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最終話 終わる宇宙人との攻防戦

 クウロの首根っこを掴んでルカが降りてきた。

 ……持ち方雑すぎる。

 服がダボダボだから掴みやすいんだろうけどさ。


 ルカの姿はいつもの瑠璃と同じ顔になっていた。何となく蒼介は残念に思った。

 モモもいつも通りの愛くるしい笑顔で、足が千切れてるように見受けられるぶら下げられた兄を見つめていたが、


「よし!船の方に運ぶね!」


 地面に降り立って、ルカがクウロを地面に置いたのをそのまま引き取って、やはり首根っこを掴んでズルズルと引きずって倉庫の方へと歩いていく。


 蒼介は瑠璃を地面に置いていくのはちょっと可哀想に思えたので、仕方なくお姫様抱っこしてやる。

 軽いんだろうけど、思っていたよりは普通に重い。

 ……そんなこと言ったらメチャクチャ泣かれそうだ。


 モモは何だか色々と吹っ切れたみたいだな。

 兄に逆らえない様だったのにやりたい放題だ。

 でも、母星に戻ってから苦労するんじゃ無いか?

 心配になる蒼介を尻目に、モモは兄を思いっきり雑に扱って、その背中は意気揚々として、足取りも軽やかだ。

 今まで相当積もり積もったものがあるのだろう。

 

「……ゲートとやらは、もう直ぐにでも閉じるのか?」


 蒼介が聞くと、モモはニコッと笑う。本当に無邪気に笑う奴だ。すぐに殺そうとしてくるくせに。

 この笑顔でなぜか有耶無耶にされてしまう。


 電気が付いていない暗く、がらんとしているのにカビ臭い倉庫の中に鎮座する宇宙船は、いつか見たのより大きく見えた。

 瑠璃をそっと出入り口の傍の壁に寄りかかる様に座らせてから、宇宙船に近づく。

 

 昔見たのと同じ大きさのやつなら、蒼介が大きくなった分小さく感じるはずなので、こっちの方がだいぶ大きいんだろうな。

 

 「母星の皆んなが地球の近くで待機してるよ。閉じる直前に地球を発つのじゃ間に合わないからね。

 早めに船出さないとだね!

 他の星の人達も多分大半は帰還するよ。お兄ちゃんが言っていた通りにね。

 でも、もちろん、星や土地や個人の考え方の違いで、ギリギリまで粘ったりしてウッカリ居残るのもいるだろうから、そいつらが地球で勝手なことしない様に、これからも多少は頑張らないとだよね。

 もしかしたら、地球を気に入って残る人もいるかも知れないけど、

 ほら、地球って文明遅れてるから、残ろうとする人なんてすっごい変人しかいないよ」


 そう言いながら、宇宙船の目の前にモモが到着すると、待っていたかの様に、一部が開き、足場がゆっくりと降りてきた。

 床から10センチくらいのところまで降りて停止する。


「この中に結構武器がまだまだあるから、それをお兄ちゃんに使われてたら危なかったかも!」


 モモが台座の上にクウロを引っ張り上げる。


「何で使わなかったんだ?」


 モモとクウロがゆっくり昇っていく。


「設定変更とか時間かかって面倒だから事前にやっておかないとダメだからね。

 こう見えてお兄ちゃん面倒くさがりだから!私もやってないなーって思ってたけど、指摘したら、やれ!って絶対言うんだもん」


 ルカは無言で昇っていくモモを見上げている。


「なんか寂しくなるよ」


 蒼介が素直にモモにそう伝えると、


「え?何で?」


 モモはキョトンとした顔のまま、宇宙船に収納された。


 少し間を置いてから、船全体に七色の光が集まり、やがて真っ白に視界を埋めつくす。

 白い光の柱が天井を突き破り、細く収束していくと、大穴の空いた天井から外の青空が見えた。


「あれ?」


 蒼介が間抜けな声を漏らす。


 船は残っていた。

 上部の一部が無くなっているが、しっかり残っている。


「よし!いっちょあがり!」


 モモが船から足場に乗って出てきた。


「私も残るから!」


 モモはニコッと笑った。


 蒼介もつられて笑う。


「何だよそれ!」


 モモは偉そうに語る。


「お兄ちゃんの積んできた兵器は全部奪ったよ。

 ルカちゃん、これでルカちゃんの持ってる兵器が無くなったりしても、私のも使って良いから、これからも地球人の言いなりになることないよ。

 兵器が無くなったら絶対実験動物とかにされちゃうんだから!

 地球人類贔屓もいいけど、ちゃんと警戒心も持たなくちゃダメだよ!

 私も一緒に対抗するから、

 そんな訳で、これからもよろしくね!」


 モモは一気に捲し立てた。

 要するに、ルカが心配なのもあって残ったらしい。


「でも、本当にいいのか?二度と故郷には戻れないんだろ?」


 もう言ってもどうしようも無くても、やはり気になってしまうところだ。


「お兄ちゃんの顔も二度と見なくて良いってことでしょ?

