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第40話 ゲート

「失敗したのか。使えない奴らだ」


 クウロが冷たい目で瑠璃と、モモを見る。


「お願い。私の偽物を宇宙にもう連れていってよ!

 あの偽物のせいで蒼ちゃんがおかしくなっちゃったの!」


 瑠璃が涙ポロポロと涙を流してルカを指差す。


「ああ、そのつもりだよ。でも、ルフを……ボクの婚約者を偽物呼ばわりは頂けない……。

 用済みを始末してから帰るかな」


 キラキラと光が瞬き、いつの間にかクウロの周りに銀色のボールが浮いている。


 それがゆっくりと蕾が綻び花開く様に割れていき、その中には鋭い棘が詰め込まれていた。


 瑠璃はそれをポカンと眺めている。


「瑠璃!危ない!」


 蒼介が手を伸ばし、無駄と頭の奥ですでに理解しつつも駆け出そうとした、が、隣からの強い風に押されてタタラを踏む。

 蒼介がよろめき膝をつく様な瞬発的な風圧。


 クウロとモモが見上げる先を蒼介も見ると、ルカが瑠璃を抱えて宙に浮いていた。

 瑠璃は気絶しているのか、ダラリと手足を投げ出している。

 背中から大量の金属の板が出ている。

 そして、その顔はいつか見た本来の姿だった。背が縮み、服はサイズが合わなくなってしまっていたが、瑠璃を抱える姿は今まで見たどの姿よりも堂々とて美しく、蒼介は目を奪われただただ仰ぎ見る。


 ルカが空に浮かび上がりクウロを睥睨し、問いかける。

 風も無いのに広がる長い銀髪は神々しく神秘的だ。


 「なぜ地球人類たちを、そんなに簡単に殺そうとするの?

 理由不十分と判断されれば、原住人類殺害規則違反で母星に帰還し次第、拘束されることになる」


 その声は大きくは無いのに不思議な響きをもって、それなりに離れた距離を、脳に直接届かせる様に響く。

 もしかしたら、なんらかの技術を持って声以外でも情報が届けられているのかも知れない。

 クウロは本来の姿に戻ったルカを見上げながら、眩しそうに目を細める。


「調査があればね。調査しようも無ければ嫌疑不十分で拘束はすぐに解かれるさ。

 特に君を、いくら言っても地球から戻ろうとしない議長の姪っ子を取り戻したとあればボクは英雄として扱われるだろう」


 クウロの声にも今までに無い響きが含まれる様になった。

 その普通よりもむしろ小さめの音量の声はしっかりとルカにやはり届いている様だ。

 ルカが僅かに目をすがめる。クウロの言葉に疑問を持った様だ。

 元の姿の方が少しだけ表情がわかりやすい。


「調査はされない自信があるの?

 たとえ私が誰であろうと、あなたがどの様に説明をしようと現地住民に対する聞き取りはなされる」


 クウロは、よくぞ聞いてくれたと満足そうにニヤリと笑った。


「ゲートが閉じる」


 その意味は蒼介にはわからなかったが、ルカにはそれなりの衝撃があった様だ。

 クウロをジッと見つめ、言葉の続きを待つ。


「まさか、こんな辺境の星で生涯を過ごすつもりは無いだろう?

 状況が変わったんだ。

 ゲートが閉じるのが、予定外に早まってしまった。もう何日も無いんだ。

 今回閉じたら下手すると数100年か、あるいは数万年単位で他の星から地球に来るのか難しくなる。

 そうなれば調査にくる奴もいないだろう。

 さあ、早く一緒に母星へ帰還しよう。

 遅れたらもう2度と故郷に戻れなくなるんだぞ!


 他の星の奴らも、まともな頭をしている奴はあらかたここを出払ったさ。

 

 不思議に思わなかったのか?最近は地球人類どもにこき使われて戦わされる頻度が少なくなったと。

 減っているのさ。

 流石に取り残される危険は犯せないだろう?

 それでも今も残ってる奴らは、ギリギリまで粘ってライバルが減った分なるべくアガリを上げようとしているみたいだが、本当にバカだよ。

 ……確かにボクらも少し前までは後何日かは余裕があると思ったが、データを計算し直してみたら……下手をすれば、あと半日もないかも知れない。

 まだ残ってる他の星の奴らはデータの取得か計算の速度が遅くて情報が遅れてるんだな。


 さあ、早く帰ろう。

 そんな未開人のことなんて忘れてしまえ。

 ……そうだな。キミが地球で使っていた顔と同じ、その天野瑠璃は生かしておいてやろう。

 ルフがいなくなれば、きっとソイツの方で青木蒼介も我慢もするさ」


 クウロがルカを迎え入れようとする様に両手を広げ、笑いかける。


 ゲート……と言う言葉はわからなかったが、ルカが故郷に戻る最後のチャンスが後少しで無くなるらしいことは理解できた。

 そして、おそらくもう二度と会うことが無くなってしまうことも……。


「私は地球に残る。蒼介と一緒にいる」


「………………なら、力付くで連れて帰るよ。

 キミは元々両親と共に、地球人類に警告と協力の協定を結ぶためだけにここに来たはずだ。

 だからキミの装備は所詮、防犯用に船に積んでいたものの残りだろう?

