静かな破壊
「私はあなたに触れたい」
『触れているよ。ずっと』
「どうして私を拾ったの。他の誰でもなくなんで私だったの」
『下にいる生物にはぼくの声は聞こえないようになっていて、ぼくの声は電磁波に変換されるらしい。それなのにきみはぼくの声をすくいあげたんだ。雑音ばかりのあの世界で』
「特別ってこと? あなたにとって私は」
『特別なんてそんなちっぽけな言葉であらわせないくらい奇跡的なことなんだよ』
「そんなことなら少し許してあげてもいいけど」
『それじゃ行こうか』
「どこに?」
『きみの頭痛のタネを根こそぎ奪ってこよう。いま猛烈に力をふるいたい、きみのために』
ぽかんと口を開ける彼女は普段よりずいぶんと幼く見えた気がした。
「最新鋭の戦闘機が数百機いるのよ」
『それはきみたちにとっては脅威かもしれないね』
「あなたが降り立ったらどうにかして捕まえようとするでしょうね。だってあなたは」
『ぼくが誰かのいいなりになると思う? きみの言葉しか受け付けないように、ぼくはぼくの基盤ごと作り変えた』
「いつ?」
『きみがよだれを垂らして深い眠りについている間に』
「覗き見は感心しない」
『ぼくの中で健やかに眠っているのに、どうして見ないという選択肢があるのかわからないな』
頬を膨らませた彼女はもう言いたいことが尽きたらしい。
「じゃあせめて怪我しないで」
『ぼくを甘くみないでほしい。さっさと終わらせて昨日見損ねた映画の続きをみようか』
表情があればきっと朗らかに笑っていたに違いない。
『3分で終わらせるよ』
「死ぬときは一緒ね」
スピーカーからノイズが響いたあと、ぱったりとなにも聞こえなくなった。
突如として発現したアルミ箔のような物質で覆われた直径30センチほどの球体はきっかり3分後、太陽第一惑星系の地上全ての生物を消し去った。そこに元からなにもなかったように、なにひとつ残っていない。




