第35話 同じ顔の再会
そして勉強会へは、蒼介とルカとモモは倉本先生に送ってもらう。
モモは何故か助手席が好きらしく、蒼介を押し除けて乗り込んだ。
雪人と由香里は後からバスで来るだろう。
雪人は由香里に振られたばかりらしいのに、気まずい蒼介に気を使ったのか、果敢に由香里に話しかけてくれている。
あるいは、一度振られた程度で諦めたりしない男なのか……。
車の中で、ようやく倉本先生に瑠璃について話を聞ける。
瑠璃と倉本先生が今日直に会うのなら、瑠璃について隠しておくことももう無いだろう。
赤信号で車が止まったタイミングで切り出す。
「先生、どうして天野瑠璃のこと俺に隠してたんですか?
俺は瑠璃は、あの日に死んだんだって思い込んでました」
倉本先生は前を見たまま振り向かない。
ミラーに映る顔も、眼鏡の奥の落ち着いた瞳も変化はない。
「お前に何の情報を開示するかは、私程度の立場の者には決定する権限が無い」
淡々とした声で、事実のみを答えた様だ。
おそらく、この人を責めても意味はないのだろうな。
何だかって名前の室長とか、もっと偉い人が命令していて、それに従っているだけなのだろう。
「それに……天野瑠璃にお前がそこまで思い入れがあるとは知らなかったからな。
おそらく……私の上席も」
瑠璃は瑠璃で特別な立場で何年も大変だったろうな。
これまで自由でいられた蒼介よりも……もしかするともっと、ずっと。
「私は……私たちは、百々瀬たちが何を考えているのか知りたい。
何故、青木と天野瑠璃を引き合わせた?
答えてくれると助かる」
窓を全開にして、風を楽しんでいたモモが、名前を呼ばれてキョトンとする。
「だって、ルカちゃんが蒼介の事ばっかり言うこと聞くんだもん。
それじゃ私たちが困るもん。
そろそろルルハルカルに戻って貰わないと。
同郷の私たちのことも、もっと考えて欲しいなーって」
「青木、天野瑠璃との交際については、少し慎重になって欲しい」
倉本先生の声の響きに、珍しく懇願が込められていた。
「……なのに、何で今日会わせてくれるんですか?」
視界の端でルカを捉えながら蒼介は訊く。
ルカは窓の外を見ていて、表情はわからない。
ルカはどう思っているだろう?
蒼介と瑠璃が仲良く話していたら、宇宙人も嫉妬したりするのだろうか?
半分だけ開けた窓から風が入り、銀色の長い髪を蒼介の目の前に広げる。
七色の光の粒を弾く流星の様な髪。
花の様な甘い優しい香りが鼻腔をくすぐる。
倉本先生は言い淀んだ。
もしかしたら……倉本先生は思ったよりも冷静で冷徹な人では無いのかもしれない、と思った。
仕事のためにそう振る舞っているだけなのかも知れないと。
口を少し開け、モモをチラリと見てから、再び前を見つめて答えた。
「百々瀬たちのやる事にも、私たちは逆らうのは難しいからな」
モモ達が脅した、と言うことか。
いや、脅すまで行かなくとも隔絶した技術力や戦闘力を考えると、可能な限り希望を通さざるを得ないのだ。
車が到着する。
それを出迎えるのは、黒髪の美少女。
蒼介がかつて好きだった少女。
ルカそっくりな綺麗な顔で、嬉しそうに笑いながら、お淑やかさと子供っぽさを絶妙に合わせた動作で手を振り蒼介を出迎える。
透明な声が隣からポツリと聞こえた。
「良かった。生きてて……治療上手くいって」
ルカは自分そっくりな顔を、僅かに目を細めて見つめていた。