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第3話 依頼

「あ、そうだ、僕の方も名刺渡しときますね」


 意味不明なあれこれに固まる蒼介に、営業スマイルがどこか胡散臭い若い方の男が、ササっと名刺を一枚くれた。


 ――防衛省 主任 椎木篤志


 先程の何ちゃら室長よりもなおシンプル極まりないものだった。

 一応電話番号はのってる。


「なんか……えーっと、そちらの後藤さんの部下とかじゃ無いんですか?」


「あはは、それ良いでしょう?

 一、二年おきに部署の名前が変わるもんだから、その度に名刺作り直すのめんどくさくなっちゃって。

 今年の四月の年度が変わった時にも、また名前変わったから、良い加減作り直すの面倒だし部署名はわざと書かないようにしたんです。

 それなら、僕が出世するか、クビになるかしなければ毎年使えるでしょ?

 僕も、異星人類対応特別室の人間ですよ。

 ついでに、こちらにいらっしゃる君の担任の先生は、僕の上司です。

 ね、係長?」


 倉本先生に話を振る。


「そういう訳なんだ。私は名刺は必要ないだろうから渡さない。

 今後は私が連絡役になる。あと、星名の生活面の世話役も私が今後はやることになった。

 それについては後ほど」


 倉本先生は一方的に話してから、また無言になる。言いたいことは言い切ったら、こちらの反応は求めないようだ。


「あの、それよりも、いや、先生が防衛省の人とかも凄く驚いたんですけど、星名…さんが、その、宇宙人とかなんとか?

 えっと……俺が昔見た宇宙人と関係があるって事ですか?」


 隣に行儀よく座っているのが宇宙人と言われても信じられない。

 綺麗な銀髪や瞳は見慣れないが、外国の血筋ならあり得るのかなとも思うし……

 でも、死んだ瑠璃とそっくりな顔立ちを見ると、やはり普通じゃ無いとも思う。


「星名、説明できるか?」


 倉本先生が少しだけ口調を柔らかくして、ルカに発言を促す。


 ルカはコクリと頷いて、蒼介の方をまた大きな瞳で見ながら口を開く。


「あなたは私が連絡船の近くで倒れていたら運んでくれた。

 あなたは怪我をして死にそうな私を餌のそばに置いた。

 私は餌を食べて怪我を治した。怪我を治さなかった場合は私は死んでいた。

 私は餌の人間の情報を得た。

 私たちは食べた餌の姿になれる。高度な存在なら、なる。

 あなたは私に餌を与えた。私はあなたと婚姻する。婚姻する決まりだから。

 これからよろしくね」

 

 ルカはどこか拙い口調で無表情にだが、熱心に語った。

 しかし、その内容は蒼介には受け入れられるようなものでは無かった。


「お前……お前、餌って……お前!!

 瑠璃を、餌呼ばわりしたのか!?お前が食べたのか!瑠璃を!!

 お前が殺したんだな!!」


 蒼介は激昂し立ち上がる。

 そんな蒼介を小首を傾げてルカは見上げる。


「青木君、落ち着きなさい。

 言っただろう?君に拒否権は無いのだと。

 彼女は宇宙の、ある団体の地球に対する代表者なんだ。

 餌……と言うのは確かに非常に受け入れ難い言葉だが、そもそも彼女は地球の倫理観をまだ学びきれていない。

 それにまだ日本語も上手じゃ無いんだ。

 君のクラスメイトの女の子を食べたことは私たちも知っている。

 しかし、緊急的な措置だったんだ。

 彼女の乗ってきた連絡船に問題が生じて、小学校に落ちた時、彼女以外の乗組員は怪我と出血で死んでいる。

 彼女は君のクラスメイトを捕食する事でなんとか生き延びたんだ。

 死んだ乗組員には、彼女の両親も含まれていたらしい。

 本来の代表者は彼女の母親だったそうだ。

 彼女達は、我々人類を救いに来たんだ。

 そして、君が彼女をクラスメイトの死体のそばに置いた時の行動が、彼女の星の文化圏では求婚を意味する行為だったそうなんだ。

 我々人類は彼女の力を必要としている。

 彼女と結婚しろと私からは命令はしないが、彼女が納得できる形で、君たちで話し合いをして欲しい。

 だが、その前に、異なる星で生まれて、考え方も違うんだ。

 君が婚姻を断るにしても、お互いにもっと理解し合ってもらった上でというのが望ましい」


 蒼介は椅子に座り直す。

 宇宙人の気持ちはわからないが、両親が死んだのなら、やはり悲しみくらいは感じるだろう。

 というか、しれっと話のスケールがどデカい感じのワードが幾つも出てきたので、色々自分の気持ちを一旦置いといて、情報を追加で聞く必要があるので、落ち着かざるを得ない。


