青い空と赤い紙
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「お〜い。崇〜」
私は畑にいる崇に声を掛けた。その声を聞いた崇は手を止めてこちらを向いた。
「ん?なんだハナか。どうしたんだ?」
「いや、ただ近く通ったら崇が見えたから」
そう言うと崇は、そうか、と言って畑仕事に戻る。
「崇ったらまだ畑やってるの?どうせ何か出来たって誰かに取られちゃうよ」
崇は手を休めずに返事をしてきた。
「それでも作るんだ。親父がずっと守ってきた畑を、俺の代で終わらす事は出来ない」
「そっか・・・」
そう言って私は近くの石段に座り、ずっと崇の事を見ていた。
私は視線を空に移した
「今日も暑いね〜」
「夏だからな」
――――――――――――――
1939年のドイツのポーランド侵略をかわきりに始まった第二次世界大戦。
日本も1941年の12月頃、本格的に戦争に参加する。アメリカの軍艦などのいる真珠湾に向け攻撃をしたのだ。
その後、アメリカは私たちの日本に向けて攻撃を始める。もともと力で勝るアメリカに敵うはずも無く、1943年、次々と日本の拠点を攻略され始めた。
アメリカは1945年、硫黄島に基地を置き日本への空襲を強化し、東京に向けて大規模な空襲をした。
そして今、私が18になった1945年の7月の終わり。私たちのいる町も空襲が激しく、夜も安心して眠れない日々が続く・・・・。
――――――――――――――
崇が畑仕事を終わらすまでいた私。崇の横に並び家に帰ることにした。
家が近くで小さな頃からの友人である崇に、私は淡い恋心を抱いていた。そんな崇と一緒に帰れる事が本当に嬉しい。
そんな事は知らない崇が話を切り出した。
「そういえば親父が死んでもうすぐ半年か・・・」
「どうしたの?急に」
「え?うん・・・、さっき畑で話してたら思い出しちゃってな」
「そっか・・・。早いね・・・」
崇のお父さんは軍に入隊していた。今年の初め頃に神風特攻隊としてアメリカ軍に奇襲をかけ、そのまま骨も帰ってくること無く死んでいった。
崇のお母さんはその知らせを聞いたとき、本当に悲しんでいた。いつかはこんな日が来ると心にしていたとはいえ、愛する人がいなくなって悲しかっただろうと思う。
一家の大黒柱がいなくなった崇の家族は、長男であった崇が大黒柱となって今もずっと養っている。
「あっ、じゃあ俺んちあっちだし。じゃあな」
「うん。じゃあまた明日ね」
あの後も話をしながら帰っていた私たちは十字路で別れ、家路に着いた。
「ただいま〜」
そう言って家の中の方へ入っていくと、居間に家族が揃っていた。少し暗い感じだ。
「どうしたの?みんなして黙って集まってて」
父がこちらを見て口を開いた。
「・・・・・お父さんな、戦争に行く事になったんだ」
「え?」
意味が分からなかった。父はただの豆腐屋。軍人などではない。
「戦争に行くのは軍人さんだけじゃない。なんでお父さんが行くの?」
「もう日本軍も兵隊不足なんだろう。健康な男性はほとんど招集されるんだそうだ」
そう言って手にもっていた紙を見せた。
赤い紙に『隊ヘノ入隊ヲ命ズ』と書いてある。
「そんな!勝手じゃない!お父さんが行く事無いよ!」
「・・・しょうがないんだ。行かないと俺は国家反逆罪で殺されて、残ったお前たちにも迷惑掛けちまうんだ。行くしかない」
「そんな・・・」
沈黙が続いた。
そして父がぽつりと言った。
「近くの崇君にもこれが届いてるはずだな・・・」
「え?だって崇はまだ18だよ?」
「18〜40歳の男性に届くんだ。確か今年18になるって男性にもな。可哀想に。せっかく親父さんがいなくなっても崇君が頑張ってきたのに・・・」
確かに崇は今年18になる。
「・・・ちょっと出かけてくる!」
勢い良く家を飛び出し、崇の家を目指した。
『ドンドンドン』
「こんばんは!?崇君いますか?」
崇の家に着くとすぐにドアを叩いて言った。
「どうしたんだよ。何かあったのか?」
何事も無いように崇が出てきた。
「崇、戦争に行くって本当?」
出てきてすぐに私は聞いた。そんな事あるわけないと言って欲しかった。
「・・・もう知ってるんだ。・・・・今日これが来たんだ」
そう言ってポケットから取り出したのは、赤い紙だった。見間違うはずが無い。父に届いたのと同じだったから。
「本当に行くの?行かなきゃダメなの?」
「・・・・・・ああ、家族の事もあるし・・・」
それを聞いた後、すぐに振り返って走り出した。
本当に戦争が憎かった。
愛している人を戦地に送られ、帰りを待っていなければならないのだ。
崇のお父さんのように帰って来ないかもしれない。
そんなの嫌だ・・・。
でも、私にはどうにも出来ない・・・・。
次の日、崇の畑に行った。いつもの見慣れた背中が見えた。
「崇・・・」
「なんだハナか。元気ないな」
背中を向け畑仕事に打ち込んでいる。
「本当に・・・、本当に行っちゃうの?」
「・・・ああ」
何気なく返事する崇。手を休めず、こちらを見なかった。
「やだよ!崇が・・・崇がいなくなっちゃうなんて!」
「でも行かなきゃ家族が・・・」
「行ったら、崇のお母さん達もっと悲しむよ?それでもいいの?」
「それは・・・」
崇に抱きついて泣いた。
「好きなの!・・・・行かないでよ」
崇は黙っていた。
しばらくして口を開いた。
「ハナ」
「な・・・に?」
涙目で崇を見て返事をする。
「僕もハナといたい」
振り返り私を抱きしめた。
「崇。でもどうしたら・・・」
「ハナ、僕の腕を切ってくれない?」
「え?」
「腕を切って使えないようにすれば、入隊しなくて済む」
「そんな事、出来ないよ」
「お願いだよ」
「・・・うん」
私は近くの斧を握り締めた。
そして・・・・
――――――――――――――
8月5日。切った腕の出血がひどかった為、田舎町のここでは治療は出来ず、崇は隣の広島市に行く事になった。崇はそれで入隊は免れた。
「心配するな。僕は大丈夫。すぐ帰ってくるよ」
「うん。待ってるね」
そして崇は広島市に向かった。
8月6日 アメリカが広島に原爆を投下。死者は数万人に及んだ。
崇との連絡はつかなかった。そして二度と崇とは会う事は無かった。
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夏の日差しの強い今日、2006年8月6日。
私は一人畑仕事をしていた。あの人が残した畑。毎年この頃になるといつも思い出すあの日。
あなたは今天国で何をしていますか?
お父さんと話をしているのですか?
もうすぐ私もそちらに行きます。
その時あなたは私に気付かないかもしれない。顔がしわくちゃだから。
でも、それでもあなたに駆け寄って抱きつきます。会えなかった日々の思いを込めて抱きしめます。
待っててくださいね。崇さん。
戦争の時、こんな事もあったかなと書いてみました。資料も乏しい中頑張りました。
余談ですがこの小説は前回の「紙小説」の没ネタです。
あはは・・・。
AKIRAでした。