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tuer la romance 〜彼女が彼を殺すまで〜  作者: かみやまあおい


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13/16

ep13.依頼主

ギルド本部の窓を割り、瓦礫の山を駆け下りたルナは、一心不乱に街の路地を走り続けていた。

後ろからは、怒号と追っ手の気配が途切れることなく追いかけてくる。

いつの間にか日が暮れ、街は夜の帳に包まれていた。闇に紛れ、身を隠しながら、ルナは必死に逃げ続けた。

しかし、彼女の心は、身体の疲労以上に重く、深く傷ついていた。

シーアの裏切り。ビブリオの見放し。

頼るべき家族に、そして育ての親に、彼女は背を向けられたのだ。


「なぜ……」


ルナは、壁にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返しながら、痛む胸を押さえた。

シーアが自分をギルドに売り渡したのは、ルナを救うためだと言っていた。しかし、その言葉は、ルナには裏切りの言い訳にしか聞こえなかった。


(シーアの言う通り、ギルドの掟を破ってしまえば、私にはもう帰る場所なんてない……)


たった一人の家族だと思っていたシーアは、ルナをギルドに繋ぎ止めようとした。

それは、ルナの幸せを願ってのことだったのかもしれない。

だが、その方法は、ルナの最も大切なものを奪うことだった。


「ニルス……」


ルナは、ニルスのことを思った。

今、彼を頼れば、ギルドの追っ手が彼の元にも押し寄せるだろう。

ニルスを危険に晒すわけにはいかない。しかし、たった一人でこの絶望的な状況を乗り切る自信もなかった。

ニルスに会いたい。彼のそばにいたい。

しかし、彼を守るためには、彼から離れなければならない。愛と責任の挟み撃ちに遭い、ルナは身動きが取れなくなっていた。


―――――――――――――


その頃、ギルド本部の一室では、シーアがビブリオに深々と頭を下げていた。


「ビブリオさん、本当に申し訳ございません。ルナは、もう私のことを信じていません。私が彼女を裏切ったと思っているようです……」


シーアの声は、震えていた。


「ルナにはもう苦しんでほしくなかった......ギルドを裏切り、永遠に追手に追われる生活などしてほしくなかった......ですがルナはギルドよりも自分の愛する人を選んでしまった......」


ビブリオは、静かにシーアの頭を撫でた。


「仕方ない。ルナは、それだけ傷ついていたのだ。君の真意が伝わらなかったのは、君だけのせいではない。私にも責任がある」


ビブリオは、ルナを最高の暗殺者として育てたが、同時に、彼女の心の機微を理解しようとはしなかった。

彼の脳裏には、ルナの父親であり、先代ギルドマスターであったリグルの面影が蘇っていた。


「リグルさん……あなたを、ルナの最高の暗殺者として育てようとしていた。しかし、私には、ルナを、一人の人間として愛することができなかった……」


ビブリオは、後悔の念に駆られていた。

だが、すぐに顔を上げるとビブリオはシーアの目を見つめて言った。


「シーア。君には、まだできることがある。君しかできないことがある。」


ビブリオは、シーアに一枚の地図を差し出した。それは、ギルドが持つ、首都ルーヴァンの詳細な地図だった。


「これは……?」

「ニルス・グウェルの居場所だ。」


シーアは、驚いてビブリオの顔を見つめた。


「オーナーの男が、ルナにニルスの居場所を話していた。ギルドの情報網は、君が思っている以上に広い」


ビブリオは、シーアの目をまっすぐに見つめた。


「ルナは、たぶん今ニルスの元へ戻ることを躊躇している。しかし、ニルスは、今、最も危険な場所にいる。依頼主の正体が判明した」


シーアは、ビブリオの言葉に息を呑んだ。


「ニルスを暗殺するよう依頼したのは、『暁の牙』と呼ばれる組織の首領だ。シーア、お前は『星屑の砂』という違法薬物について知っているか?」


シーアは首を横に振った。


「その薬物は、幻覚作用が強く、非常に危険なものだ。ギルドはかねてより、その薬物の製造者と取引相手を監視していた。」


ビブリオは、苦渋の表情で言葉を続けた。


「そして、その星屑の砂を作っていたのが、ニルス・グウェルであり、取引をしていたのが、暁の牙だった」


シーアの表情が、一瞬にして凍り付いた。

暁の牙は、裏社会では名の通った、恐るべき犯罪組織だ。その首領が、ニルスを狙っているというのか。


「ニルスが作った星屑の砂は扱いを気をつけないとあっという間に人が亡くなる。そしてその扱いをぞんざいにした結果犠牲となった者たちもいた。その中に首領の家族も含まれていた。彼の恨みは深く、それが今回の依頼の真の動機だ。」


