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復讐の果てに

復讐の果てに


暗闇の中で、俺は再びぶどうの匂いを嗅いだ。


「探したぞ、スーパーライダー。いや、元ぶどうマンといった方が良いかな」


目の前に立っていたのは、かつての俺と同じ、ボロボロのぶどうマンのスーツを身につけた男だった。その男は俺を指さし、嘲笑うかのように言った。


「お前は何者だ?」


俺は、沸き上がる怒りを押し殺して男に問うた。この男は、俺が全てを失った日の悪夢を呼び覚ます存在だった。


過去の交錯


俺はあの日のことを忘れない。コジラを倒した直後、ぶどうマンに裏切られ、意識を失った。奇跡的に一命は取り留めたが、全身の骨が砕け散る重傷だった。だが、復讐のため、そして、裏切られた正義を取り戻すために、俺は生きることを決めた。辛いリハビリを乗り越え、俺は立ち上がった。そして、俺はかつて自分が蔑んでいたぶどうマンのスーツを身につけ、街へ繰り出した。この姿で、あの男を見つけ出し、俺が捨て去った「正義」が、いかに重いものだったかを知らしめてやる。


一方、俺を裏切った元ぶどうマンは、1億円の報酬を手に入れ、名実ともにトップヒーローへと上り詰めていた。金のために強くなることで、もっと多くの命を救える。これが自分の正義だと信じていた。そんな彼の前に、急速に有名になりつつある「ぶどうマン」が現れた。一体誰が、何のために彼が捨てたはずのヒーローを演じているのか。彼は、そのぶどうマンに奇妙な胸騒ぎを覚えていた。


決戦


「新スーパーライダー」として戦う俺と、「ぶどうマン」を名乗る男は、互いの正義をぶつけ合った。男の拳には、純粋な怒りと、俺には決してない重みがあった。俺は一瞬で追い詰められる。だが、この数ヶ月で本物の正義を知った俺は、金のためではない、守るべき命の重みを背負っていた。死闘は続いた。


そして、限界を迎えたお互いが、最後の力を振り絞り必殺技を繰り出そうとした、その時だった。


一人の子供が戦場に駆け込んできた。


「ぶどうマンをいじめないで!」「ぶどうマンは、僕を戦闘員から守ってくれたんだ!」


俺が昔助けた子供だろう。その無垢な言葉に、俺は一瞬戸惑った。俺は渾身のライダーキックを放つ。このままでは、子供を攻撃してしまう。ぶどうマンは子供を庇っていた。そして、俺はとっさにキックを避けて負傷した。俺の攻撃は、子供を守るために逸らされたのだ。


「スーパーライダーよ。キックしてしまえば、私を倒せたのにな」


男は静かに、そして少し寂しげに笑った。


「私は、元スーパーライダーだ。この戦い、お前の勝ちだ。子供を守るために攻撃を逸らした。かつてのお前なら、ライダーキックを止めなかっただろう。お前は変わった」


「お前がもう本当のスーパーライダーだ。お前がナンバーワンだ。私はこのまま、ぶどうマンとしてひっそりと生きる。どんな形であれ、世界の平和を守ることには変わりないのだ。達者でな」


男はそう言うと、静かに去っていった。その足取りは、どこか軽やかなものだった。


最後の皮肉


そして、物語は「日本一を決めるヒーロー選手権」の会場へと移る。ヒーロー庁主催の国民投票により、日本一のヒーローを決めるのだ。新スーパーライダーは、この大会で優勝し、過去の自分と決別しようとしていた。


司会者が叫ぶ。


「第2位は、クザ!」


かつての悪役、クザがにこやかに手を振る。満場の拍手喝采が、彼の新たな役割を認めているようだった。


そして、司会者が告げた名前は、新スーパーライダーの予想とは全く異なるものだった。


「第1位は、ぶどうマン!」


「ファッ…?」


その瞬間、会場の熱狂は、彼の耳には遠い幻のように聞こえた。司会者の横で、にこやかに微笑むぶどうマンの姿。それは、命を賭けて戦った相手、そして、かつて彼が裏切った「スーパーライダー」だった。


「ありがとうございました」


その言葉は、彼に向けられたものではなかった。それは、彼が命を賭して守ろうとした「ぶどうマン」という存在、そして、彼が捨て去ったはずの「正義」そのものに向けられたものだった。


全てを奪われたことを悟り、新スーパーライダーは静かにその場を去っていく。彼の胸には、誰にも理解されない、しかし、確かに彼が手に入れた「本当の正義」だけが、冷たい風のように吹き抜けていた。

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