表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美雪とミューキー  作者: よしなし つづる
所長と美雪
21/26

ミューキーとの時間2

 あれから1週間が過ぎ、明日から子供部屋に入室出来ると利根川から連絡が入った。


 念のため利根川に確認したところ、美雪は身体を動かすと強いストレスになるから、声をかけたり、目の前で猫じゃらしを見せるくらいに留めて欲しいという。

なぜ、猫じゃらしなのか疑問に思ったが、あえて聞くことはしなかった。


 昼過ぎに子供部屋に入ると、あの時の緊迫感も医療班の痕跡もなく、平和で穏やかな時間が流れる、いつもの子供部屋に戻っていた。


「2人ともこんにちは」

声に反応して2人がこちらに目を向けた。

美雪は何事も無かったようにベビーベッドに寝ていて、入室した俺を目で追っている。

しかし、どういうわけかミューキーの動きがぎこちない。

足腰に力が入らないのか、何歩か歩いてよろよろと座り込んでしまう。

完全に日常が戻ったとは言えないようにも思うが、1週間前にあれだけ危険な状態だったことを考えると仕方が無いのかもしれない。


 俺が部屋に入ったのを見計らったように、後から利根川が入室して来た。


「こんにちは。ミューキーちゃん、どうも動きがぎこちないですね。体力が戻らないんですか?」


「そうかもしれません。しばらくは声をかけながら、ゆっくりと馴れてもらいましょう」


しばらく雑談しながら、ミューキーを撫でて久々の対面は終了した。



 それから1週間は、体力が戻るまでは無理をさせないよう、軽くじゃらしては撫でるのを繰り返えせば良いと考えていた。

だが違った。

撫でた時の反応は今までと変わらず、うっとりと気持ちよさそうに目を細める普通の子猫だったのだが、あれだけ大好きだった猫じゃらしやボールには全く興味を示さない。

最初は、遊び方が気に入らないのか、別なオモチャで遊びたいのか分からずいろいろ試してみたが、相変わらず無反応なのは体力が戻らっていないからだろうと判断していた。

そうした時間を1週間積み重ねる頃には、遊び自体に全く興味が無いと確信するに至ると同時に正体不明の違和感が日に日に強くなっていった。


 やっと歩き始めたばかりの赤ん坊が、己が手足を上手くコントロール出来ないように、この子猫もまた足の使い方を覚えようと必死に練習しているように思えてならないし、「ミャ・・・」とか「ミュ」とか、今までは比べものにならないくらい頻繁に声を出しているのも違和感を感じる理由の1つだ。

他にも水を飲む時に手で水面を確かめるとか、数々の違和感に気づき始めるにつれて、知らんぷりを決め込むことも難しくなると、この子猫はミューキーでは無い全くの別猫なんじゃないかという疑念も確信へと変わっていった。



 この1週間は、ミューキーだけでなく美雪にも声をかけるようにしていた。

毎日、手を振ったり話しかけたりして気付いたのだが、美雪の方が猫じゃらしに興味を示しているように思える瞬間がある。

身体が不自由で、目だけで俺を追ってるのは今まで通りだが、こんなにも猫じゃらしをじっと見つめることがあっただろうか?


 ミューキーへの違和感が高まるとともに、美雪も本当に今までと同じ美雪なんだろうかという、漠然とした不安感に気付くまで時間はかからなかった。



 違和感と言えば、他にもここ1ヶ月以上ずっと感じている違和感がある。

そう。ミューキーが全く成長していないのだ。

猫の成長は人よりもっと早いものなのに、いつまでも生後3ヶ月ちょっとの見た目を維持した子猫だなんてことがあるだろうか。

 森で初めて抱き上げた時は、間違い無く500g未満だと感じたわけだが、今でもあの頃の大きさ、重さと変わらないように感じる。

小さい品種なんだろうか。

それとも意図的に成長を止めてるんだろうか。



 ボールを投げれば追いかけ、手で弾いて転がし、また投げて!と言わんばかりに持って来る。

そんな遊びに戻ってくれる日が早く戻ってくれると良いのに。

ミューキーが見向きもしない猫じゃらしを、美雪の目の前で揺らしながら寂しくため息をついたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