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美雪とミューキー  作者: よしなし つづる
タチバナ研究所
9/26

応接室にて

 ピシッとした紺の制服にツヤのある真っ黒なショートボブといった出で立ちの受付嬢について廊下を進む。

175cmの俺とあまり変わらないスラッとした後ろ姿は、どことなく利根川さんを思わせる。


「恐れ入ります。利根川はすぐに参ります。こちらでお待ち下さい」

ルームプレートには『応接室2ー3』と書かれていた。


「ありがとう。待たせて頂きます」

豪華な装飾に囲まれた部屋に通されたのかと身構えたが、意外と質素でホッとする。

見た目はシンプルだが、間違い無くデザイナーズブランドと分かるソファに腰掛けて待っていると、ほんの数分で利根川が入って来た。


「坂崎様。お待たせいたしました。まず最初に謝罪をさせて下さい」


「えっ?」

いきなり頭を下げた利根川を見て、思わず声が出てしまった。

まさか、この期に及んでキャンセルとか!?


「所長も同席させたかったのですが、ちょうど別件で手が離せず申し訳ありません」


「あ、そういうことでしたか。私は構いませんので、ほんと、お気になさらず」

何とか平静を装って答えたものの、一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。


「それでは早速、ご覧になりますか? ここで開梱してしまっても?」


「はい、構いません」

うなずく利根川から恐縮したような陰が消え、パッと明るくなった気がする。


 テーブルの上に荷物を載せた。

そのままの流れでテープを剥がし、梱包材をササッと片手で巻き取って無造作に床に置く。

挿箱を開くと、グラシン紙に巻かれた額を一気に引っ張り出した。

ここで少し溜めを作ると期待感が増すという、爺さん直伝のテクニックを使い、数秒かけてゆっくりとグラシン紙を開いた。


「いかがですか?」

利根川の目の高さに額を掲げ、見やすいように持ち上げて問いかける。


「——はぁ、驚きました。あの時のスケッチがこんなに優しく、そして鮮やかになるなんて。"2人"の関係性もこの上なく素晴らしい。私たちの理想

であり希望、そして夢が実体になったようです」


「ご感想頂きありがとうございます。そしてお気に召して頂けたようで安心しました」


「とても気に入りましたとも。所長も間違い無く同じことを言うでしょう」


「それでは、所長さんにもよろしくお伝え下さい」



 しばし歓談の後、襟元にチラッと見えるシルバーのペンダントを取り出し、俺の端末に触れ、GATEエクスチェンジでお支払い頂いた。

アクセサリではなかったことが分かり、少しがっかりしたのは言うまでも無い。


「せっかくですので、2人に会って頂けませんか?」


「喜んで。モデルさんに会わずに帰るわけにはいきませんからね」


 利根川に続いて、廊下を奥へと進む。


 相変わらず、床、壁、天井全てがセラミックに覆われたオフホワイトの世界に、ワンポイントとしてルームナンバーの小さなプレートが扉の横あるだけだ。

延々と同じ景色が続いているのは宇宙船内部のように思え、ある意味未来的と言えるかもしれない。

 キョロキョロと周囲を見ている俺に気付いた利根川が説明してくれた。

 セラミックは添加物で性質が変わることを利用し、建物内は耐熱性、耐磁性、柔軟性を意識して施工されている。

そのため、地震、火災などの地上災害から太陽フレアによるEMPまで、あらゆるトラブルから全てを守ってくれるという。

だが、焼結して生成するセラミックなのに継ぎ目無く仕上げる工法については企業秘密だそうだ。


 不意に利根川が足を止めた。

目の前のルームパネルには、ただ『4』とだけ書かれている。


 ペンダントをドアにかざすと、窓のない自動ドアは小さくクゥッと音を立ててゆっくりとスライドして開き始めた。


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