これが恋かは、わからない
***BL*** 公爵家の息子サイラスと、庭師の息子デイビィッド。サイラスは小さい頃からデイビィッドが好きだった。でも、デイビィッドの好きはサイラスのそれとは違った。ハッピーエンドです。
***公爵家とか出てますが、ゆるい設定です。ごめんなさい
口が悪くて、意地っ張りなデイビィッド。我が公爵家の庭師の息子。僕は彼を初めて見た時から、目が離せなかった。
デイビィッドは、父親と喧嘩をすると、口が悪くなる。
「んな事、やってられっか!クソ親父っ!」
僕が庭を散歩していると、デイビィッドが走って逃げた。デイビィッドの父親は、怒り心頭だった。
「おっ!坊ちゃん!」
デイビィッドは、僕に気が付くと
「一人で散歩ですか?」
立ち止まって聞く。
「デイビィッドは、どこかに行くの?」
上目遣いで見つめると、デイビィッドはフニャンと顔を緩める
「坊ちゃんは可愛いなぁ」
そうだろう、そうだろう。
「デイビィッド、いっしょにふんすいを見に行こうよ」
僕が手を差し出すと、躊躇する事無く手を繋ぐ。
「サイラス様っ!」
家庭教師が追い掛けて来た。まだ、休憩時間なのに。
「ドリー先生」
「サイラス様、次の授業までそんなにお時間は」
「だってぼく、デイビィッドとふんすいを見に行きたいんだもん!」
「あちらの庭園まで行っていたら、何かする時間はありませんよ?」
僕は、デイビィッドにしがみ付く。
「デイビィッド、、、」
上目遣いで、嘘泣きをすればデイビィッドは僕に甘い。
「それなら、坊ちゃん。噴水まで散歩して戻って来ましょうか?」
「デイビィッド、サイラス様とお呼びなさい」
デイビィッドは聞こえないフリをして、僕と手を繋ごうとする。僕は両手を広げて、抱っこをせがむ。
デイビィッドは、僕を抱き上げ
「噴水までですよ」
と微笑んだ。
「さっきは、お父さまと何を話していたの?」
「お父様?あぁ、俺の親父の事?何か、あれこれ言われて、腹が立って。あのクソ親父、文句ばっかりで、ムカつくんだよね」
デイビィッドは思い出して、イライラし始めた。
「おこらないで、デイビィッド」
僕が頬にキスをすると
「坊ちゃんは可愛いなぁ〜」
と僕を褒める。
デイビィッドの父親は庭師の技術も高く、公爵邸から一番近い庭の手入れを任されていた。だから、デイビィッドと僕は自然に交流があった。
父親には口が悪くて意地っ張りなクセに、兄貴面をするデイビィッド。でも、とても面倒見が良かった。
デイビィッドが好きだ。僕にだけ優しいデイビィッド。
僕はデイビィッドに気に入られる様に、いつも可愛いを演出していた。
*****
「デイビィッド、どうしたの?」
デイビィッドの口の端が青くなって、切れていた。
「親父が、、、」
「なぐられたの?」
僕は驚いて息を飲む。
デイビィッドは悔しそうに地面を睨みつけた。涙をポロリと溢し、袖口で拭いた。
僕はデイビィッドの顔から目が離せなかった。デイビィッドが悔しくて泣いている。デイビィッドの泣き顔は力強くて逞しい。僕は、いつまでもいつまでも見ていた。
**********
俺は、可愛い可愛いサイラスが好きだった。身分違いもわかっているし、サイラスが男の子だと言う事もわかっている。でも、仕方が無いじゃないか。可愛いモノは可愛いんだから。
だからと言って、何が出来る訳でも無い。俺はサイラスが甘えてくれば甘えさせ、抱っこをせがめば抱っこをする。
可愛いサイラスを守りたいだけなんだ。
*****
サイラスが12歳の誕生日を迎えた頃、親父に言われた。
「公爵様からお前に、公爵邸から一番離れた庭の手入れを任された」
俺は16歳になっていた。
公爵邸の周りの庭は、来賓の目にも止まりやすいから、親父の様な技術者が管理している。常に美しく、色取取の花を咲かせなければならない。
今まで俺は、親父の下働きをしていた。言われた事を指示通りやるだけで、俺の意見は聞いて貰えない。
一番離れた庭は、誰も来ない。だからこそ、俺一人に任せても問題無い訳だ。
「必要な物が有れば、相談に来なさい。あの庭は誰も入らないから好き勝手にしても構わない。ただし、誰が来ても良い様に、美しく管理すること」
俺は、翌週には一番外れの庭にある、小さな小屋に引っ越した。
小さな小さな小屋で、キッチンも有る。俺が一人で住むには丁度良く、新しく建てられた様だった。
どんな庭にしようか、、、。サイラスが喜ぶ様な可愛い庭にしたい。沢山の花を咲かせたい、低木で小さな実が付くのも良いな。背が高すぎるよりも広く見渡せる方が良い。それとも、迷路を作ろうか。時間なら沢山あった。
翌週、サイラスが遊びに来た。
12歳のサイラスは、可愛さに少し少年らしさも出て来て、中性的な美しさがあった。
白い肌に、透き通る金髪。細く長い手足。
「デイビィッドはここに一人で住んでるの?」
サイラスが不安そうな顔をする。
「大丈夫。戸締りはちゃんとしてるし、夜は疲れて寝ちゃうからね」
「オオカミとか来ない?」
「夜、遠吠えが聞こえるよ」
「オオカミは小屋のまわりをうろつくの?」
「来てるかも知れないね」
「こわくないの?」
「怖く無いさ」
「デイビィッド、かっこいい、、、」
本当は、小屋のすぐ側に獣の気配を感じる夜は恐ろしい。でも、サイラスにそんな不安がる様な話はしたく無かった。4歳も年上なんだ。しっかりしないと。
「朝早く、リスが窓辺に来た事もあったよ」
「リス!見たい!」
30分程話しをしてサイラスは公爵邸へ帰って行った。
