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焔の龍刃  作者: 青頼花
第四章【聖と闇の舞踏】

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第12話〈重い運命を背負う修道女達〉

 マッテオがフランスに亡命したという情報が、水面下にて神無殻に流れてきた。

 夕都達と別行動をしている貴一は、スマホにて神無殻のSNSを覗くと、茉乃に声をかける。


「マッテオを追って、夕都さん達はフランスみたいだ」

「え」

「おねえちゃん、早く外いこう!」

「ご馳走なくなっちゃうよお」


 茉乃はステンドグラスの窓から顔を貴一に向けると、腰元に抱きつく子供二人にせがまれて微笑んだ。


「そうね。貴一さんも一緒にいきましょう」

「あ、うん」

「マノ〜、キイチ〜」


 間延びした少女の声に二人は身体を反転させる。教会の入口からは賑やかな声や音がひびきわたり、内部に反響していた。二人を歓迎するパーティーがおこなわれているのだ。

 この教会には、茉乃の前世であるシスターに導かれた。

 彼女は教会の入口で消えると、入れ替わりのように、女性が姿を見せる。

 教会に住込で働いているロザンヌであった。

 二十歳ほどのくせっ毛な茶髪と、丸い大きな青の瞳が印象的で、流暢な日本語で二人の面倒をみてくれる。

 ロザンヌの肩には、黒いあの小さな蛇が戯れていた。


 庭には修道女達が子供達の世話をしている。中心には様々な料理が皿上にもられており、長いテーブルに敷き詰められていて、鼻腔をくすぐった。


 この“テオトコス教会”には、ある秘密が隠されている。地下へ続く階段を降りて、奥の細い道を歩いていけば、据えた臭いが満ちていた。


 カタコンベ。地下墓地。

 壁際にならぶ6人の修道女。

 彼女達は朽ちてはるか時間がたっているが、見目麗しく、今にも目を覚ましそうである。だが、目には硝子玉がはめこまれており、無機質な光を放つ。


 視線があうと、語りかけるような不思議な感覚を受けた。

 茉乃は、一番年長者と見える修道女を一目見て、心が震えるのを感じた。

 思わず頬に手を添えると、鼻の奥がつんとする。


「ここはもとは修道院だったの。埋められたけれど」


 ロザンヌはランプの明かりをさらに壁際に近づけて、あどけない無垢な修道女を照らし出して語り続けた。


 彼女達は、マリアに選ばれし聖女の魂を守るために、自らの命をささげたという。数百年もの間、守り人の一族として

 テオトコス教会が力を尽くしてきた。

 茉乃が蛇を伴い現れた時、一族は待ち望んだ時が来たと、歓喜につつまれた。


「マノ、キイチ、あなたたちは、やはり壁に刻まれた言葉の通り、あの二人の生まれ変わりだわ。きっと、マリア様のお導きね」


 ロザンヌははにかみながらも、涙を流して茉乃の手のひらを握りしめる。

 悲壮と希望の混じりあう表情にとまどうが無理もない。


 いつか、大天使が降りたつ時、世界を救うべく蘇る。彼女達は二人を崇拝していたのだ。

 正確には、聖女たる存在の復活を待ち望んでいた。

 聖女は、マッテオが連れた彼女であろう。ならば、夕都と朝火が、保護するはず。

 茉乃は、何をすべきかをたしかめるために、かつての仲間たちをこうして尋ねたのだが、声は返ってこない。

 自分にはレイラインを独自の意志で操るなどということができない。

 せめて、魂の声をきけたらと思うのに。


「茉乃さん、手を」

「あ」


 ふいに貴一に手を握られて、意識を引き戻された。

 同時に、脳内にある記憶が蘇る。


 “金髪の少女が、修道女と騎士に囲まれてストーンヘンジの中心にたたずみ、天を仰ぐと光が溢れ出す”


 大天使ミカエルが聖女に向かって翼をひろげるが、聖女の光にはばまれて降りたつことはできない。

 こうして受肉を邪魔されていたのだ。


「何を見てるの?」


 ロザンヌが声をかけて顔をのぞきこむ。

 茉乃は貴一の手に力が入るのを感じて目を向ける。

 貴一は、目を見開いてロザンヌを見据えていた。


 かつて、貴一は茉乃を守るために剣をかかげた。

 なんどめかの転生だったのかは忘れたが、自分は、彼女のためならば命をささげる決意をして最期を迎えた。


 それは、今世も同じだ。


 フランスにテロリストが逃げ込んだ。

 ニュースが世界に流れたタイミングで、夕都は、朝火と共にマッテオの足がかりを見つけ出した。


 足を踏み入れたのは、モンサンミッシェル。橋を歩いていると、河口堰にとけこむような修道院に吸い込まれそうになる。


 夕都は朝火と連なり、観光客と混じりながら、修道院を目指して歩き出す。

 小島にそびえる修道院は、夕陽に照らし出され、厳かな雰囲気をただよわせていた。見る者に語りかけるように。








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