第37話 女達の争い
その後も瑠璃は勉強会に参加し続けた。
雪人がいれば、少しは由香里を宥めてくれたりしたが、塾でいない日なんかは、モモがわざと火に油を注ぐ様なことを言ったりして、ひたすら険悪な状況になった。
瑠璃はわざと昔の話をよくした。
由香里が分からない過去の話をだ。
「蒼ちゃん蒼ちゃん、鈴木先生本当に面白かったよね。
覚えてる?ポケットにコッソリお菓子持ってきた子がいた時に……」
その話の間、由香里はシャープペンシルをコツコツ苛立たしげにテーブルに当てて鳴らしながら、参考書を凝視する。
対抗する様に由香里は学校での話をし始める。
もちろん、違う高校に通う瑠璃には何の話かさっぱりだ。
「ほら、クラスの高橋君って実は隣のクラスの吉田さんと……」
瑠璃は露骨に不機嫌そうに振る舞い、意味もなくキッチンとリビングをいつもの優雅さがどこかへ行った様に足音を立てて行き来する。
蒼介は疲弊していた。
ハーレムってもっと夢と希望に満ちたもんじゃ無かったのかよ……。
元凶ともいえるモモは漫画を読んでいる。
この恐ろしい現状に満足した様に、時折、蒼介を見てニヤリと笑う。
クソ!女性不信になりそうだ。
蒼介は目立たない様に大人しく勉強してるしか無い。
分からないところを偶にルカに訊く。
倉本先生は離れたところでため息を吐いている。この混沌とした状況の責任者として心労が絶えないのだろう。
メガネを外して、目元を揉んでいるのを盗み見ると、確かに誰かが噂していた通り美人だった。
ただし、薄幸そうな感じだ。
蒼介は心の中で倉本先生に同情した。
そして、意気揚々と由香里が学校での事を話題に出した時、
瑠璃がついにキレた。
「私もおんなじ学校行く!モモちゃん!良いでしょ!私も蒼ちゃんとおんなじクラスになる!」
「え……?」
倉本先生が絶望的な顔をした。
そしてモモは、
ニヤリと口角を上げて、目を三日月型にして笑みを作ると、
「良いね!楽しそう!そうした方が良いよ!ね、倉本先生!」
倉本先生は暫くフリーズしたが、何とか返答した。
「……じょ、上司と相談しないといけない。
……今日はお前ら全員帰れ」
幽鬼のように表情を無くした倉本先生に追い出された。
「蒼介!あたし送っていってよ!」
「蒼ちゃん!私と一緒に帰ってくれるよね?」
蒼介も精神に限界を迎えた。
「う……うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
絶叫しながらひたすら走った。
バス停には行かない。
あの二人が来るだろうから。
走って、走って、走って……。
マラソン大会よりも懸命に走って、汗だくになって、自宅に着いた時、玄関で靴を脱ぐ気力が戻るまで、ひたすら座り込んだ。
そして、次の日なんとガチで瑠璃が転校してきた。
倉本先生の仕事の早さが恨めしかった。