**********
デイビィッドを一番外れの庭に行かせたのは僕だ。父に、修行の為に一人で庭を管理、手入れをさせたらどうかと進言した。
将来、デイビィッドを僕の庭師にしたいから、早くから独立させて、失敗しても良いから学んで欲しいと言った。
あの庭は、一番どうでも良い庭で、失敗しようが何しようが問題無い場所だった。
住む場所は新しく建てて貰った。人一人住める位の小さな家だ。
僕は、デイビィッドを隔離したかった。公爵邸の近くで仕事をしていては、出会いもあるだろう。誰かに取られない様に、誰も来ない場所に縛り付けたかった。
デイビィッドはよく庭を散歩している。
僕は、それを屋敷の2階から頻繁に見ている。庭を歩きながら、色々模索をしているのか、時間を掛けて回る。
他の庭師に話し掛け、わからない事は何でも聞く。
でも、決して自分の父親を頼らない。意地になっているのか、父親の姿を見るだけで隠れる程だ。それでいて、父親の庭をよく見に行く。参考にするべき事が沢山あるらしい。
*****
デイビィッドの父親に対しての口の悪さは、相変わらずだった。でも、僕はそこが気に入っていた。勝ち気で、負けず嫌いで、意地っ張り。表情豊かな彼を、もっと見たいと思った。
**********
週に一度、昼過ぎにサイラスの訪問が有った。大した話をするわけでも無い。来ても10分から20分位。それでも俺はその時間に必ず小屋にいた、、、。
だけど、サイラスが学校に通う様になると、それが無くなった。
その代わりに、侍女のマーシャが遊びに来る様になった。俺と同じ歳位の侍女で、度々屋敷の裏で会う事が有った。
彼女の休みの日には、俺の小屋に顔を出す。一緒に庭仕事を手伝う日もあるし、昼飯を作ってくれる事もある。マーシャの作る料理は質素だけど、二人で食うと美味かった。
俺とマーシャは、お互い恋になる前の、友達よりは仲の良い、家族みたいに親しい存在だった。しかし、家族程近くは無い、相手の事を考え、言葉を選んでお互い傷付けない様に接していた。
16歳で此処に移り住み、一人で庭を育てた。
最初は思う様に上手く出来なかったけど、5年も経つと自分でもまともな庭になって来たと思う。
何も無かったこの辺りに、花が咲き、香りが漂う。色が増え、自分なりに大切な場所になっていった。
**********
学校を卒業して公爵邸に戻って来た、私は久しぶりにデイビィッドの小屋に向かう。デイビィッドとは三年も会っていない。
遠くから見ても、彼の庭は美しくなっていた。近付けば、甘い香りが漂って来る。甘い、甘い、、、甘すぎる、、、。ジャムの匂いだ。
私は開いた玄関の柱に寄り掛かり、家の中を覗き込む。知らない女がいた。誰だ?
すぐにベッドをチェックした。ベッドは綺麗に整えられていた。
小さい小屋だ。一人しか住めない様にした。部屋も一部屋、そこにキッチンと食事が出来るテーブルと椅子、後は少し大きめのベッドがあるだけだ。
デイビィッドと女はキッチンでジャムを作っていた。デイビィッドが女に話し掛け、女は鍋のジャムをスプーンで救い、デイビィッドに味見をさせる。恋人か?
私は柱をノックして、訪問を告げた。
二人は驚いた様に振り返る。
「坊ちゃん!」
デイビィッドが笑顔を向ける。
女は深くお辞儀をした。私が誰かわからない様だった。
私は女を睨み
「お前は今すぐ帰りなさい」
と静かに言った。女は、恥ずかしそうに
「申し訳ございません」
と小さな声で言うと、バタバタと慌てて部屋を出て行った。
デイビィッドは何を怒っているんだと言う顔をしていた。
「此処は、お前に与えた職場だ。女と相引きする場所では無い」
「坊ちゃん?」
「サイラス様と呼びなさい」
イライラする。私は、デイビィッドが女といた事に腹が立っていた。
こんな事にならない様に、わざわざ庭の外れに住まわせたのに、、、。
「相引きなんて、そんな、、、」
「男と女が二人きりなんだ、そう思われても仕方が無いだろう」
「どうしたんですか?坊ちゃん、、、いつもと全然違う、、、」
「サイラス様と呼びなさい」
デイビィッドが唇を結ぶ。
「俺!」
「自分の事は、私と言いなさい」
私が静かに言うと、デイビィッドは納得がいかないのか、拳を握った。
「サイラス様は、学校に通って変わりましたね、、、」
これが本来の私の姿だ。デイビィッドに好かれたかったから、可愛い僕を演出していた。ただそれだけだ、、、
「明日、話がある。本邸に来なさい」
「わかりました、、、」
*********
俺の天使が、、、大人になってしまった。俺が22だから、サイラスは18歳、、、。随分落ち着いている。
3年間で、何があったんだろう。何が、あんなにサイラスを成長させたのか。可愛いサイラスが、カッコ良くなっていた、、、。
15歳のサイラスは、身長は伸びていたけど、まだ幼さが少しだけ残っていた。今は俺よりも身長が伸びて、肩回りも腰回りも広くてがっしりしている。自分の事を「私」と呼ぶ声も落ち着いていて、大人の男になっていた。
それに比べて俺は何も成長していない、、、。
*****
翌日、公爵邸に行くとサイラスの周りには、可愛らしい男の子が数人いた。何だか、如何わしい感じがする。学校の友達だろうか、それにしてもヤケに距離が近く感じた。
サイラスを真ん中に、左右に一人ずつ、うっとりと寄り掛かる。ソファの背もたれに座り肩に手を掛けている人が一人、背後に立つ人が一人。
「あの、、、サイラス様、、、」
「気にしなくて良い、私の恋人達だから」
達!達って言った!あの可愛いサイラスに恋人がいるだけでも、驚きなのに、複数!、、、サイラスが心配だ。
