表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/41

第28話 雪人と由香里

 由香里はその日はそのまま戻って来なかった。

 雪人も。


 流石に佐々木達は虐めは止めるだろうが、それでもしばらくは心配なので、蒼介はルカの近くに居ることにした。


 体育の時間、由香里が居ないのもあってか、ルカがペアになる人がいなくてポツンと突っ立っているのに気がついた。

 体育の先生がルカに近づき何かを言っていたが、話が通じにくいのに諦めたのか、立ち去ってしまった。


 体育は男女で分かれているので、こう言う時は何もできなくて歯痒い。

 モモはと言うと、持ち前のグイグイ行く性格で、大人しめの女子を捕まえていた。

 ルカを助けてやれよ。と思ったが、そもそもルカとモモって一応友人同士で良いんだよな?


「…………っいってえ!」


 ボンヤリ女子の方ばっかり見ていたせいで横から飛んできたボールが側頭部に直撃した。


「大丈夫かー?」


 体育教師がのんびり確認にくる。


「すんません。大丈夫っす」


 そんな大した威力じゃなくて良かった。


「ボーッと女子の方ばっかり見てるからだよ!むっつりめ!」


 クラスのお調子者に茶化された。


「うるせー!健全な男子なんだから仕方ないだろ!」


 蒼介も調子を合わせる。


「ほら、お前ら女子ばっかり気にしてたら内申点下げるぞ!集中しろ!」


 体育教師も大らかに笑いながら言ってくれたので、蒼介も肩をすくめる。


 と、ルカがこちらを見ているのに気がついた。

 唇が動く。

 ――大丈夫?


 手を振って、口を動かして答える。


 ――大丈夫。


 ルカが遠目にも少し微笑んだのがわかった。

 両手をブンブン振って蒼介に応える。


「青木の嫁が応援してくれてるぞ!頑張れよ!」


「嫁じゃねぇから!」

 

 そう言いつつ、ルカの顔をもう一度だけ見る。

 もういつもの無表情に戻っていた。

 ……もっと笑えば良いのに。


 その後は女子の方は見なかったが、集中はやはり出来なかったからか、そんなに活躍はできなかった。

 体育会系でも無いし、部活もしてる訳じゃないから仕方なし。


 雪人に携帯からメッセージを送って安否確認する。大丈夫だろうか。

 由香里は……本当に俺のこと好きだったりなんて事は……。

 もしそうなら、俺はどうする?

 由香里のことを考えていたのに、何故かルカの姿が思い浮かんだ。

 いつもの瑠璃の顔ではなく、保健室で見た本当の姿。

 今日見た笑顔もまあ、他の男子が話題に出す程度には可愛くはあったけど、本来の姿でも地球人みたく笑う事はあるんだろうか。


 その後の授業中も蒼介はボンヤリとルカの事を考えたり、由香里のことを考えたり、またルカの事を考えたりしながら過ごした。


 そして、放課後。


 いつの間にか雪人からメッセージが入っていた。


 ――ちょっと対面で一対一で話したい事があるから、放課後時間くれないか?


 昼過ぎには連絡きてたのか……。気付かず悪いことしたな。早速返信する。


 ――返事遅くなって悪かった。今気づいた。どこいる?


 駅前の喫茶店を指定された。奢ってくれるらしい。

 …………飲み物以外も頼むのは流石にズウズウしいかな。


 蒼介はルカとモモに断りを入れて、勉強会は遅れていくと言っておいた。

 頼りになる雪人と、面倒見の良い由香里がいないなら、どうせ二人とも漫画をそれぞれ読むだけで、勉強なんて一問も見ることすらしないだろうな……。


 最近はモモも勉強が少しずつわかる様になって来ている。

 ルカも、複数人と交流する様になってか、気持ち前よりも話がしやすくなった様な気がする様なしない様な?と言った風に、宇宙人も成長する事がわかって来た。

 この事をレポートに纏めたらノーベル賞狙えたりしないかな。

 宇宙人の成長について……ノーベル何賞だ?


 喫茶店と言うから、てっきり我が街に3軒あるスターボトルコーヒーかと思ったら、指定されたのは別の店だった。

 チェーン店ではあるが、もう少し座席に余裕がある店だ。


 雪人はすでに来ていた。一番隅っこのテーブルを確保していた。

 ブレンドのコーヒーをブラックで飲んでいる。……大人だな。

 食べかけのサンドイッチもあった。なかなか美味そうだ。


「ああ、来たんだ。ほら、奢るからなんか頼めよ。

 パンケーキが人気らしいぞ」


「おお!食い物も良いのか!サンクスサンクス!

 じゃあ、このクリームが乗ってるやつ頼もうかな」


 そして、注文が来て、パンケーキを半分ほど食べるまでは、いつも通りのどうでも良い雑談しかしなかった。


 そして、会話がふと途切れたタイミングで、雪人の表情が少し真面目になった。

 なので、蒼介も少しだけ居住まいを正した。


「蒼介は誰が好きなんだ?」


 蒼介は固まる。

 由香里の話が出ると思った。

 なのに蒼介の話?


「え、いや、何の話?」


 だから聞き返した。

 しかし、雪人の顔は真面目だった。


「蒼介、お前は藤野の気持ちを……いや、それは僕から言う事じゃ無いよな。

 星名さんの事が好きなのか?」


 蒼介は口を開いて、何を言うべきかわからず口を閉じる。

 ルカの事は。

 友達で……


 ルカの事を思い浮かべると、最近は保健室で見た姿を思い出す。本当の姿。美しい生き物。人外の、しかし人によく似た存在。……柔らかい唇。


「………………」


 でも、あいつは地球人じゃなくて、それに瑠璃の事を……。

 俺は瑠璃の事が好きで忘れられないんだ。

 忘れられないはずなのに……その姿を思い出そうとしても、その髪の毛は銀髪で目の色も……。


 俺はこんなに薄情な奴だったのか?


 瑠璃とは子供の頃ずっといつも一緒にいたんだ。なのに……なんで?


 俯く蒼介に雪人が穏やかな声をかける。


「僕は……藤野の事が好きなんだ」


「……え?」


 蒼介は顔を上げる。

 雪人は何でもないことの様に言葉を続けた。


「告白するつもり。応援してくれるよな?」


「あ、ああ。応援する」


 雪人は微笑みを浮かべた。


「ほら、さっさと食えよ。飲み物、お代わりいるか?」


「いや、うん。いらない。食うよ」


 ――そっか、雪人は由香里のこと……。


 パンケーキを食べながら、また雪人は雑談を始める。

 それに半分無意識に相槌を打ちながら、考えていた。

 俺は瑠璃を食べた……殺したルカのことを許せるのか?

 

 

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