ぶどうマンの憂鬱
山梨県の誇るヒーロー、ぶどうマン。俺の名前は、本名ではない。ぶどうマン。ダサい。でも、他に名前はなかった。
ぶどうは、山梨の象徴だ。太陽を浴びて育つぶどうのように、俺もまた、人々に希望を与えるヒーローになれるはずだった。
だが、現実は違った。俺はただの、弱小ヒーローだ。
怪人の戦闘員を、どうにかこうにか倒せる程度の力しかない。しかも、怪人退治は「仕事」だ。生活のため、ひもじい思いをしながら、今日も怪人を探す。戦闘員一体につき、警察から1000円がもらえる。
その日も、戦闘員を2体倒し、今日の晩飯はコンビニのおにぎり2個か、とため息をついた時だった。
「ひゃっははは!お前らが山梨のヒーローか!くだらん!」
空が真っ黒に染まり、けたたましい笑い声と共に、キングショッカーが現れた。圧倒的な威圧感と、禍々しいオーラ。俺は、足がすくんで動けない。一緒に現れた戦闘員を2人倒すのがやっとで、もう身体は悲鳴を上げていた。
キングショッカーは、俺を嘲笑うように言った。
「ぶどうマン、お前のような弱い奴に、正義を名乗る資格はない!」
その時、一陣の風が吹き荒れた。
「正義に強いも弱いもない。悪を許さない心があれば、誰でもヒーローになれる!」
鋭い声と共に、黒いスーツの男が現れた。その男は、全身に光沢のある装甲を身につけ、銀色のマフラーをなびかせていた。
スーパーライダー。
彼は、キングショッカーと対峙すると、一瞬のうちに、圧倒的な力でキングショッカーを倒した。キングショッカーは、爆発音と共に、塵となった。
その後、警察が来て、怪人を倒した証明書を渡された。戦闘員を2人倒した俺には、2000円。一方、キングショッカーを倒したスーパーライダーには、1億円という桁外れの金額が支払われた。
スーパーライダーは、俺の横を通り過ぎる時、ニヤリと笑った。
「お前みたいな雑魚は、いつまでたってもヒーローになれねぇな」
俺は、悔しくて、ただその場に立ち尽くしていた。
「1億円……」
俺の腹は、空腹を訴えていた。