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歳下彼氏が甘やかしてくれる金曜日の夜。

恋愛小説処女作の短編。

 1週間の終わりの疲労度はどうしてこんなにも辛いのだろうか。

 ようやく金曜日になり、そして仕事が終わった。

 なのにアキ君のお家までが、わたしにはとても遠く感じる。

 早く靴脱ぎたいし、疲れたし、お腹空いたし、ねむいし。


「……とにかく疲れた……」


 どうにかアキ君のお家に着いた。

 だがまだ階段がある。この階段はわたしを虐める極悪非道な無機物と言えるだろう。鬼畜だ。

 なんでエレベーターが壊れたままなんだろうか?

 責任者、仕事しろ。わたしの為に。


「……ただいま」

「おかえり、みよさん。ご飯出来てるよ」

「ありがと」


 半同棲しているわたしの彼氏、アキ君は在宅ワークなので、金曜日の夜にわたしがアキ君家に行くといつも出迎えてくれる。


 わたしの仕事が繁忙期ということもあって、最近はろくにデートとかもできてないのが悲しい。

 しかしこうしてアキ君家に泊まれる金曜日だけは今のわたしにとっての至福と言える。


 だけどわたしは年下のアキ君に安易に甘えるのが苦手だ。

 どうしてもお姉さん感を出してしまうというか、そう在りたいと思ってしまっているのだろうと思う。


「すごい疲れてるね。目が死んでる」

「……まあ、繁忙期だからね」


 営業事務として働いているけど、最近やって来た上司がとにかくめんどくさくて大変なのだ。

 暑苦しいというか、会社は家族! みたいなことを平気で言ってくる。


「ご飯、食べれそう? なんかめっちゃ眠そうだけど」

「……たぶん、大丈夫」


 正直、このまま寝たい。ねむい。

 このソファから1歩も動きたくないし足痛い。

 肩も凝っててなんか重いし、化粧落とすのもめんどくさい……。


「ちょっと休んでからご飯にしようか」

「…………ん」


 年下のアキ君に気遣われるのはどこか申し訳ないと思ってしまう。

 アキ君とは3つ違うけど、大学生の頃にしていたバイトで先輩風を吹かせてしまったのが尾を引いている。


 なので、わたしはアキ君の前では頼れるお姉さん感を出そうとしてしまう。

 恨むぞ過去のわたし……。


「……今日だけは、アキ君に甘やかさせてあげよう。わたしを甘やかして」

「ははぁ。有り難き幸せ〜」

「……うむ」


 どうやらわたしはまだ少しはふざけるだけの力は残っているらしい。

 隣に座っていたアキ君の正面から跨るようにして抱き着いた。

 決算前ということもあって忙しいし寒いので、アキ君が良い湯たんぽ的なあたたかみがあって落ち着く。


「……そうか、アキ君の前世はきっと湯たんぽだったんだね」

「……これは重症だね」

「……じゃあ炬燵こたつ

「うん、まあどっちでもいいや。どっちもあったかそうだし」


 わかっている。会話が成り立っていないことくらい。

 だが、仕事とは人の知能を著しく下げる最強の弱体化魔法なのだ。

 だからわたしの語彙力が破滅的になるのは仕方ないことなのだ。


 考えてみてほしい。チャラい営業マンくんの横文字構文祭りに付き合わされるこちらが頑張って愛想笑いをしつつなるべく円滑に仕事が進むように会話を成り立たせようとする意味を。


「……電気毛布かも」

「段々と進化してってるな。俺の前世……」


 あのチャラ男くんはわたしの同僚を狙ってるっぽくて色々とめんどくさいのだ。仕事できます感出してる暇あったら案件取りに行ってほしい。

 もしくは日本語話してほしい。


「疲労感が俺にまで伝わってくる」

「……染み渡るでしょう、この疲労感が……」


 アキ君に抱き着いて、アキ君の肩に顎を置いて目を閉じる。

 この寝そうで眠ってはいけないようなまどろみだけはわりと好きだったりする。むしろこの為に疲労感はあると言っても過言ではない。


 そうか、疲労感もスパイスの一種だったんだな。

 今なら天国へ逝けそうだ。


「……アキ君……」

「なに? みよさん」

「……ねむい……」

「だろうね。子どもみたいになってるよ」

「わたしは立派なレディじゃ」

「そうですねお嬢様」

「……こんなくたくたになるなら、お嬢様は嫌だ」

「左様ですか〜」


 すごくどうでもいい会話。

 でもこれがいい。頭使わなくても許される。


「今日はもうこのまま眠った方がいいね」

「……まだ、ご飯食べて、ない……」


 アキ君がわたしの背中を摩ってくれている。

 なんか子ども扱いされてる気がして不服だ。

 だけど、気持ちがいいと感じてしまうのがさらに不服だ。

 今だけは、子どもに戻っても許されるのではと錯覚してしまう。


 そういえば昔、怖い映画とか観て眠れなくなったわたしの背中をお母さんがこんな風に摩ってくれた。

 そうするとなぜか安心していつの間にか眠ってしまったのを覚えている。


「みよさんは頑張ったから、ゆっくり休んで」

「……ぅん……」


 返事をするのもやっとのまどろみの中で、たしかな優しさを感じる。


「……明日は、デート、しようね……」

「そうだね。デートの行先は考えてあるよ」

「……映画も、一緒に観たい……」

「観たい映画あるって、言ってたね」

「……ふたりで、温泉も、行きたい……」

「温泉もいいね。ゆっくり浸かりたい」

「……アキ君……」

「なに?」

「……おやすみ……」

「おやすみなさい。みよさん」


 そうしてわたしは力尽きた。

 アキ君の匂いはとても落ち着く。

 なので眠ってしまうのは仕方ない。


 アキ君のおかげで、1週間頑張れた。

 だから今日だけは、このまま眠りたい。

 今だけは、許されたい。

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