 地球人類にこき使われて、ろくに整備もできずに、あとどれくらい動くと言うんだ。

 

 ボクらは、キミを迎えに来つつ、状況によってはここを侵略できる様に準備を整えて来たんだ。

 勝てるだなんて思わないでいただきたい」


 そして、クウロの背が僅かに縮んだ。

 華奢で中性的な人形の様な肢体。

 あれが、クウロの宇宙人としての姿。

 そして、その背中から大小のウィングが背中の服を突き破って生える。


「蒼介!天野瑠璃をお願い」


 ルカの背中手のひら、切れ込みが入った太ももから、金属のプレート、筒状のもの、円板、様々な形状のものが出てきてルカの周りを惑星の様に浮かび周り出す。


 瑠璃を放ってきたが、空気抵抗が何十倍にもなった様に、ゆっくりと降りてくる。

 瑠璃の周りを五枚の円盤が付き添う様に漂う。

 

 「momoh!eft geev do eldeaan!」


 クウロが何事かモモに向かって叫んだ。


 モモが瑠璃の方に、手のひらから飛び出した長いブレードで切り掛かる。


 しかし、瑠璃の近くを浮いていた円盤の一つが、そのブレードを押し留めた……だけでは無い。

 ブレードがパラパラと円盤に近い表面から剥離していく。

 モモがすぐに刃をひっこめたが、間に合わなかった様で、細くなった場所から折れてしまった。


「うそ!最高級品!初めてみた!」


 折れたブレードを放り捨て、次は背中に手を伸ばして、リボンの様なものを取り出す。

 ゆらゆらとした動きに合わせて、様々な色に変化するリボン。

 鎌首をもたげてから、瑠璃の方にその端が向かったが、今度は二枚の円盤が、リボンを挟みながら先端から根元へと滑る様に表面を撫でながら移動し……そしてリボンもほつれながら短くなっていく。


「うーん……私の持ってる武器じゃ勝てないよ。

 すごいの隠し持ってたんだね」


 すっかり短くなったリボンを指で弄びながら、モモは唇を尖らせて、拗ねてみせる。


 上空では、チカチカと光がぶつかり、爆破が起き、鋭い風を切る音が響く。

 蒼介の髪を爆風が少し遅れてなぶる。


「この円盤、ルカちゃんも自分で使えば良いのにね。

 そうすればクウロになんか絶対負けないのに。

 今のままじゃお兄ちゃんの勝ちだよ」


 きっと、その代わり蒼介と瑠璃はモモにやられてしまうのだろう。

 

「……なあ、モモ」


 蒼介の方もモモを倒す術はない。

 もとより女子に暴力を振るう男じゃない。


「なあに?」


 ほつれた部分からリボンを毟りながら、モモが興味無さそうに聞き返す。


「俺らと地球で暮らさないか?」


「……うん?なんで?」


 モモがキョトンと蒼介をまんまるの瞳で見返す。


「お前が楽しい奴だからだよ。

 でも、クウロは願い下げだな。あいつは……つまらない奴だ。

 お前、これからもあんなつまらない奴の言うこと聞いて暮らすのか?

 母星はそんなに楽しいところなのか?」


 モモは青空を見上げた。


 雲一つない青空。


 目を細めて見つめるその先に、彼女の母星があるのだろうか?

 見えるわけでは無いだろうが、モモはどこか懐かしそうな顔をする。


「ちょっとねー……私たちの星も色々あってね。

 本当に色々。ルカちゃんの両親がこんな辺鄙なところ時間かけて来ちゃったせいで、その隙に色々……私の両親含めて色々やっちゃっててね。

 私の両親は死んだけど、その後をクウロがうまく受け継いで何とか……しようとしてる所なんだ。

 ルカちゃんはやっぱり、立場ある家の立場ある人だから、戻ってきてくれると、多分色々収まる。

 お父さんとお母さんが生きてた時は少しは楽しいところだったけど、でも今はどうかな……」


 モモは穏やかな表情だが、何となくその瞳が悲しげに見えるのはきっと気のせいでは無い。


「ルカは母星で幸せになれるのか?」


 数秒の沈黙の後……

 モモはフフンと鼻で笑った。


「私のお兄ちゃん、女の子を幸せに出来るような男じゃないよね!」


 モモの姿が少し縮む。

 大きな瞳がより大きく輝きを増す。


「お兄ちゃんに、振られたんだから諦めろって言ってくるね!」


 モモが戦闘に加わり、

 決着がつくまでそう時間は掛からなかった。

 

 


 


 


 


 


 

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