕は涙で濡れて……。

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