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第8話 帰還要請

 瑠花がまた登校して来たのは次の週の月曜日になってからだった。


 ホームルームが始まる前の瑠花をクラスの女子達が囲んだ。


「どうしたの?」「体弱いとか?」「ノート写す?」


「どうしたのとは何に対する問いですか?体は弱くありません。強いです。ノート写す行為に何か意味がありますか?」


 質問に律儀に答えているが、チグハグで頓珍漢だ。帰国子女という事で許されている節があるようで、女子達も親切の押し売りをしている。


 女子に基本囲まれていて、蒼介は思ったよりも話をすることも無さそうでホッとしていた……


 が、その日の放課後


 また倉本先生に捕まった。

 当然のように瑠花もいる。


 車の中で自宅に連絡する。


「うん、ごめん。遅くなる、夕飯?夕飯は……」


「奢ってやろう」


「夕飯は食べさせて貰えるみたい。うん。じゃあ……」


 また先生達の家に連れてこられた。

 絶望的なことに、蒼介が知っている所までしか片付けが終わっていない。

 要するに、この女性二人はここ数日間は引越し作業何も進めてなかったらしい。


「片付けに俺必須じゃ無いでしょう?もうちょっと頑張ってくださいよ」


「いいじゃ無いか。星名とも学校じゃあんまり話出来てないだろう?

 ……星名は2階の自分の部屋に行って、段ボールの中の服をタンスに詰める作業してなさい」


「はい」


 瑠花は素直に二階に行った。


「星名について何だが」


 倉本先生が段ボールのガムテープを剥がしながら話し出す。


「母星の方から帰還の要請が来ている……というか、母性からの使者が迎えに来ているのを、お前が……青木がいるからと無理に残っているんだ」


「いや、それなら帰った方が良く無いですか?」


 蒼介が迷惑そうに言うと、倉本先生は、やっと蒼介の方に向き直る。


「それじゃ人類が困るんだ。あのな……今、人類は攻撃にさらされている。

 ……と言うのも語弊があるな。うん。

 宇宙人どもは、どうにも野蛮な奴らみたいだ。命に関する感覚が、少なくとも一般的な日本人とはかけ離れている。

 

 非常に困ったことなんだが、最近、地球が宇宙人のヤンキーどもに遊び場として目をつけられたらしい。

 下手をすれば、土産物か戦利品として人間を攫っていくかも知れないし、スポーツとして人間狩りを楽しもうと考えてる奴らが、最近多く来ているんだ」


 なんか宇宙戦争とか大それた感じでは無いが、それにしたって脅威には違いない。


「なんか、それってヤバくないですか?」


「ああ、やばい。

 そこで星名達なんだが、母星じゃ結構権力あるらしい動物愛護団体だか、環境保護団体らしくてな?

 人類と地球の環境保護に乗り出してくれたらしい。

 ……残念ながら、敵対勢力にやられて生き残ったのは星名だけだったんだが。

 でも、乗って来た船は壊れても、積んで来た兵器は利用できたみたいで、それを使って星名はヤンキー宇宙人どもを蹴散らしてくれてるんだよ。


 星名達の方が、ヤンキーどもの星よりも文明が進んでるらしくて、なんとか星名一人でも対処できてるって訳だ」


 畳の上に胡座をかいて、剥がしたガムテープをくちゃくちゃに弄びながら、倉本先生は瑠花の重要性を説く。


「え、と、アメリカとか日本軍とかはヤンキーと戦ったりしないんですか?」


 倉本先生が皮肉げに唇を歪めて首を振る。


「我々はただ一度何十年も昔に月に降り立つのが精一杯の宇宙弱者種族だぞ?

 科学技術のレベルがとても敵わない。

 赤子の手を捻るよりも簡単に絶滅させられる」


「絶滅だなんて……そこまではしないでしょう?」


 最悪の未来予想に蒼介もつい媚びるような笑みで、倉本先生の否定の言葉を願ったが……

 

「するつもりが無くとも、結果としてさせられかねない程に考え無しである可能性もあるらしい。

 ヤンキーどもはあくまで遊びで来てる、粗野な奴らだそうだ

 そして、唯一の対抗手段が星名の持つ兵器と技術なんだ。

 我が軍も兵器の一部を貸与してもらっている。

 

 帰還命令はずっと前からあるのを、婚約者であるお前を理由に断り続けているらしい。

 判然とはしないが、母性では彼女の両親は一角の地位のある人達だったと推察されている。

 帰還要請は彼女の身柄を私たちが預かってから、ずっと受け取ってるんだ。

 

 彼女たち、環境保護団体は、地球人類種の9割の保存を訴えているらしい……逆に言えば、1割程度なら仕方のない損害として考えている。


 だから、星名の母星は、彼女を一旦引き取り、別のヤンキーの対応手段をこちらに送って来るまでのその間、地球人類が億単位で死ぬのは彼女の母星……ルルハルカルの星名の属する集団では許容範囲となるらしい。


 冷酷なことにも聞こえるが、他所の星のことなんて、私たちだってどうでも良いもんな。

 でも、私達の為に何人も死んだのに、それでも守りに来てくれようとしているんだ。

 本来なら、それでも文句を言える立場に無い。


 でも、星名はただ一人でも地球に残って、地球人類のために戦ってくれているんだ。

 ……星名はお前と仲良くしたがっている。

 私は星名の味方をしなくてはいけない。それが仕事でもあるからな


 ここ最近もヤンキーどもを倒してくれた。

 日本国軍の船を何隻も沈めたやつらの仇をうってくれた。


 少しだけ我慢して、面倒を見るのを手伝って欲しい

 拒否権はお前には無いがな」


 倉本先生が放り投げた丸めたガムテープのボールは、放物線を描いて、ゴミ箱の縁で跳ねて畳の上に転がった。


 倉本先生は肩をすくめて、膝立ちで近づいてゴミ箱に入れ直した。


「……たまにクラスメイトとして話をするだけですよ」


 蒼介は頼まれると断れない性格だった。

 


 

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