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焔の龍刃  作者: 青頼花
第三章【龍主の宿命】

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第8話〈一時休戦〉

 咆哮を上げる男の声はくぐもっている。

 龍脈に流れる人の魂の力を借りて、夕都には日本語に訳されているのだ。

 朝火にも、男の言葉はわかっている様子だった。

 お互いに刀を構えてはいたが、番人だけは悠然と腕を組み動じていない。

 番人はこちらに目をやると、口元を吊り上げて答えた。


「身構えなくても良い。奴は出ては来ない」

「出てこない?」


 夕都は石柱の間から声の方角を見る。

 岩壁一面の輝きで照らされる先は、洞窟の中心にある巨大な石柱だ。

 番人がその先に乗っていたのを思い出す。

 唸り声はその真下から轟いているらしく、石柱はまばゆい光を放つ。

 夕都は刀を下ろして番人を見やる。

 傍らにいる朝火も刀を鞘に収めた。

 番人は、二人の前に足を進めながら腰後ろで手を組み、状況を語る。


「あの男がいる場所は、精霊人の国の入り口。こちら側にくれば、たちまち廃人となる。よって奴は容易には姿を現さない」

「あんたを知っているみたいだな」


 夕都の疑問に、番人は肩をすくめた。


「縁深い相手だ」

「何者なのですか」


 朝火が丁寧な口調で尋ねると、番人は端然とした様で答える。


「彼は、欣怡の夫の吴浩然ウーハオラン。私の友でもあるが、気が触れてしまった」


 夕都は朝火に顔を向けた。朝火は眉間に皺を寄せて腕を組む。

 番人は多くを話そうとはせず、重要だという部分だけを二人に教えた。

 欣怡は、番人も頭がおかしくなっていると思いこんでおり、既に夕都と朝火は命を落としているはずだと、様子を見に来るという。

 その隙をついて拘束し、説得を試みる価値はある。

 彼女が誤解をしているのは事実なのだから。


 夕都は朝火と共に石柱の影に隠れて、息をひそめる。

 予想外の事態が立て続けにおこり、胸元に手をあてて、深呼吸をする。精神を落ちつかせようと努めた。


 ――趙翰を殺した男についても、しらべないと。


 今は、蛇花の首領を捕えることが先決だと言いきかせる。脳裏に、幼いユーシーの悲痛な叫び声と姿が蘇り、胸が痛む。


(来るぞ)


 朝火に声をかけられ、夕都は石柱の影から洞窟の入り口――階段の上部に目を向ける。を殺した男が飛ぶようにかけあがった石階段に、細身の人影があった。

 思わず息を呑む。気配もなくやって来た彼女に畏怖の念を覚えた。


 やはり赤いチャイナドレス姿で、手袋をはめているようだ。

 この石柱の間からは、目を凝らしてようやく視認できる距離ではあるが、行動は把握できた。

 欣怡は跳躍して石階段から下に降りると、夕都と朝火がひそむ石柱の方角へ歩いてくる。

 口の中が乾くのを感じた。

 その時、風が巻き起こる。


「今だ!」


 夕都の叫び声に、朝火と番人が反応する。欣怡シンイーは危険を察知して飛び退るが、時すでに遅し。

 その両手両足は、龍脈の力で拘束されて身動きが取れない。

 上半身を激しく揺さぶるが、やはり、夕都ほどには龍脈の力を操れないらしい。番人の剣風の威力も重なり、欣怡をあっけなく捕まえる事ができた。

 欣怡は、取り囲む三人の男を睨みつける。

 特に番人には険しい顔つきで凄んだ。


「夜京、あなた、正気に? 夫のことをきいてもわめくだけだったのに……」

「君を遠ざけるためだ。それより、神無殻について。いや、君の娘の死の真相について、彼らから話を聞くんだ」

语汐ユーシーの仇!」


 血走る目を、夕都と朝火に向ける欣怡は、今にも殴りかかる勢いだが、自由に動けない身である。

 夕都は朝火と目線を交わして、欣怡に、娘の身に何があったのか、仔細をつたえた。


 長い沈黙を、拘束を解かれた欣怡のためいきが破る。


「冨田と久山が主犯だけれど、欣怡を殺したのは、冨田の配下の精霊人。そいつはもう死んだのね」


 冨田の指示により、久山は数多の犯罪組織に、身寄りのない子供の誘拐を依頼していたが、なぜかユーシーが巻き込まれてしまったのだ。どうやら、欣怡の夫が関わっているようで、真相は気になるものの、彼女におびき出されたために油断はできない。

 趙翰ジャオハンが謎の男に殺された事実を話したが、首をふる。


「知らないわ。私は趙翰と夜京に、貴方たちを殺させるようにこの洞窟に誘っただけ」

「じゃあ、あいつ、いったい」


 いくら考え込んだ所で答えは見つからない。夜京が、欣怡の様子が落ちついたのを確認すると、三人に洞窟から去るようにと促す。

 趙翰の亡骸を預かりたいと考えたが、番人である夜京に置いていくよう諭された。彼を家族の傍に運ぶと約束させて、夕都は、朝火と欣怡と共に洞窟から出ていく。階段を上がり切ったところで一瞬、足を止めて振り返ると、番人が石柱の上からこちらをうかがっているのが見えた。

 夕都は朝火の腕を掴み、外に向かう。

 前をゆく欣怡が二人を手招く。


 精魂洞は、橋も階段もない、岩肌にあけられた入口からしか入れない。

 行き来するには、龍脈の力を操るしかないのだが、欣怡は龍脈を扱うのには慣れた様子である。

 夕都と協力して、整備された山道の階段へと降りたった。


 途中で欣怡の配下、蛇花の一員が合流して、ロープウェイを起動し、無事に下山したのだった。


 欣怡の好意で彼女の屋敷に滞在することになり、当面の間、神無殻と蛇花は協力関係を結ぶべきだと結論をだした。








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