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第5話 帰宅

 引越し作業の手伝いは、今日のうちにはとても終わらなそうだ。

 

 階段の壁の修理はどうするのかと思ったら、宇宙人さんが、胸元からでかいプレートを出して、空いた穴の上に手で押さえると、背中から細く長いロボットアームが何本も出てきて、ネジらしきもので壁の穴を塞いでしまった。


 なんか不恰好な具合だったけど、後でもう少し良い感じに直すらしい。

 宇宙人は身体から金属生えるのかと思ったが、収納してるのを取り出してるだけらしい。

 と言っても華奢な身体から、身の丈を越える金属板が出てくるのはちょっとドン引きだし、どう言った技術なのかは蒼介にはちっとも想像も付かない。

 取り出す過程で制服にガッツリ穴が空いたが、本人は気にしていない様だった。


 着替える様に言ったら、段ボールから制服が山程出てきて、蒼介の前で普通に破れたのを脱ぎ出したから、慌てて逃げた。


 とにかく常識が無いようだし、会話も出来はするが、何処まで通じてるのかは謎だ。


「今日終わらせるのは無理ですよ。家、帰って良いですか?

 夕飯作ってると思うんで」


 ロボットアームで背中の服がめくれてるルカの方は見ないようにしつつ、倉本先生に許可を仰ぐ。


「もうそんな時間か。では、家まで送ってやろう」


 時計を仰ぎ見つつ、倉本先生がよっこいせと立ち上がる。

 

「いえ、多分バスあると思うんで」


 蒼介は固辞する。

 来るまでの道は見ていたが、歩いて割とすぐの所にバス停があった筈だ

 蒼介の家の最寄りのバス停と高校までを繋いでる路線と同じだった。


「そうか、また明日も頼むぞ」


「えー、いやその、えー?」


 蒼介の困った顔を見て、倉本先生がフッと笑った。


「冗談だ。ここまで来れば、後は何とか一人でやるよ。今度夕飯でも奢るから、暇な日を教えてくれ」



「ありがとうございます。じゃあ、楽しみにしてます」

 

 倉本先生からのお誘いに礼を言いながら、玄関に向かう。

 その後ろをテクテクとルカが着いてくる。


「いや、見送りは良いよ」


「見送りとは何?」


 ルカはちょこんと首を傾げた。


「あー、まあ、良いやじゃあな」


 面倒だし、苦手意識が無くなった訳じゃ無いので、適当にあしらって去ろうとすると、

 ルカも靴を履き始めた。


「いや、見送りここで良いって」


「見送り?よくわからない」


 押し問答をしていると、倉本先生が蒼介の声を聞きつけて現れた。


「星名、着いて行ったらダメだ」


「私たちは夫婦」


「違う。とりあえず今はまだ違うからな。

 結婚はもう少し、お互いの事を知ってからだ」


「わかった。蒼介、あなたの事を私に教えて」


「違う、もう青木は青木の家に帰る。星名はここに住む。今日はさよなら」


「……夫婦は一緒に住む」


「夫婦になってからな。今は夫婦じゃ無い。だから、さよなら」

 

 倉本先生が辛抱強く言い聞かせた。

 僅かに唇を尖らせて不満を表明しつつ、ルカはコクリと頷いた。


「今度こそまたな。気をつけて帰れよ」


 倉本先生がそれとなく身体を割り込ませてルカの視線から蒼介を隠し、少し笑って手を振るのに手を挙げて応える。

 ルカの気が変わらないうちにさっさと退場した。

 

 手すりに捕まってバスに揺られる。

 バス停から自宅までは5分ほど歩く。


 周囲と比べても、そこそこ立派な家。父が職場で上手い事出世したのと、前の家が建てた時よりも高値で売れたので建てられた家だ。


 ……多分、あの日から蒼介が防衛省の管理下にあったとするならば、引越しも、下手すると父親の仕事にすら政府のご意向が反映されているのでは無いか?

 ……何とも薄気味悪い想像だけど、否定しきれない。

 

 何と言っても、あの会話の通じにくい少女に世界の命運が託されているのだ。

 彼女の髪が銀色でよかった。

 そのお陰で、だいぶ顔の印象が薄れている。

 ……瑠璃

 思い出しそうになると胸がギュッと苦しくなる。

 喉の奥が詰まる感じがする。

 ずっと一緒にいたのに、一緒に遊んでいた記憶を、好きだった笑顔を塗りつぶす、あの血の記憶。


 暗くなってきて、ひんやりとして来た空気を大きく吸ってから、ゆっくり吐き出す。


 玄関のドアを開ける。


「ただいま」


「あ、お兄ちゃん帰って来たみたい。お帰りなさい」


 ニコッと歯を見せて笑うのは、俺の妹、名前は美空みそらだ。


 現在中学3年生。

 俺より頭が良いけど、同じ花城台高校に来るつもりらしい。

 家から近いし、部活も盛んだしな。

 美空ならうちの高校は楽勝だろうけど、受験を控えて、勉強のために3年生はもう部活は引退目前らしく、帰ってくるのも早くなって来ている。


「遅くなるなら連絡入れないと!

 もしかしてカノジョでも出来た?」


 ニヤニヤしながら下から見上げてくる。

 カノジョでは断じて無いけど、結婚を迫られている……ダメだ我ながら意味不明な状況だ。


「お前こそ、そろそろカレシの一人でも出来たのかよ?」


「えー?そういうの聞くのはセクハラだよ!

 うーん、カレシ作るならお兄ちゃんみたいな人が良いなー…なんちゃって?」


 舌を出して戯けて見せる。

 しかし、俺がセクハラなら美空だってカノジョの有無を聞いて来たんだからセクハラだろう。

 世の中の男女の不均衡に想いを馳せる。


 それはそれとして、身内贔屓を抜きにしても美空は中々整った可愛い顔してるのに、クラスの男子どもは腰抜けばかりだな。

 まあ俺も奥手な方だけど、俺は軟派じゃ無くて硬派なだけだし。

 

「お父さんも今日は帰って来てるよ。早くご飯食べよ!」

 

 空色のシュシュで高い位置に留めたポニーテールが一歩歩くごとに、動きに一瞬遅れて左右に揺れる。


 残業で平日は顔を見ることも少ない父親。

 宇宙人到来と関係あるかな?


 

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