 さいこー!やった!ちょっと嬉しくなってきたかも!」


 モモは子供みたいに飛び跳ねて喜びをあらわす。


 そして、その後は、ルカとモモとで残された宇宙船と内部の兵器の設定を変更して、宇宙船はステルス状態にして、他の人からは見えなくし、兵器も二人にしか使えなくしてしまった。

 

 倉本先生や、その上司や軍の人達なんかも駆けつけて来た頃には、宇宙船は影も形も無くなっていた。


 蒼介たちはしばらく拘束されたが、モモがしっかり交渉してくれたらしく、数日後には自宅に帰ることができた。


 そして、瑠璃はまた転校していった。

 蒼介がいない間に手続きは全て済ませてしまっていた様だ。

 挨拶はなかった。

 また、どこかで会うこともあるだろうか?

 思いの外寂しさを感じなくなっていた。でも、瑠璃にはどこかで元気にやっていって欲しいと本心から思っている。

 子供の頃の瑠璃との思い出は、やっぱり蒼介にとってもいつまでもキラキラ輝く大切なものだから。

 たとえ他に大切な存在が出来たとしても、それは変わりない。

 きっとずっと。

 


 モモは現在ルカ以上の大量の兵器を体内に隠しているために、かなり強いらしく、地球から逃げ損ねた宇宙人狩りに、ルカの代わりに積極的に行ってくれている。

 お陰でルカは怪我をすることが減った。

 

 ゲートが予測通りの時間に完全に閉じていたことは、後日のルカとモモの調査で判明したらしい。

 これで、ルカもモモも母星へは帰れなくなった。

 でも、二人に後悔した様子は微塵もない。


 そして、由香里は雪人の見舞いに毎日の様に行っている。

 モモも船の中にあった簡易治療キットを使う様に防衛省に求めて、実際驚くほどの速度で回復しているらしい。

 そんなものを使った雪人が実験動物的に扱われないか心配だったが、体内には痕跡が残らないから意味はないし、モモが圧力を掛けてくれるらしいので、少しは安心した。


 モモは、由香里と雪人に会いに病院まで会いに行っていたらしいと、後から雪人に聞いた。なんと菊の花束を雪人に渡し、


「ごめんね!これで許してくれるよね?」


 と軽い調子で謝ったそうだ。

 由香里がキレかけて大変だったと雪人が苦笑していた。

 学校に戻ってきてからも、まだ全快では無い雪人を由香里が命の恩人だからと、まめまめしく世話をしている。

 周囲のカップル扱いに由香里は最初は怒っていたが、そのうち言わなくなった。

 そして、二人が付き合い始めたと報告されるのにそんなに長い日数は要らなかった。


 そして、蒼介とルカは公認カップルになったが、たまに二人きりで出掛けたり、自宅に招いたりする程度で、そんなに関係は変わっていなかった。

 ルカもそれで納得している様に見えていたが、


 倉本先生とルカの家。

 最近はモモも同居し始めた家のリビング。

 ルカが真剣な眼差しで蒼介をジッと見つめ、


「私と蒼介は付き合っている」


 突然そんなことを言ってきた。ルカはいつもながらに唐突だ。

 

「そうだな」


 事実なのでもちろん肯定する。


「ならこれする」


「これ?」


 それは……保健体育の教科書!


「まだ早い!」


 蒼介は後ずさる。いや、健全な高校生男子としては興味が大変あるが、こんなに純粋な眼差しで真っ直ぐ迫られるとビビってしまう。


「結婚してから?」


 ルカが小首を傾げる。


「う……いや、まあ、そうでも無いけど、まだだめ!」


 もう少し心の準備が……。

 蒼介は手でバッテンを作って貞操を守る。


 しかし、普通に二人の間抜けな会話を聞いていた倉本先生がキッチンから顔を出して、からかうように声を掛けてくる。


「研究部門が興味あるみたいだから、子供、作ってみたらどうだ」


 実験動物かよ!ひでぇ!


「許可がでた。蒼介、覚悟!」


 「ちょ、待て!もう少し段階を踏もう!」

 

 抱きついてくるルカに唇を奪われたが、何とか体は守ることができた。

 変な超技術兵器を持ち出されなくて助かった!


 そんな風に宇宙人との攻防戦が続き、

 そして月日が流れ……


 ある田舎の寂れた場所。地元では知られた宇宙人の目撃例があるところ。

 目撃者によると、宇宙人は銀色の長い髪と大きな銀色の瞳を持ち、小柄で外国の少女の人形の様な姿をして、よく似た子供を連れているそうだ。

 

 目撃例のあった町と程近い、周囲に他に建物のない一軒家。


 今日の様な晴れた新月の夜は星が良く見える。

 窓際の机に向かい、蒼介は遠い宇宙に思いを馳せながら、一人部屋に篭って原稿を仕上げていた。

 ……何とか締め切りに間に合いそうだ。

 うーん……と伸びをすると、ドアがノックされた。

 ひょこりと低い位置に愛らしい顔がちょこんと部屋を覗き込んできた。


「ママがね、ご飯できたって」


「ああ、今行くよ」


 蒼介は微笑み、両手を高く差し出して笑う娘を抱き上げ、電気を消して部屋を出た。

 

これで完結です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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