俺はびっくりして何も言えない。
**********
「デイビィッド、君には明日から本邸の一番近くの庭の手入れをお願いしたい。君のお父様の元で勉強すると良いよ」
デイビィッドの表情が変わった。
「、、、わかりました、、、」
父親の元がよっぽど嫌なんだろう、眉間に皺を寄せ何かを我慢している。デイビィッドの顔から目が離せない。
「君の小屋から荷物を運んで、お父様と一緒に住まわれたらどうかな?」
「それはイヤだっ!」
殆ど叫び声だった。デイビィッドが感情を露わにすればする程、俺はデイビィッドに惹かれる。
私の周りに侍らせていた可愛い子達がクスクス笑う。
デイビィッドは、イライラしている様だった。
「あんなクソ親父と一緒に住むくらいなら、死んだ方がマシだ、、、」
「デイビィッド、口を慎みなさい。君のお父様だよ」
私を睨んでいた瞳を閉じ、拳をギュッと握る。我慢している顔が良い。
「それとも、私の恋人の一人なって、一緒に過ごすかい?」
「サイラス様、、、」
デイビィッドががっかりした顔をする。
「あんなに可愛かったのに、、、別人みたいだ、、、」
バカだな、あっちが偽物なのに。
**********
可愛い可愛い坊ちゃんが変わってしまった、、。
一体学校で何があったんだ、、、。
それに、俺に恋人になるかだって?あの中の一人に加えたい?アホくさ、、、。サイラス、ちょっと疲れてるのかもな、、、。
それにしても、彼等はみんな可愛かった、、、。昔のサイラスみたいに、、、。サイラスは、可愛い子が好きなんだな。
俺とは全く違うタイプの恋人達を選んだサイラスに、ちょっと淋しいと思ってしまう。
子供の頃から親父と仕事をするのが嫌だった。いちいち正論で腹が立つからだ。そりゃあ、俺が憎たらしいのはわかってる。可愛げは無いし、素直でも無い。反抗的で親父にすぐ突っかかる。謝る事もしないし、一丁前で口先ばかりだと思う。
それにしても、親父はいつも傲慢だった。幾ら息子と言えども、それはあんまりだと言う事が沢山あった。
*********
久しぶりに帰って来たのに、デイビィッドが侍女と親しくしている後ろ姿が頭から離れない。腹が立って、デイビィッドを傷付けたくなる。
私のデイビィッド、、、。やはり私専属の、最側近の従者にした方が良いかもしれない、、、。
**********
サイラスの恋人達は自由だった。サイラスの執務室に一緒に入る。仕事?仕事をしているのか?本当に仕事だろうか、、、?
あの何とも言えない雰囲気が、俺に変な想像をさせた。
俺は結局、親父の元で仕事をする事になった。公爵邸の建物の周りは一段と美しく整えられている。ふと見上げると、窓辺でサイラスが恋人の一人と一緒にいた。
俺は目が離せない。二人は絵に描いた様に美しかった。
開け放たれた窓から風が入り、薄いレースのカーテンが舞う。窓際で恋人が、サイラスの首に両手をを回す。サイラスは、彼の腰を抱き、口付けを交わした。
俺の可愛い坊ちゃんは、もう何処にもいない。
*****
サイラスが公爵邸を出る日が決まった。次男の彼は、いずれ屋敷を出無ければならなかった。学生の頃から、会計士の勉強をしていた彼は、街で会計事務所を開くらしい。
そして、俺を連れて行く。何故だ?
「サイラス様、俺は庭師ですよ?従者に向かない」
「大丈夫、デイビィッドは素晴らしい人材だ。あの庭を一人で美しく育て上げたし、他の庭師とのコミュニケーション能力も高かった、お父様には楯突く事もあった様だけど、逆に頼もしいと思うけれど?、、、ま、ちょっとお父様に対して、言葉使いが悪いけどね」
「でも、、、」
俺は言葉使いの事を言われると、少し反省した。
「小さな家だけど、庭もある。公爵家から出て不安な私を、君が支えてくれないか?」
サイラスが、俺の両手を取り、昔の様に甘えて来る、、、。あの頃の坊ちゃんだ、、、。
「俺で良いのかな?」
「デイビィッドが良い。デイビィッドがいてくれたら、心強い」
瞳を潤ませて言われたら、断れない。親父の元を離れられるのも嬉しいし、街に住むのも憧れる。
「俺で良ければ、、、」
「すまない、助かるよ」
サイラスが俺を抱きしめる。大きくなっても、本当は甘えん坊なんだな、、、。
言葉使い、少し直した方が良いかも知れない、、、
*****
サイラスの荷物は多かった。俺の荷物は旅行鞄に入るだけ。サイラスの荷物を馬車に運び、最後に俺の鞄を積んだ。
サイラスの元に行き
「サイラス様、荷物の準備が出来ました」
と報告をすると、公爵様と奥様、御兄弟に別れを告げて馬車に向かう。
サイラスの新しい家は、街から少し外れた場所にあった。建物は少し古く、庭もある。誰も住んでいなかったみたいで、庭を見ると少し荒れていた。
玄関から建物に入ると、かなり狭かった。俺が住んでいた、あの庭の外れの小屋よりは広かったけど、ここにサイラスが住むのかと思うと少し淋しかった。
「狭くて申し訳ないね。私は、公爵家を継げないから最早一般人なんだ。この家も借りているだけだよ。早く仕事が軌道に乗って、小さくとも家が買えるといいのだけれど、、、」
「まずは荷物を運び入れましょうか」
掃除はしてあった。引越しの前に、公爵家から掃除に来ていたのだろう。サイラスの荷物も日用品以外は運び込まれていた。
俺の鞄を隅に置き、サイラスの衣服や日用品を片付け終わると、サイラスが街に出ようと誘ってくれた。二人で散歩をしながら、中心街へ行く。明日のパンと果物と野菜を買う。サイラスがこの後会計事務所に寄ると言うから、肉は買わなかった。
