ep1.暗殺者
ここは城塞都市ルーヴァン。
人口10万人を超え、多様な種族が住む街である。
あまりにも大きなこの街は街の中央に上下左右の太い大通りが2本作られ、それぞれが区分けされている。
街の右上の区画、壮麗なルーヴァン城が聳える高台は、城に仕える大貴族など、選ばれし富裕層のみが暮らす高級街だ。
居住を許された者だけが足を踏み入れられる特別な区画であり、磨かれた石畳に瀟洒な邸宅が並ぶ街並みは、下界の喧騒とは無縁の優雅な空気に満ちている。
道行く人々の装いは、庶民には値も想像できぬほど豪華絢爛。その一着が生まれ持った身分と富を物語り、この街がまさに雲の上の世界であることを示している。
左上の一画は、冒険者たちの夢と欲望が渦巻く繁華街だ。
冒険者ギルドを中心に、武具店や宿屋、そして無数の酒場が軒を連ね、昼夜を問わず熱気に満ちている。成功を祝して杯を掲げる声、新たな仲間を求める声、武具がぶつかり合う音。
夜が更けてもその喧騒は途絶えることなく、煌々と灯りがともり続ける様から『不夜城』の異名を持つ。ここは眠らない街、冒険者たちの魂の拠り所なのだ。
右下の一画は、富と活気が渦巻く大商業区だ。
鍛冶屋の槌音、薬草や香辛料の香り、そして威勢の良い呼び声が混じり合い、絶えず街を活気づける。
世界中から集められたありとあらゆる品々が店先に並び、ルーヴァンで最も多くの人々でごった返す。
一攫千金を夢見る商人たちが世界中から集うこの場所は、野心と希望に満ちた、まさに富への登竜門なのである。
左下の一画は、陽の光から見放された者たちが吹き溜まる貧民街だ。
夢破れし者、異形の種族、そして親を失った孤児たちが、淀んだ路地裏で息を潜める。
一歩迷い込めば、そこは弱肉強食の掟が支配する無法地帯。
獲物を狙う盗賊の鋭い視線が注がれ、縄張りを巡る血生臭い抗争が絶えない。
その陰では、盗賊や暗殺者のギルドが深く根を張り、この街の闇を支配しているのだ。
ルナ・シフォンはそんな暗殺者ギルドに加入をしている暗殺者だ。
普段は繁華街にある酒場「虹の山海亭」でウエイトレスとして働いているが、指令があると暗殺者としてターゲットの命を奪う。そんな生活を繰り返している。
ルナがこのルーヴァンに来たのは8歳の頃だ。
ルナは小さい頃の記憶をほとんど覚えていない。
突然この貧民街に現れた。頭に大きな傷を負い、手には1本のダガーを持って。
連れ込まれた闇医者の診断によると頭の傷は何か鈍器で殴られたものだという。
彼女は何かの事件に巻き込まれたものとしてその扱いをどうするかで揉めた。
そこで当時暗殺者ギルドのリーダーであったリグルが彼女を引き取る事に決め、彼女を暗殺者として育てる事にしたのだ。
それから5年、ルナはリグルによって暗殺者のスキルを叩きこまれた。
13歳になったルナは暗殺者としての仕事を始めた。
最初の暗殺対象は少年少女を奴隷として買ってきては自らの屋敷で凌辱する事を趣味とする変態貴族だった。
この任務はルナにとって非常に簡単だった。
奴隷のふりをして貴族の屋敷に紛れ込み、隙を見て貴族を暗殺する。ただそれだけだった。
他に奴隷として屋敷の地下牢に閉じ込められている少年少女になんの感情も湧かなかった。
ルナは任務を無事達成すると1人屋敷を後にしてきた。
それ以来ルナは何人もの暗殺対象を殺害してきた。
一流の暗殺者として鍛え上げられたルナには仕事の時に感じる感情などなかった。
19歳になった今でこそ感情を持つようになったが、それまでは全く感情のない機械人形のような子供だった。
感情を持つきっかけになったのはリーダーでありルナの育ての親であるリグルの死。
それにより、ルナはリグルの愛人だったシーアに引き取られた。
シーアはルナに優しく、人としての心を失ったルナに感情を教えてくれた。
勉強も教えてくれ、一般教養の知識も教えてくれた。
シーアに育てられて5年。
今では昼間のウェイトレスの時には年相応の女性としてふるまう事ができるようになった。
ウェイトレスの仕事を始めたのもシーアがきっかけだ。
シーアはルナにいつまでも暗殺者をやらせたくはなく、一般社会に少しずつ戻れるようにと「虹の山海亭」のオーナーに相談してルナを雇ってもらった。
今ではルナはお店でも人気のウェイトレスとなり、ルナ目当てで通い詰める客も多い。
長い黒髪を縛り忙しく店内を走り回るルナの姿に多くの男性が魅了されている。
今日もおかげさまで「虹の山海亭」は大賑わいである。
「じゃあ先に帰ります、オーナー。」
「おう、ルナちゃん気をつけて帰れよ。」
店のオーナーに挨拶をするとルナは店を出る。
今日もいつも通り忙しかった。
料理の名前を覚えるのも種類が豊富でなかなか難しい。
それでも最近はだいぶ覚える事が出来てきた。
ウェイトレスとしてもだいぶ様になってきた。
明日も頑張ろう、ルナは気持ちを高揚させながら帰路に着く。
繁華街を出て大通りを渡り貧民街へと向かう。
シーアの家は貧民街でも割と治安のいい場所にある。
だから夜でもルナ1人で歩いてても襲われるという事はない。まあ、襲ったところで返り討ちにあうのが関の山だが。
明るい道を歩き角を曲がったところでルナは足を急に止める。
角を曲がった先、暗闇の中に何かがいるからだ。
だがルナにはそれは何か分かっている。
ギルドからの指令を伝えに来たものだ。なるべく暗闇で顔を見せずに指令書のみを差し出してくる。
ルナは手を伸ばし指令書を受け取る。暗闇の中の何かはスッと気配を消した。
受け取った指令書をカバンにしまうとルナは再び帰路に着く。
「ただいま、シーア。」
少し古いドアを開けるとルナはシーアに挨拶をする。
シーアは遅くまで働いていたルナのために夜食を作って待ってくれていた。
「お帰り。お腹空いただろ。お食べ。」
シーアに言われてルナは食卓に着くと料理に手をつける。
人としての料理を食べるようになったのはシーアに引き取られてからだ。
それまでは料理とは到底言えないようなものを食べて生きていた。
最近ではようやく自分も料理を覚えてみようかな、と思えるようになってきた。
料理を食べつくすと皿を片付け自分の部屋に戻る。
そしてさっきもらった指令書を取り出すと中を見る。
『対象者:ニルス・グウェル
対象者の居住地:ハレオの村
対象者の特徴:茶色の髪、黒い眼、メガネをかけている時もある、身長は高め、年齢は21、医者
任務の期間:1週間』
指令書に書かれていたのはそれだけだった。
ハレオの村はルーヴァンから馬で行けば半日で着く小さな村だ。
人も少ないに違いないし特徴もよく書かれている。
こんな任務に1週間もかからないだろう。
明日、早速村に行って任務を遂行する、簡単な任務だ。
ルナは明日オーナーに休みのお願いをしに行こうと考えながらベッドに入った。
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