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焔の龍刃  作者: 青頼花
第四章【聖と闇の舞踏】

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第7話〈天使のような男〉

 メリッサーニ地底湖にて、観光客が相次ぎ意識を失う事故。突然、水が荒くなり……。


 メリッサーニ洞窟。

 ケファロニア島の東、森林に囲まれた中にあり、ニンフの住む洞窟と伝えられていたとされ、観光地として整備された……。


 SNS上にてニュースを見た夕都は、朝火に状況を整理しよう、と後部座席で話を切り出す。

 マルコス達は連なって車に乗り込み、5台も使用するので目立つことこの上ない。

 おかげで、茉乃と貴一を保護することは叶わず、警察に阻まれて地底湖まで辿り着けなかった。

 付近の人々に聴き込むが、目撃情報はなく、途方に暮れて野次馬に飲まれていると、マルコスの言い放つ声を聞いた。


 バチカンで何かあったようだ。

 侵入者が聖女を攫おうとしたらしい。

 ヒンドゥー教徒、という言葉に、夕都ははっとして、朝火を見やる。


(アールシュの護衛が、“聖女”をつれだそうとしたんだ)


 彼ら二人とは別行動をしていたのだが、失敗に終わったらしい。

 マルコスは怒りに満ちた顔で皆に撤退するよう告げた。


 アントーニオの行先について、マッテオならばわかるだろうか。

 夕都は朝火にとりあえず大人しくしようと諌めつつ、人混みの先に見えるかすかな青をどうにか見すえてから、車に乗り込んだ。


 そこに、倒れていた日本人の男子を保護したという言葉を聞いたので、夕都は車から飛び出した。


 バチカン。

 エルネストの屋敷にて。ルーナは、今しがた自分を拘束していた男二人の亡骸を、呆然と見つめていた。

 まさか、背後から剣で斬りつけるだなんて。ルーナはミーレスの無表情を憂いた。

 彼女は平然と剣の血を布巾でぬぐうと、鞘におさめてルーナに怪我はないかと尋ねる。


「大丈夫、でも命を取る必要は」

「これくらいしなければ。見せしめにはなりません」

「見せしめ?」

「彼らの目的は、明らかに我々に対しての宣戦布告です」

「宣戦布告?」


 物々しい言い方に眉をしかめた。

 彼らがヒンドゥー教徒であるのは、衣服でわかるが、何故、宣戦布告と断言できるのだろう。

 ミーレスの考えとしては、カトリックの聖女とみなされているルーナを攫うこと自体が、喧嘩を売っているというのだ。


 ルーナは散乱した室内に目をやる。

 天蓋付きベッドは壊れ、シャンデリアにはビビ。

 床は血染め。陰鬱な気分に陥るが、頭を振って思考を整理する。


 ――どこに連れて行こうとしたの?


 ルーナは、定期的に毒の庭の植物から毒を得なければ死ぬ運命だ。

 なんのために二百年の眠りから覚めたのかもわからない。

 何か目的があるはずだが、事情を知るそぶりをみせるエルネストは、頑なにルーナに問うのを阻止してごまかすばかり。


 医者はこぞって奇跡だと苦しみ、残った者はおらず、ルーナは放置されていた。

 そろそろ志田に連絡をいれなければ、と部屋を抜け出そうとしたところ、このヒンドゥー教徒二人が入り込んで来て、何処かに連れていこうとしたのだ。


 そんな状況で、メリッサーニ地底湖の事故についてのニュースを知り得た。

 ミーレスとが話していたのを偶然聞いたのだ。

 ルーナは廊下の壁の間におさまり、考える。


 ――特徴からして、貴一くん? 茉乃ちゃんはどうしたの?


 ふいにざわめくこえが廊下の先から溢れたので、顔を出した。

 シャツに黒いブレザーを着用した男達が、金髪の青年を取り囲んでいる。

 白のカズラをまとう彼は容貌と相まって、まるで天使のようだ。

 周りの男達は、彼に付き従うカトリック教徒なのだろう。


 彼はマッテオと呼ばれていた。視線があってしまい、ルーナは壁の間に引っ込んだが遅い。

 マッテオはルーナを見つけると、恭しく挨拶をして手を伸ばしてくる。


「貴女は、父が皆様にお披露目した聖女のルーナ?」

「あ、あのあなたは、まさか」

「私は、弟のアントーニオに罪を償わせる責任がある。協力して頂きたい」

「私に?」


 思わず手を取り、細くしなやかな手指の感触にどきりとした。


「ルーナ様から離れなさい!」


 ミーレスが剣を手に立ちふさがるが、ルーナは首を振り、道を開けるよう促す。

 眉間に皺を寄せたミラースの表情に釘付けになるが、マッテオに手を引かれるままに歩を進める。

 ミーレスが何度かルーナを呼ぶが、振り返らない。


 ――ついて行かないといけない。


 胸騒ぎがするが、拒絶すればひどいことになりかねない。予感には逆らえなかった。


 バチカン内の隠された場所にある屋敷から、マッテオが手配した車で移動する。ローマに向かうようだ。途中、毒の庭に立ち寄りたいと、マッテオを案内した。

 車は廃墟の門前にたどりつく。


 毒の庭。

 バチカンの小さな街の路地のつきあたりからつながる廃墟の庭。

 ルーナは、この庭の毒花のベッドで数百年眠っていたのだ。

 管理人が存在しており、ルーナが眠ることは、一族の秘密であった。

 数多の毒植物は有毒ガスをだすので、燃やすこと、処分は許されない。

 ガスマスクをマッテオに渡した管理人の一族の初老の男は、ベッドに案内する。

 彼らは、毒に耐性があるため、マスク無しだ。


 庭の懐かしさに、ルーナは深呼吸を繰り返す。ベッドに横たわり、全身にからみつく毒花から毒を吸いあげた。

 傍にはガスマスクをした聖職者がたたずみ、様子をうかがう。

 思わず口元をゆるめたら、彼はガスマスク越しの瞳を細めた。


 世界中から集めた毒植物の種類は数百に及び、むろん、法律に触れるようなものばかりだが、申請し許可は得ている。

 観光資源にもなっているために、黙認されていた。


 全身が一瞬紫になり、白い肌に変わ様をじっくりと観察されて、顔を背ける。


 ごく自然にマッテオを受け入れた己の意識に、危機感を覚えた。



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