サイラスの会計事務所を外から見せて貰う。中に入ろうと、扉を開けるとあの時サイラスとキスしていた、可愛い男の子が出迎えた。
「サイラスさん!」
「今日、無事に引っ越しが終わりました。明日からまた出勤する予定だから、お願いします」
「引っ越し祝いの準備出来てますよ!」
そう言って、サイラスと腕を組み、建物の中へ引き入れた。親しいんだな、、、。
俺も入って良いのか悩んでいると、サイラスが
「デイビィッド!」
と呼んでくれた。
あの時の四人がいた。サイラスの恋人達、、、。
部屋の中に酒と、食事が用意してあった。6つのジョッキに酒が注がれた。
「乾杯!」
の声に、みんながジョッキを持ち上げる。俺だけ勝手がわからず、遅れてみんなの真似をする。
五人は仲良さそうに、酒を飲み、料理を食べ始める。祝いの言葉を貰うサイラスは嬉しそうだった。
酒を飲んだ事が無い俺は、ジョッキの酒を少しずつ飲む。大皿の食事に手を出す事も出来ず、酒だけを飲んだ。
サイラスの恋人という事は、みんな爵位が有って、同じ学校に通っていたと言う事だろう。
俺は疎外感でいっぱいだった。
サイラスは美しかった。他の四人も可愛い顔をしていたし、見目麗しい集団だった。五人で会計事務所を開いた様で、俺のわからない話ばかりだった。
ふと、俺には友達もいないと思った。いや、一人だけ少しの間いた。マーシャの事を思い出した。サイラスがマーシャを追い出してから会っていない事に気が付く。マーシャが作った素朴な料理を思い出しながら、目の前の料理を見る。マーシャの料理が食べたいと思った。
*****
夜道をフラフラと歩く、サイラスは酒に酔う事も無く俺を支えてくれた。
「デイビィッド、危ないから」
そう言われて顔を見る。サイラスが玄関の鍵を開ける。
「サイラス様はカッコ良い。恋人達は可愛いし、新しい事務所も開いて凄いな」
「デイビィッド、、、?」
促す様に背中に手を添え、家に入る。
「俺には何も無い、、、」
ふふふと笑った。
「あんなに可愛い恋人達がいるのに、どうして俺を連れて来たんですか?」
サイラスは、俺の肘に腕を回しベッドまで連れて行ってくれた。
「かなり酔ってるけど、食事、取らなかったの?」
支えられながらベッドに腰掛ける。
「酒は初めて飲みました。食事は緊張して、手が出無かった、、、」
「空きっ腹に酒だけか、、、」
サイラスに呆れられた。
「マーシャの料理、、、美味かったな、、、。また食いたい」
肩をトンッと押された。あっ、と思った途端ベッドの上に倒れた。
「、、、その名前は嫌いだ、、、」
サイラスの声にゾクゾクした。俺を睨み付けながらベッドに上がって来る。ベッドが軋み、ギッと音を立てた。
「やっと手に入れた」
手に入れた?何を?
サイラスの唇が触れた。俺は思わず突き飛ばした。
「なっ!」
何故?!恋人があんなにいるのにキスなんて!
俺は思わず睨んだ。
「あの女と付き合っていたのか?」
低い声だった、、、。
「付き合ってない」
「年頃の男女が二人でいたら、やる事は一つだろ?。あの部屋にはベッドもあったし、、、」
肩を押して倒された。酒に酔っているのかフワフワする。
「マーシャは家族みたいなものだ」
「結婚を考えていたのか?」
睨みながら
「そうじゃ無いっ!ただの友達だっ!」
「あの女はそうは思ってなかったんじゃ無いか?、、、」
サイラスの手が、服を捲り、脇腹を触る。
「止めろっ!サイラス様には恋人がいるだろっ!」
俺が抵抗すると、サイラスが俺の両手首を掴み、手を持ち替えて、片手で固定する。もう一度、脇腹を撫でられ涙が滲む。顔を背けて
「何でこんな、、、」
嗚咽が出そうになりながら瞼をギュッと瞑る。
サイラスの身体が近くなる。耳元で
「愛している」
と言われた。
「なっ?!なななななっ!何?!」
思った以上のデカい声が出た。
サイラスがフッと笑った。力が抜けたのか、俺に身体を預ける様にのし掛かり、耳元で笑いを堪えている。
髪がサラサラと当たり、恥ずかしくて顔が赤くなる。
笑い声が徐々に大きくなる。我慢が出来ないのか、俺を抱き締めながら笑う。
漸く落ち着いたのか、溜息を一つ吐く。
「ホントに君は予想外だ」
「子供の頃から好きだった」
俺は目を見張った。
「デイビィッドは見ていて飽きなかった。大人ばかりの中で、子供は兄弟とデイビィッドだけだった。みんな取り澄ましている中、あんなに感情豊かな人間はいなかった。、、、そして、俺に優しかった」
サイラスが「俺」って言った、、、。
「デイビィッドに好かれたくて、可愛い僕になった」
何かを思い出した様に、サイラスが笑う。
「手を繋いだり、抱き上げてくれたのはデイビィッドだけだった。公爵家の人間は甘えを許さなかったし、、、」
サイラスが俺の横で、仰向けになる。
「やっと二人きりになれた」
「でも、恋人が、、、」
「嘘をついた。ただの仕事仲間だ。協力して貰ったんだ」
「仕事仲間とキスするんですか?」
「窓際のキスの事だろ?デイビィッドが見てるのがわかったから、協力して貰った。彼にはちゃんと恋人もいる。実際にはしていない。あの時のアイツの心底嫌そうな顔は酷かった」
サイラスが身体の向きを変える。俺の顔を見ながら
「少しは妬いてくれたかな、、、」
にっこり笑う。
「いや、、、でも、、、サイラス様?」
「サイラスと、、、」
「あ、、、えと、、、そう言う訳には、、、」
「何故?もう、公爵家から出た俺は一般人だよ?デイビィッドと何も変わらない」
