教国編 第終話
※本作は架空世界を舞台に、情報と記憶を巡る群像劇です。
※暴力・政治的描写を含みます。
車は教国を出て西に向かおうとしていた。検閲は軍国と繋国の往来によって、機能不全になっていた。
『どうしてここに…』
社 明六は怯える様にこちらを見ていた。
『別に。もう主従なんてないんだから。ほら、出国証明書。4人の家族全員分だ。無事、亡命させたよ』
怯えと安心が入り混じる。
『ああ…ああ…ありがとうございます』
『お前たちは裏切った。でも私は、お前たちの家族を助けた。もちろん、お前たちは助けないけれどね。さあ、然るべき代償を、払ってもらうよ』
『…はい。何れはこうなると、わかっておりました』
『明六以外、今から配る薬を飲んで頂戴。明六、お前はあとだ』
1人ずつ、目の前の恐怖を押し殺しながら服用した。立ち上がり一礼してから飲む者もいた。
ばたり、ばたり。
苦しむことなく、静かに倒れていく。
『明六。お前の記憶を食うよ』
『はい…』
「泡沫、次はどこに行くのですか?」
空蝉がハンドルを握りながら聞く。
「そうだな…軍国、かな。楔は打ったからね」
「…あと、どれくらいかかるのでしょうね」
どれくらい、か。
「1年か、5年か、10年か…」
「ま、そんなもんだろうな。なら、やはりあの有森の記憶を食ったのは正解だったな」
後部座席で寝転びながら、繋国出版の週刊誌に目を通す。
「…ああ、あいつの人心掌握は凄まじいからね。教国はこれで英雄の肩書きだけで動くよ。でも、もう人の心は動かせない。より治安は悪くなるだろうね。全く、明六はよく執り仕切っていたと、言わざるを得ないよ」
「ですねえ」
「だなあ」
ラジオをつける。
『教国で革命が起き、社 明六統合教育長ら4名が死亡しました。死因は不明ですが自殺によるものとみられています。革命は有森 礼初等教育長を中心に起き、今後は有森初等教育長が国家運営を行うとの発表が…』
教国編 終




