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焔の龍刃  作者: 青頼花
第三章【龍主の宿命】

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第17話〈突きつけられた真実〉

 寒さに目を覚ました貴一は、視界が低いのに気づいて勢いよく起き上がる。

 身体中をさわって確認すると、息をつく。


「良かった。人間の身体だ」

「ん……貴一さん」


 か細い声が茉乃のものだとわかり、周囲に目線を巡らせる。

 やけに天井が高い部屋だった。

 至るところにまるい窓があり、すべてから光が注がれている。

 光がひときわあたる場所に、茉乃が倒れていた。

 貴一は、だるい肉体をひきずるようにして近づく。

 茉乃は豪奢な椅子の前に伏せているが、夢を見ていて落ちたのだろうか。


「茉乃さん、しっかり」

「ん、貴一さん」

「大丈夫!?」


 抱き上げると軽くて、さらに着込んでいるのは、薄地の胸元が若干開けた衣装で、目のやり場に困ってしまう。

 唇を引き結び、その額に手のひらで触れた。熱はない様子だ。


「お前は何者だ!」

「この声、夕都さん?」


 椅子の後方、壁の向こうから聞こえる。

 貴一は茉乃を椅子に座らせてから、声を頼りに夕都を捜した。

 はたして、交わされる言葉は、開け放たれた鉄扉から響いてくる。

 中は大広間であり、一目で異常事態だと察した。

 夕都と朝火が、さや抜いた刀を手にして、長身の男を取り囲んでいた。

 青い長袍の男は、二人を睨みつけている。丸腰のようなのに強気だ。

 男の背後には、膝をつく女性が震えているのが見える。

 華美な衣装をまとう姿は、主だろうと考えた。

 貴一は、主らしき女性の後に転がる、肉塊に釘付けとなった。


「え?」


 ――人!?


 両手、片脚がない人が、傷口に巻かれた包帯から血をにじませて倒れている。

 身体つきからして女性らしい。

 顔が地についていたので見えないが、息があるとは思えなかった。

 胸が悪くなる感覚に口元をおさえる。

 えづくが、にじむ視界で様子を観察した。

 対峙する三人はまさに一触即発で、誰が攻撃をしかけてもおかしくはない。

 貴一は視線を彷徨わせた。


 ――夕都さんと朝火さんの力になりたいけど、茉乃さんを守らないと。


 どの道、自分には武器がない。

 華山に連れてこられた際、すでに私物を取り上げられていたし、唯一使える武術も、彼らの前では無力同然だ。


 扉の先に足を踏み入れることはできず、固唾を飲んで見守る。


 ふいに風が流れてきたのを感じて、瞳を細めた。


師父スーフ、珠蘭を離してくれませんか」


 凛とした声音を発した人物を見て、貴一は叫びかける。

 死体と認識していた肉塊が、片脚だけで直立していたのだ。


桜綾ヨウリン!!」


 夕都達と対峙していた男が、絶叫のような勢いで名を呼び、かけ寄った。

 桜綾ヨウリンと呼ばれた女性は、目に光はなく、宙を見据えているようだ。

 顔は青白くて、長い髪の毛は縮れたり、傷んで、掴んだら切れそうだった。



「……師姉シージェ」」

「珠蘭……師妹シーメイよ、こんな真似をしても、貴女の父さんと母さんには逢えないわ、むしろ、龍子として、龍脈に力を与えたにすぎないわ」

「わたしが! 龍脈にとびこんで、捜す!」


 師姉は首を振り、光のない目を向けて、師妹に苦言を呈する。


「己の欲望を叶える為に、人の命を犠牲にした貴女は、すでに龍子としての資格は喪っている。今の貴女は、取り込まれた数多の精霊人の憎悪に生かされているだけ」

「信じない!! 信じない……!!」


 主の怒声は遠くまで響き渡り、頭が割れそうだ。


「……っ」


 貴一は意識がふたたびぐらついて、夕都と朝火に手を伸ばす。

 すでに二人は倒れ伏していた。

 主の絶叫に、桜綾にすがりついていた男も昏倒する。

 師姉と師妹だけが対峙する中、赤い靄――龍脈が、世界を覆い尽くした。


 ――ま、茉乃さん。


 貴一は歯を食いしばるが、頭はぼんやりして、意識が朦朧とする。

 くずおれて扉にへばりついて、床を這って、茉乃の元へと向かった。


 茉乃は椅子に座ったまま、身を震わせている。

 椅子の脚にしがみついて茉乃を呼んだ。


「茉乃さん、大丈夫だから、助ける」

「貴一さん。私、あの時、意識がしゅらんのなかに。いつのまにか、ここに」

「うん、ぼくも、一緒だった」


 茉乃を連れて逃げたいのに、身体が重くて起き上がれない。

 脳裏に、倒れた夕都と朝火が浮かぶ。

 貴一は、茉乃の座る椅子の元でふたたび意識を失った。



 夕都は、龍脈から流れ出る数多の意識に浸かり、ゆっくりと目を開く。


 頬をなでる風を感じた瞬間、まばゆさに瞳を細めた。


 一面に広がる黄金。


「これは」


 手を伸ばして触れた指先の感触に、稲穂だとやっと認識する。

 あたり一面にただよう、頭が冴えるような清々しい匂いが、鼻腔を刺激した。

 深く息を吸い込み、己の格好を確かめる。


 白い布地の衣服を着込み、手首、膝下を紐で締めてあり、腰は帯で締めていた。

 己の手指は日に焼けている。

 身体をさわると、やけに長身で、体格も良いようだ。

 稲穂畑から抜けて歩いて行くと、川が見えた。

 水面にうつる姿を見て、口をあんぐりとあける。

 髪の一部を耳の下で結び、後ろ髪は肩まで伸ばされていた。この出で立ちはまるで……。


「スサノオ様」


 ――は?


 振り返ると、少年が恭しく頭を垂れていた。麻でできた質素な衣服をまとっている。

 顔を見せるようにつたえると、少年は凛々しい顔立ちをしており、ある男を思いおこさせた。

 恐る恐る名前を問う。


「はい。アサヒと申します」 

「……なんだと」


 脳天を打撃されたかのように、世界が傾いだ。

 足裏に力を入れて倒れるのを免れ、まわりを見渡した。

 空は見渡す限り青く、空気は清らか。

 小鳥の囀り、動物の鳴く声。


 両腕を広げれば、四方から金色の靄があつまり、また、己の肉体からも同じ靄があふれだす。


 龍脈が、湧き出る泉のように吹き出して、世界へと流れている。

 いつのまにか、人々が集まり、誰もが祈りを捧げていた。


 ――そうだ、私は……彼らを信じて、転生を選んだのだ。


 受肉をしたものの、人々は争いと飢えに苦しみ、神である己の未熟さに絶望した。


 大蛇の麁正で胸を貫き、転生を繰り返す度、アサヒは巻き込まれ、彼は常にユウトの為に犠牲となった。


 ――俺は、アサヒ、お前を自由にさせくて、己の龍脈の力を開放したんだ。


 神なる存在が、龍脈の力を捻じ曲げたせいで、永遠に転生を繰り返す精霊人や、龍脈にとりこまれ、永遠に抜け出せない魂が生まれるようになる。

 やがて、世界中の龍脈、あるいは同質の力に影響を及ぼすようになった。


 ――俺は、スサノオだったのか。


 夕都は意識を引き戻され、陰鬱な気分で起き上がった。




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