「俺の気持ちが追いつかない、、、」
「わかった、、、。俺の気持ちは伝えたから、後はゆっくり考えてくれれば良い」
サイラスは上着を脱ぎながら、部屋を出た。
一人で使うには大き過ぎるベッドの上で、考えなければいけない事がある筈だった。だけど、静かな部屋に一人になると、ウトウトして来る。モゾモゾと上着を脱ぎ、ズボンを脱いで力尽きた。
サイラスに告白された、、、。好きだから、俺を連れて来てくれたのかな?あの四人は仕事仲間と言っていたけど、本当なんだろうか、、、。頭が全く回らない、、、。
**********
サイラスは、服を脱ぎ、シャワーを浴びてから着替えた。風呂が無いのは不便だった。次に引っ越しをする時は、風呂のある家に住みたい、、、。
ベッドの上で、デイビィッドが寝ている。初めて見る寝顔、、、整った顔と少し日に焼けた肌を、何時迄も見ていたい。
デイビィッドの頬に触れる。
そっと、デイビィッドのシャツのボタンを外す。一つ、、、二つ、、、。
「う、、、ん、、、」
デイビィッドが声を漏らす。三つ目のボタンを外し、襟元を広げる。庭仕事は意外と力仕事だ。デイビィッドの少しだけ筋肉の着いた胸元を見る。触る。
俺とは違う身体だった、、、。
俺はデイビィッドの身体を壁際に転がし、ベッドに上がる。そっと後ろから抱き締めて、デイビィッドの匂いを嗅ぐ。長かった、、、、やっと、デイビィッドに触れる事が出来た、、、。
デイビィッドにしがみ付く様に抱き締め、朝まで眠った、、、。
**********
目が覚めると、サイラスを抱き締めていた。俺よりも背が伸びたサイラス、、、。寝顔は天使だった。白い肌、透き通る金髪、、、芳しい香り、、、。
サイラスを起こさない様にベッドを抜け出したい。さて、朝食をどうしよう、、、。
ベッドの足元からそっと降りようと静かに身体を起こすと、サイラスの手が伸びて来た。
グイッ!と引っ張られた。
「危な、、、!」
「デイビィッド、お早よう」
「お早ようございます、サイラス様。簡単に朝食にしますか?」
俺は、昨日の夜を思い出して、何だか恥ずかしくなった。
「まだ、起きるには早過ぎる。もう少し、ベッドでゆっくり出来るな」
「それなら、サイラス様はここでゆっくりして下さい。俺は、別の
「無いよ」
「無い?」
「この家にベッドはこれだけだ。他の部屋には無い」
「え?俺、床で寝るの?」
ちょっと素が出てしまった、、、。
「まさか」
サイラスが笑う。
「このベッド、ちゃんと二人で寝られる様に大きなサイズだろ?」
「一緒に、、、と、言う事、、、ですか?」
俺の顔が赤くなるのがわかる。
「そうなるね」
「そんなのダメだ!」
**********
あー、ヤバい。俺のデイビィッドをいじめたいスイッチがONになっている、、、。
「どうして?」
「いや!だって、男同士だし!」
「男と女の方が良く無いと思うけど」
デイビィッドがハッとする。わかりやすいな、、、。俺が、少しずつ近寄るとデイビィッドはジリジリと下がっていく。
「サイラス様、冷静に、、、」
「俺はいつでも冷静だよ」
デイビィッドをベッドぎりぎりまで追い詰めたら、落ちそうになった。咄嗟に腕を掴み引き戻す。デイビィッドを胸で受け止め、にっこり笑うと
「冗談ですよね?」
と言われた。
「俺は昨日の夜、愛してると伝えた筈だけど?」
答えると耳まで赤くした。俺はデイビィッドの頬に手を添えて、静かにキスをした。
**********
俺の頭は大分混乱していると思う。サイラスが俺を好きだなんて、、、。
今日の朝食は、パンと果物だった。昨日の買い出しで朝食に出せるのは、それ位だからだ。今日、もう少し買い物に行かないと、、、。
、、、愛してる、、、
俺は、りんごの皮を剥きながら、昨日のサイラスを思い出した。
耳元で囁かれた声が蘇る。低い声だった。思い出すだけで、身体の何処かがゾワゾワして、胸の奥がギュッとなる。
「デイビィッド、大丈夫?手が止まってる」
「え?、、、」
「手が、止まってる、、、」
「あ、あぁ」
ガシャーンッ!
「ご、ごめっ」
ナイフを落としてしまった。サイラスが慌てて走って来た。
「大丈夫?怪我は?」
「ありません、、、」
サイラスが俺の手を取る。怪我をしていないか確認している様だ。
サイラスの大きな手が、すごくセクシーに見えた。小さくて、俺の手にすっぽり入り込んでしまいそうだったのに、もう昔のサイラスでは無いんだな、、、。
「あの、サイラス様、今気が付いたんだけど、、、」
「何だい?」
「俺、、、男だけど、、、」
「?そうだね?」
「男の俺でいいんですか?」
「デイビィッドだからね、、、」
「、、、」
自分の気持ちもわからない俺は、何か引っ掛かっているのに、何が引っ掛かっているのかわからなかった。ただ、サイラスとの関係をどうしたら良いかわからなかった。
*****
朝食を摂り、サイラスは会計事務所に向かった。俺は片付けをして、掃除をする。それが終わると買い出しに行く。
中心街までのんびり歩く。途中、小さな子供を連れたお母さんを見掛ける。子供は、お母さんと手を繋いで歩く。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、行きたい所に行く。お母さんは飽きる事なく、子供に付き合っていた。
可愛いな、、、。
サイラスも可愛かった、、、。
そうなんだ、、、可愛らしい子供だった。俺のサイラスに対する好きは、子供の頃のサイラスに感じた可愛いだ。その延長線上の好きなんじゃないかな?
