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焔の龍刃  作者: 青頼花
第四章【聖と闇の舞踏】

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第11話〈蠢く光〉

 マッテオは、宣告からすぐに信者達と雲隠れして、世間の目から逃れた。

 レイラインをたどるも、ルーナの意識は途絶えている。

 夕都は歪の教会について、朝火と情報収集を行った。

 ネットの情報だけでなく、ローマ国内の図書館に足を運び、一つの答えにたどり着く。

 空、すなわち“宙”であると。

 この400年の歴史を持つ図書館は、修道院だった建物を利用しており、壁に埋め尽くされた書棚に釘付けになる。

 創立者の肖像画に見下されながら、夕都は惹かれた書物を手にして、朝火が座る椅子の隣に腰を落ちつけた。

 頁をめくれば、遺跡について記述された文字が目に飛び込む。

 母国の言葉に変換されて、脳内に流れてくる。


 ストーンヘンジは世界各国に存在する。

 各々異なる力を持つ遺跡の“石”は、天に在るならば、さらに力を増すであろう。

 夕都は書物から顔をあげると、朝火と目線を交わした。


 “数多のストーンヘンジより集めた石を使った教会”について調べ回るうちに、在る団体に行きあたり、マッテオを支援している信徒の集まりが、多額の金額を寄付している事実を知り得た。


 個人で衛星を所有するならば、億はかかる筈だ。

 ローマ上空の映像解析も必要である。


 あのマッテオの一件依頼、教皇は怒りと悲しみと謝罪が入り交じる感情が波打つ声明を発表したが、世界からの非難はすさまじく、カトリック教会はうまく対応出来きない様子だ。

 現に、マッテオはテロリストとして指名手配されており、ローマ中混乱している。

 空の教会……一体何をするつもりなのか。

 茉乃の力を利用した痕跡はあるが、レイラインに強い変質はみられない。


「このローマにも精霊人がいるはずだ」


 うなりながら呟くと、朝火が頷いた。


「そうだな、あのシスターが……」

「貴一と茉乃を導くはず」


 彼女は、茉乃の前世であるのは間違いない。現れた目的は明白にはわからないが、悪意は感じ取れないため、今は信じるしかないと思ったのだ。


 マッテオの居場所を探るには、協力者が必要である。

 件のエンジニアを見つけ出すのは容易だった。

 ローマにも、神無殻のツテはある。

 国外に逃げ出そうとしていたエンジニア集団のリーダー“オリバー”をカフェにて捕まえた。


 文化人も愛した格調高いカフェであり、テーブルは大理石。

 ゲーテやワーグナーら数々の芸術家にも愛されたという。

 なんでも、2階にはかつてアンデルセンが居住していたらしく、寄贈した品が残っている。


 絵画を背にしてソファに夕都、オリバー、朝火と並んで座った。朝火が注文したカプチーノを、3つ運んできたオーナーに目配せをすると、頷きあう。

 オリバーは、目線を落としながらマッテオからの依頼について語り出す。

 あるシステムの停止を依頼されて、まさか医療機関のシステムがとまるとは思わなかったという。エンジニアでも気づけないとは……夕都は彼から入手したシステムについてデータを確認するが、どうやら、教会のシステムのようだ。

 偽ものらしく、実際にはローマ各地の医療機関のシステムを妨害できるようになっているらしい。さらに影響は世界に及ぶ。どうも、技術的な問題だけではないようだ。

 教会、システム、変質。夕都は朝火に紙とペンを借りて絵を書いたり、文字を書く。

 そこには、空に浮かぶ教会に光が天から降り注ぐ光景があった。

 眉根をひそめる。どことなく、見た事がある教会のように思えた。


「モンサンミッシェルか」


 朝火のつぶやきに、夕都は目を見開く。


「あ、そっか!」


 スマホの画像検索にて、一致した教会は、確かにモンサンミッシェルである。


 ふと、大天使ミカエルが啓示を与える場面が見えた。修道院の中に銅像として残されているのだ。

 空に浮かぶ教会、光りさすモンサンミッシェル。


 繋がるレイライン……。


「変質は、人々に及ぶのか?」


 “今、人類は、本来の命のあり方に戻る”


 マッテオの言葉が脳裏に蘇る。


 古来の人々の生活を思い出すと、自ずと、かつての己が過ごした古の時代を思い出す。

 人々は自然と共に生きていた。

 寿命もはるかに短く、まさに日が落ちるかのように生涯を終える。

 ただ、あまりにも心が満たされた人生を送っていたように見えた。


 オリバーに、カフェ名物のマスカルポーネがたっぷり入ったドルチェをご馳走してやって、その場から立ち去る。


 茜空が燃えていた。



 モン・サン=ミシェル。

 サン・マロ湾上に浮かぶ小島の上にそびえる修道院。


 この地で信仰に身を捧げた修道女は、庭仕事を終えて部屋に戻ると、来訪者の姿に声を上げた。


「あ、貴方様は、マッテオ様!」


 黒衣に身を包んだ金髪翠眼の美しい青年の名を叫ぶと、彼は微笑を浮かべて歩を進める。見つめる瞳には、歳老いた修道女の顔が映り込む。

 彼のその唇がゆっくりとうごめく。


「時が来た」


 修道女は息を呑み、慌てて部屋のドアを閉めた。軋んだ音がやけに大きく響き渡る。

 外から、誰かがよばわる声がした。

 修道女は慌てて書棚を動かし、隠し扉を出現させて、押し開く。

 マッテオはほくそ笑み、身をかがめて扉をくぐり、躊躇なく闇へと足を踏み入れた。彼の姿が完全に見えなくなるのを見守ってから、修道女は扉を閉ざして書棚で再びかくしてしまう。

 ちょうど部屋の扉をたたく音がしたので、生返事を返した。視線を書棚へと向けたまま。



 マッテオは暗闇の中を手のひらに集めた“レイラインの光”を頼りに突き進む。


「聖女の干渉があればこそ、私の目的は果たせる。そして、私が啓示を与えたこの地にて全ては始まる」


 手のひらの光が揺らめいた。

 壁から入り込む生暖かい風に、マッテオは瞳を細めると口もとを緩めた。

 視線の先に地上に繋がる階段が姿を表す。


「夜明けに続く道だ」


 呟くと階段を登り始めた。






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