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治療方針変更

 あれから、帰宅後にオールドネットで検索しまくる日々が続いていた。

所長のこと、研究所のこと、そしてテロのこと。

おかげで、いろいろと実情が分かって来たし、知らなかったことが山ほどあったことも分かって来た。


 テロの背景にある思想はエセ科学の最たるもので、半世紀前に流行した陰謀論と何ら変わるところがない。

 GATE技術によって異次元のモンスターを呼び込むというSFネタなど使わずとも『こちらの世界でかき集めた財産や技術、資源を使って、富裕層だけで新天地に理想郷を作る計画』という壮大な与太話を信じる人が大勢いることに驚くばかりだ。

だが、そんな妄想を疑いもせずに信じてしまう弱者が多いことも、また事実だと感じる。


 この社会は、企業の経営、決定権を持つ富裕層が10%未満、40%の小規模事業/国家サービス層、残り50%のほとんどがべーシンクインカムだけで生活するBI層だ。


 企業は数名の役員、決定権を持つ各部門のトップがいれば、AIとロボット、それらを管理するIT部門だけで事足りてしまう。

生成AIが台頭した50年前、真っ先に人員整理されたのは総務など特殊性の低い事務間接職と中間管理職だったというが、今思えば当然の流れだろう。

 小規模事業/国家サービス層とは、米などの主要品目以外の作物をAI、ロボットを利用せずに栽培する嗜好農業、絵画、音楽、小説などのアート創作、警察や消防など治安に関わる仕事に就いている。

朝のラッシュは、この40%が職場に移動するためだ。

嗜好農家なら畑やハウスへ、画家ならアトリエへ、作曲家ならスタジオに出勤しているということになる。

 ノスタルジックスペースの店長のような趣味の店やサービスのオーナー、宗教家などは数%に含まれているという。


 BI層の大多数は、その昔、サラリーマンと呼ばれていた中流階層である。

彼等の仕事をAIが肩代わりしている現在では、よほどのことが無い限りBI層を底辺とした資産ピラミッドが覆ることはない。

そして彼等は、世の中から切り捨てられたと感じており、この負の感情が視野を曇らせ、陰謀論に走らせてしまうのだそうだ。


 もうすぐ21世紀が終わろうといている今は、熾火がぶり返すように終末論の尾ひれまで付いた負の感情が拡散されている。

 知識、技術、資源、資金を絞り尽くされたこの世界は、富裕層が移住した後にGATEが閉じられて滅びの一途をたどるが、祈りによって高次元から精神生命体が現れ、信者が導かれるというカルトすら誕生していた。

信仰の自由というが、信者からなけなしの財産を根こそぎ吸い上げるための集金システムにしか見えないのは気のせいではないだろう。


 この流れに上手く乗ったグリーンフリーダムは、環境保護活動という名の文明破壊を率先して行い、扇動された不満を持つ市民はタチバナ研究所を包囲する人間の盾になった。


 そのため、世界有数の企業であるタチバナ研究所は、事あるごとに狙われ、業務妨害を受けて多大な被害を被っている。

中には、爆発物を搭載したマイクロドローンを使って警備員を殺害したというニュースまである。

真偽の程は定かでは無いが、グリーンフリーダムを隠れ蓑にしたトゥルーというテロリスト集団が暗躍しているという記述もあり、橘所長を狙った暴行事件のほとんどにトゥルーが絡んでいるという。


こんな卑劣な奴らに命を奪われるなんてこと、決してあってはならないだろう。



◇◇◇



 夜な夜なオールドネットの記事を読みまくる生活が続いたおかげで、すっかり世界の暗部を知ってしまった気がする。

この気分をどう表現すればしっくり来るんだろう。

 美味いと思って飲んでいたコーヒーが、実は匂いだけ似せた代替コーヒーだったとか、そんな感じか?

安っぽい表現ではあるが。


 ここ最近のお気に入り、中庭にある噴水隣のベンチでボーッと流れる雲を眺めながら、つまらない物思いに耽る時間。

意外に嫌いじゃないかもしれない。


「よぉ、坂崎君。どうかしたのか? ずいぶんと悩んだような顔して中庭でたそがれてるなんて珍しいじゃないか」

この声は。


「あ、橘所長。今日は天気が良いんで気分転換に日向ぼっこしてるだけですよ」


「それにしちゃぁ、ずいぶんと長いため息をついてたようだが?」


「ため息なんかついてました?」


「あぁ、10m先からでも分かるくらいに深いやつをな。彼女にフラれでもしたか?」


「やめて下さいよ。そんな関係じゃないですから」


「いや、すまんな。ただ、からかいたかっただけだ。ところで本題だが、少し時間取れるか?」

まったく。毎回、こんな風にからかうなんて。

抗議の声を上げようかと思ったが、所長の真剣な眼差しを見て、すんでの所で思い留まった。


「はい。15時までは空いてます」


「15時ってのは治療だったな。では今すぐ検査室2Bへ向かってくれ。治療を次のステージに進める」


「え? あ、はい。伺います」

所長に頭を下げてから、厚生棟に向かって歩き出した。


 唐突で意見を差し挟む余地もないのは毎度のことだ。

治療方針さえも所長決済が必要なんだろう。

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