そんな好きなのに、愛してると言われても、俺はどうしたらいいかわからない。
サイラスの事は好きだと思う。決して嫌いでは無い。だけど、、、サイラスの愛してるとは違うモノだ、、、と思う。
、、、あのキス、、、は、ダメだ。
*****
「デイビィッド、、、」
夕食が終わり、片付けをしているとサイラスが後ろから抱き締めて来た。
瞬間、顔が赤くなり、俺の身体が緊張で硬直している。
「デイビィッド」
首の後ろの匂いを嗅がれた。
っ!
思わず、首を押さえて振り向いてしまった。
サイラスがクスクス笑う。
ああ、そうか、サイラスは揶揄っているんだ。俺の反応が面白くて、
「巫山戯ないで下さい」
「デイビィッドが可愛いから」
「悪趣味が過ぎる」
ふふッとサイラスが笑う。身体の向きを変えた俺をもう一度抱き締め、頬擦りする。
「サイラス様、こう言う事は恋人同士がする事だと思います、、、」
俺は、サイラスから身体を離した。サイラスは少し寂し気な顔をした。
夜、一緒に寝ると思うと何だか変な気分になった。片付けをして、何もする事が無くなると、どうしたら良いかわからなくなった。サイラスは食事の後に仕事を始めてしまうし、先に寝るのも申し訳なかった。
フッとサイラスが、顔を上げる。
「デイビィッド、先に寝てても構わない」
と言われて、緊張する。それはサイラスにも伝わった様で、苦笑された。
俺は一礼して布団に入り、出来るだけ壁寄りに寝る。
後ろでサイラスが紙を捲る音が聞こえる。その度に、まだ仕事が終わらないんだとか、大変なんだな、、、と思う。
瞼がだんだん重くなって行った。
朝、目が覚めるとベッドには一人だった。サイラスはどうしたんだろうと、寝返りを打つと机に伏せって寝ている。
俺はしまったと思った。サイラスを椅子で寝かせて、自分だけ布団で寝るなんて、、、。
ベッドから降りて、机に近付く。
「サイラス様、、、」
そっと声を掛ける。サイラスがモゾッと動く。
「風邪を引きます。ベッドで寝ないと」
「ああ、すまない、、、」
そう言って、ベッドに移動する。少しでもベッドで寝て欲しかった。俺は、朝食の準備をして、ギリギリまでサイラスに寝て貰った。
*****
外がなんだか賑やかだ。そろそろサイラスが仕事から帰って来る頃だった。扉を開けると、サイラスと会計事務所の人達が、ソファを運んでいた。かなり大きい。
「デイビィッド!そのまま、扉を開けていてくれ!」
と言われて、大きく扉を開く。
ソファを運び入れ、リビングの西側の窓の下に置いた。
「はぁ、、、重たかった、、、。サイラスさんが明日のお昼をご馳走してくれるって言うから頑張ったけど、それだけじゃあ割に合わないかも」
あの時の彼が疲れた顔で言った。しばらく賑やかに話しをして、事務所の人達は帰って行った。俺は話しの輪の中に入る事が出来なかった。
「勝手に家具を持って来て申し訳ない。丁度欲しいと思っていたから、譲り受けたんだ。一人では動かせないから、運ぶのを手伝って貰った」
「サイラス様の家なのに、気を使わなくても、、、」
そう言うと、少し淋しそうな顔をした。
*****
ソファが来てから、サイラスはそこで寝る様になった。最初はいつも仕事を持ち帰っていたから、俺を起こさない様にしているのかと思っていた。
しかし、一度、夜に目が覚めて水を飲みに行くと、サイラスはリビングのソファで寝ていた。その日は仕事を持ち帰っていなかった、、、。
今日もソファで寝ている。夜中、気になって見に行くとやっぱりリビングにいた。
「サイラス様、、、」
俺はそっと起こす
「サイラス様、どうかあちらで」
「デイビィッド、、、」
サイラスの両手が伸びて来た
「サイラスと、、、呼んで、、、」
首に腕を回しながらウトウトしている。
「サイラス、、、ベッドで寝ないと」
小さな声で言う。
「連れてって、、、」
と言いながら、回した腕にギュッと力を込める。
動きが止まって、サイラスの力が抜けた。
「あぁ、、、いけない、、、」
「?」
そう言いながら、サイラスは腕を解いた。
目が覚めた様だった。
「ベッドはデイビィッドが使うと良い。私は此処で構わない」
私?
急に距離を感じた、、、。最近のサイラスは自分の事を「俺」と呼んでいたのに、、、。
「サイラス、、、様は、仕事で疲れているから、ベッドを使った方が、、、」
サイラスが俺の目を見る。「様」を付けたからか?
