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教国編 第5話

※本作は架空世界を舞台に、情報と記憶を巡る群像劇です。

※暴力・政治的描写を含みます。

庁舎の外は異様な光景だった。本当に同志達が大挙して押しかけている。中には見ない顔もあった。想定より多くの人が、私に賛同していると錯覚させるほどだった。クラクションを鳴らし、車を庁舎前のロータリーに止まる。何人かの同志が車を見る。遠くから銃声も聞こえる。

「じゃあ、いってらっしゃい、英雄。車を停めてから、後から行きますよ。皆さんお待ちのようだ。封筒も忘れずに」

封筒を片手に扉を開ける。

うおおおおおおおおおおお 異常なまでの熱気。殺到した同志達はもう、引き返すことのできないところまで来ている。後ろを見ると、泡沫はゆっくりと車を前に進めていた。硝煙の臭いが鼻につく。

「おい、あれ、有森さんと、社 洋じゃないか」

誰かが口走る。

おおおおおおおおおおおおお

場の雰囲気に尻込みしそうになる。私を見ての、歓声だった。

「有森さん、お待ちしておりました。まだ、入り口付近で先頭集団の衝突が続いていて、中にはあまり入れていません。中にも同志がいるのですが、中々…」

報告をくれた職員とはあまり面識がなかった。ただその顔には少量の血がついていた。

「おい、通せ、おい、今車から降りてきた奴!」

後ろから大きな声。見覚えはない。その背には装甲車も迫っている。

「大丈夫。あいつは軍国の赫山。おそらく情報屋の呼びかけで兵を出している、味方だ」

赫山…軍国の元帥の1人だ。とんでもない大物が来ている、というわけか。


「お前が有森だな?」

「…ええ、そうですが」

「ふむ」

頭からつま先までをじとりと見る。

「思っていたより、細いな。それでもここまで民間人の士気を上げるとは…中々の人徳を持っているのだろうな」

「…どうも」

「目の前の奴らを、どかせ。荒事は私たちの仕事だ」

振り返り、追従して停止している装甲車に声を荒げる。

「おい!おめえらぁ!前に出ろ、格の違いを、見せてやれえええ!」

おおおおおおおおおおおおおお

私の言葉なんて、言う必要がなかった。ただ、そこにいるだけでよかった。軍国の怒号に先頭で戦い、扉をこじ開けようとした職員達が、一斉に左右に掃ける。それは敵も味方もない。何人かは倒れ、動けなくなっている。

轟音は周辺を呑み込む。軍国にとっては敵も味方もない。ただ、傭兵達が真っ直ぐこちらへ向かっていく。その行進は声に似つかず規則正しい速度で進んでくる。

誰が何を言っているかわからない。叫び声と悲鳴が混ざった声。

「このままいけば、あと数分もすれば中に入れるだろうな。一般人たちは下がらせろ。これ以上無意味に傷つく必要はない」

軍人としての矜持だろうか。全体の流れに身を任せ、止まる。

がぁんがぁんと音がする。

「赫山。お前が出てくるとはなあ」

洋さんは感慨深そうに見つめる。

「お前がいるからだ。社。それに情報が入ってきていたからな。知らなければこんな小さい軍事作戦に私は出てこんよ」

煙草を咥え、マッチで火をつける。マッチをぽいと捨てる。まだ硝煙の臭いが鼻に残る。

洋さんがいるから、赫山が出てきた。こいつもまた、情報屋の掌の上、ということだ。

「にしても、社はトップに立たないんだな。お前だって、力も権利もあるだろうに」

洋さんはきょとんとした顔をして、そして笑った。

「はは、私はそもそも上や下かに興味はないんだよ。お前ら軍人には分からんかもしれないがな。この国が正しい方向に進んでくれれば、なんだっていいのよ。歳もとったからな」

一本よこせ、と赫山に煙草をせがむ。すっと1度しまった煙草を取り出す。前方からまた雄叫びのような声が聞こえる。教国の人間は散り散りに遠くでその様子を見ているようだった。

「開いたな」

「有森、行くぞ」

階段を一段、また一段と登っていく。その多くは血と弾痕で彩られていた。私達の姿を見て、傭兵たちは一歩二歩と後ずさりし、私たちに道を開ける。庁舎の大扉はベコベコになり傷が何重にも重なっていた。

じゃりじゃりと何かの破片や瓦礫を踏みながら進む。いつもの庁舎は埃と瓦礫に塗れていた。

いつもの受付係はその場を追われ、両手を頭の後ろで組んでいる。中には部下もいた。20mウィ程度が整列させられ、膝をついている。傭兵たちは談笑しながら、自らの武勇を誇っているようだった。私の顔を見て少し安心した顔をしている。

「悪いな。お前の仲間も拘束してるかな?」

こくりと頷く。本来ならただの平日だ。何も知らない人たちも普通にいる。

「安全が保証されるのなら、いいです」

正さなければいけないところを正す。そのために悪魔と契約した。

「覚悟が決まってるようだな。本当に勇者の様じゃないか」

社さんが茶化す。

ー勇者かどうかは周りが決めることだ。

「いえ、別に…ただ、できることをやろうとしているだけです」

斥候だろうか、いそいそと上階から降りてくる傭兵が、赫山の元にいそいそろやってくる・

「状況を」

「は!社 明六以下、教育長官ら4名が最上階 統合教育長執務室にて立て籠っているようです」

「残存の敵戦力は」

「は!各階すべて確認できているわけではありませんが、そもそも戦闘員はほぼおらず、武装と言っても一般的な火器ですので、脅威とはなりえないかと思います」

「ふむ、まあそうか。であれば、そろそろ行くか。中佐、15名を残し、周辺の警戒と、武装解除をさせておけ。15名は適当で構わん」

「は!」

赫山の横を歩いていた少し若い将校が勢いよく、返事をし、周辺の15名に声をかけ、整列させた。

「ご苦労。では、お前から10名、貴様らは斥候として2組にわけ、制圧していけ。残りの5名は時間を空け、私と共に上へ向かうぞ」

はっ!

全員が勇ましく返事をし、それぞれの役割を全うし始めた。

「…赫山さんも行かれるのですか?」

「ん?ああ、もちろんだ。教育なんてのは洗脳だからな。教国の思い通りにこの社会全体を意図して操ろうとしていたのならば、私が軍国を代表して、叩かねばなるまいよ」

そう、教育は国の根幹。その教育が次世代を育てる。意図して低い教育を受けさせれば、若い芽を摘むどころか、枯らす。許されない。

「心強いです。この国の教育は、私たちで変えましょう」

赫山は笑った。

「それを私のような軍人に言うとは、お前やはり面白いな」

「光栄ですよ。赫山 双葉 軍国元帥殿。皇国大学を主席で卒業してらっしゃる貴方なら、教育の重要性など、ご理解されていると思いましたので」

赫山は目を細めてにやりと笑った。

「ったく。思っていたより大胆だな。益々気に入った。この国盗りが成功したなら、本格的に教国との関係性を考えねばなるまいな」

赫山は先を見据えて布石を打っている。関係性を考える。それがどちらを意味するのかわからない。とはいえこちらも相応のことを考えねばなるまい。

小気味よい機械音が赫山の胸ポケットから聞こえてくる。耳元に携帯のようなものを当てる。

「ああ、わかった」

一言だけ告げる。

「上の階も大方、問題はないようだ。エレベーターで、一気に行くぞ」

扉の前。開くまで誰も言葉を発しなかった。

これで、世界が変わる。いま、社 明六はどんな顔をしているのだろうか。

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