ビブリオは、シーアの肩を掴んだ。


「シーア。ルナはもう私を信用していないだろう。だが、君はまだ可能性がある。君の心は、彼女に伝わるはずだ。」


シーアは、ビブリオの言葉に、力強く頷いた。


「キミの力でニルスとルナを再び一緒にいるようにするんだ。ルナが愛する男を失うと言う絶望的な運命から、彼女を救うんだ。」


シーアは、ビブリオから地図を受け取ると、力強く頷いた。


「はい。必ず、ニルスとルナの2人に状況を伝え、共に生き延びるようにさせます。」


シーアは、部屋を出ると、すぐに「虹の山海亭」へと向かった。


その頃、ニルスは、店の裏の部屋で、一人、ルナが来るのを待っていた。

ルナが去ってから、ニルスの心は、彼女への想いで満たされていた。

ルナが、自分を危険から遠ざけようとしていることは、痛いほど分かっていた。

しかし、彼の心には、ルナを守りたいという強い衝動が渦巻いていた。


(僕のせいで、ルナはギルドを裏切ることになった。僕のせいで、ルナは全てを失った……)


ニルスは、自責の念に駆られていた。

その時、コンコン、と部屋の扉がノックされた。

ニルスは、ルナが戻ってきたのではないかと、期待に胸を膨らませて扉を開けた。

しかしそこに立っていたのは、見知らぬ女性だった。


「あの……どちら様ですか?」


ニルスの問いに、女性は、一目で分かるほどの焦りを浮かべていた。


「ニルス・グウェル。あなたに、どうしても伝えなければならないことがある。」


シーアは、息を切らしながら、ニルスに依頼主の正体と、彼が背負う運命の真実を語り始めた。


「私は、ルナの家族のシーアです。あなたを狙っていた依頼主が分かったので伝えにきました。」


突然のシーアと名乗った人物のセリフにニルスは戸惑う。


「あなた…何者ですか? 突然やってきたと思えばルナの家族だと名乗り、依頼主が分かったとまで言ってくる。そもそもルナはどうしたんですか?」

「あなたが訝しむのももっともです。ただ、今ルナは非常に苦しんでいます。あなたという存在と私達家族の存在の間で。ですのであなたに今後について考えてもらいたくこちらにお邪魔しました。」


ルナが苦しんでいる、それはニルスも見ていて分かっていた。

ならば自分にもしできる事があるならばやってあげたい。ニルスはその思いからこのシーアという人物の話を聞いてみる事にした。


「……分かりました。それで僕の暗殺を依頼したのは誰だったんですか?」

「依頼主は、『暁の牙』という犯罪組織の首領です。この名前を聞いてあなたにも思い浮かぶ事があるのではないですか?」


シーアの言葉を聞いたニルスの顔から、血の気が引いていく。彼は、シーアの言葉を、まるで信じられないという顔で聞いていた。


「まさか......でももう暁の牙とはとっくに取引は辞めていました。なんで今になって急に僕を殺そうなどと......」

「その『暁の牙』の首領は、あなたの作った星屑の砂によって家族を失った。あなたが製造した星屑の砂はよりにもよって大変な人を殺めたのです……」


シーアは、ニルスが過去に犯した罪の重さと、それがルナに悲劇をもたらす運命を、淡々と語った。

ニルスは、自分の過去が、ルナに悲劇的な結末をもたらすことを知り、絶望に打ちひしがれた。


「シーアさん。ルナは、僕のせいで、ギルドを裏切ることになった。僕のせいで、全てを失った……」


ニルスは、涙を流しながら、シーアに語りかけた。


「僕は、ルナを愛している。だから、これ以上、彼女を苦しめるわけにはいかない。」


ニルスは、シーアに、自らが犯した罪の償いを果たすために、暁の牙の首領と対決することを決意した。


「シーアさん。ルナには、決してこのことを言わないでください。彼女を危険に晒すわけにはいかない。」


ニルスは、シーアにそう告げると、部屋の窓から、闇の中へと飛び出した。

シーアは、ニルスが窓から飛び降りていくのを見つめ、絶望に打ちひしがれた。

彼女は、ニルスを止めることができなかったのだ。


(ルナ……ごめんなさい……)


シーアの心は、絶望に支配されていた。

ニルスは、ルナを救うために、一人で死地に赴こうとしている。

そして、ルナは、ニルスを失うという、悲劇的な運命をたどることになるだろう。

シーアは、ルナに、この悲劇をどうやって伝えればいいのか分からなかった。


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