「サイラス、、、ベッドへ」
サイラスの力が抜けた様だった。少し、緊張していたんだろうか、、、。
「すまない、、、デイビィッドは?」
「水を飲んでから」
「そうか、、、」
サイラスは静かに奥の部屋へ移動した。
グラスに水を注ぎ、椅子に座る。
最近、何だか上手くいかない、、、。
すぐにベッドに行く事も出来ず、しばらくリビングで過ごす。グラスを洗い、音を立てない様に部屋を移動した。
サイラスはベッドの中にいた。ホッとしながら、寝ているか確認した。緩やかな寝息が聞こえる。俺が布団に入ると起こしてしまいそうで、静かにリビングに戻った。
**********
はぁ、、、、
デイビィッドがやっとベッドに来たと思ったら、部屋を出て行ってしまった。寝たフリをすれば布団に入って来ると思ったのに、、、。溜息しか出ない。
デイビィッドが、同じベッドで寝るのは緊張する様だから、ソファで寝る事にした。告白した後から、少し距離を置かれている気がするし、、、。
俺はベッドから出て、リビングに向かう。そっと扉を開ける。明かりは全て消えていた。リビングのソファに座ったまま、デイビィッドは寝ていた。
一度ベッドに戻り、上掛けを持ち出すと俺もデイビィッドの横に座り、布団を掛けた。
**********
何故、二人でソファに寝てるんだ、、、。折角、サイラスがベッドで寝たと思ったのに、、、。
サイラスが俺に寄り掛かりながら寝ていた。サラサラの髪が頬に当たり、気持ちが良い。つい頬擦りしてしまう。
「デイビィッド、、、」
サイラスが起きていた。
「やっぱり、デイビィッドは俺の事、何とも思って無いんだろ、、、」
「いや、、、そんな事は、、、」
「好きじゃ無いから、昨日、ベッドに入らなかったんじゃ無いのか?」
サイラスは、俺の肩が布団から出ていたのに気付き、上掛けを掛けた。
「サイラスを起こすといけないと思って、、、」
「、、、此処に無理矢理連れて来たのは、俺だ、、、悪かった。、、、もし、戻りたかったら、、、父に頼んで、公爵家に戻れる様に話を通す、、、」
俺はサイラスや、あの人達の様な仕事は出来ない。家の事も、まだ満足に出来ないし、最近、此処に居る意味が無いんじゃないかと考えたばかりだった。
「、、、それは、俺が役に立たないから?」
「嫌いなヤツと一緒にいても疲れるだけだろう?」
「嫌いだなんて、、、そんな事」
「、、、朝食を食べよう、、、。ちゃんと話しをしたかったけど、時間が、、、」
「、、、そうですね、、、」
そう言うと、デイビィッドが立ち上がりキッチンへと向かった。
*****
俺は、サイラスの事を嫌っている訳じゃ無い。ただ、俺の好きとサイラスの好きが違うだけだ、、、。
玄関をノックする音がした。
「はい」
と返事をして、扉を開けるとサイラスと彼だった。あの、公爵邸でキスをしていた、、、。
「すいません。サイラスさんが珍しく酔っ払ってしまって、、、」
二人、肩を組みながら帰って来た。
「送ってくれて、、、ありがとう」
そう言って、サイラスは彼にハグをした。彼で無ければ平気だったかも知れない。でも、窓辺でのキスシーンを思い出して、サイラスの腕を引いていた。彼からサイラスを遠ざけたかった。
サイラスが軽くよろけそうになり、俺は支える様に抱きながら
「いつもありがとうございます」
と、彼に言った。
「すいません、後はお願いします」
彼はにっこり笑うと、静かに扉を閉めた。サイラスをソファに座らせ、玄関の鍵を閉める。キッチンで水を汲み、サイラスに渡す。サイラスはトロンとした目をしながら、グラスを両手で受け取った。
水をゴクゴクと飲み干し
「あぁ、、、美味い、、、」
と微笑む。俺はグラスを受け取り、キッチンに持って行く。
サイラスの上着を脱がし、立ち上がらせるとベッドまで連れて行く。今日こそは、ベッドで寝てもらわないと、、、。サイラスをベッドに座らせて、靴と靴下を脱がす。
ふふ、ふふふ、、、。
サイラスが笑う。ベッドに勢いよく倒れ込む。
ふふふ。
寝息が聞こえて来た。やっとベッドで寝てくれる。俺は、背中を向けて寝ているサイラスの顔を確認した。ちゃんと寝ているか心配だったから、、、。
サイラスは涙を流して寝ていた。
すまない、、、。
そう思ったら俺も涙を流していた。サイラスは静かに寝息を立てている。
俺は、サイラスの背中に寄り添う様に横になり、そっと腕を回して抱いた。
子供の頃から好きだったと言われた。それなのに、俺は自分の気持ちばかりを考えていた。サイラスはどれだけ長い間、俺の事を好きだったんだろう、、、。5年?8年?出会ったのはもっと小さい頃だった。サイラスは6歳より小さかったと思う。
俺の好きがサイラスと同じ好きなら良かったのに、、、。
サイラスがモゾモゾ動く、腕を緩めると向きを変えて、こちらを向く。腕の中に収まり、また眠った、、、。坊ちゃんと呼んでいた頃と同じ顔だった、、、。
ほんの少し、彼の移り香がした、、、。
*****
「デイビィッド、今日は帰りが遅くなる」
「わかりました」
「食事もいらないから」
「仕事、忙しいのですか?」
「いや、昨日の彼の相談に乗る事になっていてね。食事をしながら呑む事になると思うから、デイビィッドも好きに過ごすといい」
「そうですか、、、」
サイラスの側にいるのは、いつもあの男だと思った。事務所には、他の人もいるのに、何故いつもアイツなんだろう、、、。
一度モヤモヤすると、頭から離れなくなった。
確か恋人がいると言っていた筈だ。
、、、でも、もし、、、サイラスに恋人と別れる相談をしていたら、、、。
サイラスとアイツが付き合う事になったら、、、。
俺は、、、。俺は、どうしたら良いんだろう、、、。
夜遅くなっても、サイラスは帰らない。寝ようと思っても、眠る事が出来ず、ソファに腰掛けぼんやりしていた。動くのも面倒だった。
