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ドッペルゲンガー

 寝る前に、最近の日課であるオールドネットの検索をしていたら、1枚の写真を見つけた。


 警察のテロ対策班を特集した記事で、厳しい訓練の様子や、これまでの華々しい功績が喧伝されていた。

しかし、それだけだったらサラッと読み流していたところだ。


 だが、記事に続きがあった。

 正確に言うと、記事自体はそこで終わっていたのだが、引用する形で、ある情報が付加されていた。

当時のテロ対策班全メンバーの顔写真、プロフィール、住所。

そしてその後、どうなったのか。


 他にも特集されなかったメンバーがいるかどうかは分からないのだが、記事になったメンバーは全員死亡したことになっている。


 メンバーそれぞれ、詳しく最期の状況が説明され、人によってはご丁寧に現場写真まで貼り付けられていた。

 多くが非番の日に交通事故に巻き込まれたり、通り魔の流れ弾に当たったりといった、不幸な事件、事故によるものばかりだった。

だが、そんな偶然が起きるものだろうか?

違和感を感じたのは、このまとめ記事を作成した人だけではなかったようで、警察でも特務班が編成され捜査に乗り出したとある。

 テロ対策班を狙ったと思しき一連の事件を『テロ対策班連続襲撃事件』と呼称し、水島刑事のチームが担当したそうだ。


 水島刑事……本名は水島隼人。

どこかで聞いたことのある名だ。いったい、どこだったのだろうか。


 当然のごとく、プロフィール、その後、そして顔写真が添付されている。

プロフィールによると、水島刑事は俺と同い年だ。

さらに奥さんを交通事故で無くしたのは、俺と同じで5年前。

事故の原因は暴走した大型トレーラーに突っ込まれたためだという点まで同じとは、なんという偶然なんだろう。


 事故の後、水島刑事はテロ対策班への配置転換を希望していたが、望み叶わず本庁で刑事として勤務していたという。

ということは、事故の原因はテロだったのだろう。

それから数々の功績を上げたものの、昨年、トゥルーの拠点を捜査中に建物が爆発崩壊し、行方不明になってしまったという。

タイミングは、俺がこのアパートに越して来る少し前、しかもそれほど遠くない場所だ。

きっと大々的にニュースが流れたのだろう。


 俺には見た記憶すら無いが。


 次に、何気なく写真をタップして、俺は時間が止まったかのように動きを止めた。

時間が止まっていないことは耳の奥に響く鼓動のドクドクいう音で分かるが、しばらく身動きが出来なかった。


 タブレットの画面いっぱいに表示された水島刑事の顔を、俺はよく知っていた。


 他の誰でもない。

毎日使っている入館証に印刷されている顔、そして朝、ヒゲを剃る時に何とはなしに眺めている顔。

 ドイツの伝承にあるドッペルゲンガーを想起させるほどにそっくりな、いや、そっくりすら超越した、まごうこと無き俺の顔だった。


「ありえない」

自らの虚ろな声が部屋に響き、ベッドの上でゾクッと身を震わせた。

これは何の冗談だ。


 タブレットに付いてるカメラ機能を悪用したいたずらか?

だとしたら、まったくもって性質が悪い。


 こんないたずらを考えるのは、いったいどんなヤツだ?


「佐藤主任みたいな人なんだろうな」

ボソッと呟くと妙にしっくり来る気がして、いたずらの理由を考えるのは無駄なことだと思考を中断した。

そして、力みが取れたからか、軽い頭痛がしていた。

 昼間、頭に電気を流した影響か?

あとで吉川さんに後遺症について聞いてみよう。


 そうだ。このタブレットから有害な電磁波でも出てるなんてこと無いとは思うが、念のため今夜は電源を落とそう。



 水島刑事の写真から受けたインパクトが強過ぎてなかなか寝付くことが出来なかったが、右に左にと寝返りを繰り返しているうちに、いつしか眠りに落ち夢を見ていた。

実に生々しい夢だった。



 周囲に水溜まりが残る夜の路地裏で、俺たちのチームはビルを背に立っていた。

見上げると、すでに雨は止んでいる。

 しばらく待っていると、1本先の路地を逃げるように走る足音が聞こえる。

予定通り、別動隊が”やつら”を追い立てているのだろう。

 目出し帽を被った黒ずくめの男が、すぐ先の曲がり角から飛び出して来た。

勢い余って避けきれなかったゴミ箱を蹴飛ばし、転がるように次の角へと向かう。

他に通行人はいない。


 追跡している別動隊は3人で、皆、手に拳銃を握っている。

もちろん我々も追う。


 黒ずくめ男が、さらに次の角を曲がろうとした時、手をこちらに突き出すと一瞬パッと閃光が走った。

拳銃か? あいつは俺たちに向かって発砲したのだ。

仲間の1人が反撃すると、逃げていた男は呆気なく倒れ込んだ。

スローモーションのように、ゆっくり音も無く。


 倒れた男に駆け寄って仰向けにすると、右脇からどす黒い血が流れていた。

もう、これ以上、逃げることも抵抗することも出来そうもない。

 仲間の1人が、荒っぽく目出し帽を引き剥がすと、男の顔が露わになった。

懐中電灯で照らすと、その男はよく知っているヤツだった。


そう、俺だったのだ。



 汗だくになってとび起きた。

両手で顔を覆い、ゆっくりとベッドに座りなおしたが、耳の奥では、まだ激しく心音が響いている。



今のは……。


俺の記憶……なのか?


まさか、そんなはずはない。

ありえない。


 俺は画家だ。

今までにもリアルな夢は何度となく見ているし、そんな夢を見るのはイマジネーションの強さが理由だ。

だから、これは……、この夢は、間違い無く写真の影響だ。


あぁ、そうとも。

そうでなくてはならないんだ。


もし、ただの夢でなかったら、俺はいったい何者なんだ……。


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