「あの、なんか、人類を救うとか……?聞こえたような気がしたんですけど」


 恐る恐ると言った風に蒼介は後藤室長さんに聞き返す。


「彼女達は、他の異星人達が遊び半分に地球に来て、地球人類を危機に陥れる活動を計画しているのを知って、事前に地球人類に知らせようとしてくれていたのだが、

 相手側の妨害にあって機器が破損し、墜落してしまったらしい。

 彼女達は……我々の認識に一番近いので言うと……環境保護団体か動物愛護団体のようなものらしい。

 それで、人類と地球環境を守るために来てくれているんだな。

 それで敵側と言うのは……どうも地球人類を捕まえてペットとして売り払ったりする密猟者や、敵側が住みやすい星作りの為に環境整備をしようとする……

 悪徳不動産屋みたいな連中らしいな。

 覚えているかな?3年くらい前にアメリカのアラバマ州で巨大な地割れで4桁の死者が出たのを。

 その後も、危険なガスが発生しているとされて、住民達は自宅には今も帰れていないが、

 実際には、その悪徳不動産屋がばら撒いた細菌兵器の汚染の除去が未だに終わっていないからなんだ。

 アメリカ軍も出動する事態になったが、その悪徳不動産屋を撃退したのは、ここにいる星名さんなんだ。

 彼女がいなかったら、とっくに地球の大半は我々地球人類の住めない土地になっていたよ。

 ……文明力が違いすぎる。

 我々は月にさえ何十年も行けていないのに、彼らは自由に星々を移動している」


 どこか悔しげに後藤は言った。


 巨大地割れのニュースは覚えている。

 今でも本当は地割れなんか起きてないとか、危険なガスなんて出てないんじゃないかとか、政府の陰謀だとか、インターネットでよく騒がれている、定番の陰謀論のネタだ。

 陰謀論では、アメリカ政府が危険な実験を隠しているみたいな話だったが、まさか宇宙人同士の戦いが繰り広げられていたなんて……


「えっと、それで何で、この宇宙人は俺たちのクラスに?」


 自分関連じゃ無いことを無駄と知りつつ祈る。


「……言ったとおり、君が彼女の命を救った事で、  

 彼女の星の決まりで、君と彼女は結婚することになったそうだ。

 ……君は彼女を救った事で、意図せず人類を救っている。

 だから我々も君に無理強いはしたく無い。

 かと言って、人類の大恩人の彼女の意向も無視できない。

 そこで、君のそばで地球人類の価値観を彼女に学んでもらった上で、君の意向を彼女に理解いただこうと考えたんだ。

 今、このタイミングになったのは、彼女が彼女の文化圏での婚姻可能年齢に達したので、君との再会を強く望んだからなんだ。

 しかし、彼女には、婚姻は地球の文化をよく知ってからが望ましい旨伝えて了承されている。

 ……君には、彼女の良き友人として地球の文化を教えて欲しい」


 後藤室長が深々と蒼介に頭を下げた。

 拒否権は無いものの、一応無理矢理結婚という運びは避けられるように尽力してくれたようだ。


 椎木も上司に倣ってか頭を下げる。


「私からも星名さんのことお願いします。地球を狙う悪徳業者はまだ地球のこと諦めてないっぽいんです。

 星名さんが地球を嫌わないように協力してください」


 倉本先生は頭は下げなかったが、同じく頼んでくる。


「青木、何はともあれクラスメイトで、隣の席になったんだ。

 恣意的なものだったが、仲良くしてやって欲しい。話してみればわかる。そんなに悪いやつじゃ無いんだ」


 三人の大人に頼まれて断れるほどの度胸は、蒼介には無かった。


「まあ、クラスメイトとしてなら……」


 蒼介は後に、もっと色々突っ込んで話を聞いてから判断すべきだったと後悔することになる。


 大人達は、倉本先生も含めて大変満足そうな笑みを浮かべていた。

 


 

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