部屋に明かりは点いていない。窓の外の月明かりが部屋の中を少しだけ照らし、何処に何があるかわかる位の明るさだった。
カチャリと鍵の回る音がして、玄関が開く。俺は、玄関まで歩いてサイラスを出迎える。
「デイビィッド?」
サイラスは、酒を呑んでいる様だけど、酔う事も無くシラフだった。ホッとした。
「具合でも悪いのか?」
そっと俺の腰に手を当てて、部屋の中へ促す。
「ソファに掛けてて、、、」
サイラスの顔を見る。上着を脱ぐと、彼の残り香がした、、、。
いきなり涙がボロボロ溢れ(こぼ)出した。何だかわからない感情に、唇をキツく結ぶしか無かった。サイラスがギョッとした声を出す。
「デイビィッド?」
俺は動く事が出来なかった。俺を愛してると言ったじゃ無いかと呟きそうになった。少しでも、口を開けば感情が溢れ出して、泣き崩れそうだ。
サイラスが手を引いて、ソファに座らせてくれる。ポケットからハンカチを出した。ハンカチを受け取り、目頭を押さえながら涙を拭く。
サイラスがそっと抱き締めた。ただ、それだけなのに、俺の涙腺は崩壊して、涙が止まる事は無くなった。
「一体どうしたんだ?」
俺は首を横に振るしか出来なかった。自分でも涙の意味がわからない。
サイラスが横に座り、そっと抱き締めてくれた。何も言わずに寄り添ってくれる。
しばらく涙を流すと、俺も落ち着いて来た。
「すみません、、、」
ソファから立ち上がると、サイラスが俺の指先に触れる。
「デイビィッド、、、話してくれないとわからない、、、」
静かな低い声に、また涙が出そうだった。
「嫌だなって、、、彼と一緒にいたと思うと嫌だなって」
「どうして、、、?」
「わからない、、、ただ、そう思って、、、」
「何を考えた?」
「、、、もし、、、彼が恋人と上手くいっていなかったら、、、。今日、サイラスにそれを相談しているのかも、、、。サイラスが彼と付き合う事になったら、、、とか、、、」
サイラスは静かに聞いている。
「何故、いつも彼なんですか?、、、サイラスが彼を選んだなら、、、いつか、俺は、、、」
俺に触れているサイラスの指を握った。
「いつか、俺は此処を出て行く事になるんですか?」
「デイビィッド、そんな心配しなくていいから、、、。俺は、子供の頃から好きだったと言っただろう?」
「俺の好きが、サイラスと同じ好きなら良かったのに、、、」
「デイビィッドの好きは、どんな好きなんだ?」
「、、、サイラスが小さい時、可愛いと思っていました。可愛くて、守りたいと思った、、、。サイラスの事は好きです。でも、、、きっと、小さいサイラスを可愛いな、好きだな、と思う気持ちの延長だと思います。、、、その、愛してるとかでは無い、好き」
「それじゃあ、ダメなのか?」
瞬きをして、視線を落とす。
「サイラスの好きと違う、、、」
「でも、デイビィッドは彼にヤキモチを妬いたみたいだった、、、。俺の事、、、」
「ヤキモチ?」
「俺をアイツに取られないか、心配だったんじゃ無いか?」
「、、、」
サイラスは、俺が握った指先を引き寄せ口付けをする。上目遣いで俺を見る瞳に、心臓がドキドキする。薄暗い部屋の中、窓際のソファに座るサイラスの瞳は惹き寄せられる何かがあった。
「今だって、泣いてるじゃ無いか、、、」
グイッと腕を引かれた
「わっ!」
何故か、サイラスの膝の上に座っている。
ふふ。
サイラスが笑う。
俺はサイラスの顔を見ると少し安心した。優しい顔をしている。
サイラスは、俺を抱きながら、俺が膝から落ちない様に、座り直した。
「彼ね、、、結婚するんだって、、、」
結婚、、、。
「事務所を新しく立ち上げたばかりの結婚だから、相談したかったらしい、、、」
サイラスは膝に乗った俺の胸に寄り掛かり、微笑む。
「彼の彼も、幼馴染なんだ、、、」
彼、、、幼馴染、、、。
「だから、デイビィッドが心配する事なんて、一つも無いよ、、、」
背中に回した手が、、、腕が、、、。俺をしっかりと支えてくれる。サイラスがすごく大人に感じた。
下から俺を見上げて、頬に触れる。優しくて、触れた先からもっと触れて欲しいと思う。掌全体で、頬を撫でられると嬉しかった、、、。目を閉じて、自分から頬擦りをする。気持ち良い。
スッとサイラスが動き、キスをされる。そのまま、俺を支えながら膝から降ろし、後ろに倒された。
「彼の香り、、、ですね、、、」
俺は、サイラスの首に腕を回しながら首筋の匂いを嗅いだ、、、。言うつもりは無かったのに、、、。
「、、、最後にハグして別れたから、、、」
俺は責めるつもりは無いと首を振る。
「ハグはしたけど、キスはデイビィッドとだけだ」
少しだけ、身体を離してキスをくれた。
「キスは、、、好き?」
サイラスの瞳を見る。
「、、、好きです、、、」
「デイビィッドは、俺をちゃんと好きだよ、、、。そうで無ければ、俺とのキスに、、、」
ちゅっとわざと音を立ててキスをされた。
「気持ち良くならない」
サイラスが唇を優しく噛んだ。俺の中の何かが、スイッチを押した。サイラスが欲しくて欲しくて堪らなかった。俺もサイラスの真似をして唇をそっと噛む。柔らかくて、気持ち良い。舌に触る唇の感触がもっと触れていたいと思った。サイラスの口の端に舌を這わすとゾクゾクした。
「もどかしいな、、、」
唇が離れるとサイラスがポツリと言う。
サイラスの瞳を見つめると、熱く潤んでいた。
「愛してる、、、。お前は俺のモノだから、、、」
そう言うと、俺のキスとは全く違う、貪る様なキスをした。
、、、サイラス、、、愛してる、、、。
身体の中からそんな感情が溢れ出て来た、、、。
沢山の作品の中から選んで、最後まで読んで頂いて嬉しいです。二人がいつまでも幸せでいられますように。




