第25話 不穏な雰囲気
教室に入ると、ルカとモモがちゃんと学校に来ていてホッとする。
「……おはよう」
ルカにとも、モモにとも取れる感じに声をかける。二人が同時に蒼介の方を見る。
モモがいつも通りのにこやかさで挨拶を返す。
「おはよー!眠そうな顔だね!夜更かしして何してたの?」
「あー漫画の続き読んでたよ。なんか……まあ、続き気になってさ」
本当は眠れないから時間を潰すために読んでいたのだが、そこら辺は説明する必要は無いだろう。
「……星名も眠そうな顔だな」
そんなことは無いが、ルカの反応を見たいので話しかける。
不自然な態度にならない様に留意する。
保健室でのこととか、どこかの空での戦闘と負傷とか……。
見たところ怪我は無いように見えるが、服の下とかに実は……なんて事あるのか?
「私は特に眠く無い」
まあ、いつも通りだな。
ホッとしたような、拍子抜けしたような……。
そのまま何事もなく表面上は平穏な日々が戻ってきた……事もなかった。
ルカがキスしようとしてくる。
隙あらば顔を近づけてくるし、細腕なのに何気に力が強い。
「ぐ……ぐぐぐ……やめ……ろ」
校舎の陰になる人通りの少ない場所。
掃除当番でゴミを捨てに来たら尾行されていた模様。
頬を両手で押さえつけられて、逃げる事も叶わず無理やり顔を近づけさせられている。
目を瞑った涼やかな整ったキス顔は綺麗で見惚れそうだが、蒼介は必死に顔を無理やり逸らして唇を死守する。
頬に柔らかい感触。
「……避けないで」
「無理やりはやめろ!そう言うの嫌われるんだぞ!」
ハアハアと息を整えながら蒼介は抗議する。
言っておくが興奮して息が上がってるわけでは無い。謎の筋トレを強いられて首の筋がおかしくなりそうだ。
「……私のこと嫌いになった?」
キラキラの瞳でまっすぐ見つめられる。
強制的に罪悪感を抱かせる、無表情なのに幼なげな純粋な眼差し。
「いや、その嫌っているわけじゃ無いけど……そう言うのは付き合ってる人どうしでやることで……」
「私と蒼介は付き合っている」
「いや、付き合ってないだろ」
ルカが蒼介の言葉にハッとした表情をする。
「!!……蒼介私に告白して!」
多分漫画で学んだんだろうな……。告白すると付き合えるみたいな。
「しないから」
「どうして?」
「俺とお前はそう言う関係じゃ無いだろ?」
ルカが考え込むような顔をする。
「じゃあ……そう言う関係になる」
くそ!話が通じない!
「……まずはお友達からってどうだ?」
面倒くさくなってきて妥協案を出した。
「私は蒼介とお友達になる」
……良かった。妥協案は受け入れられた。
「俺は教室戻るから」
「私も教室戻る」
テケテケ付いてくる。
「…………………………後ろ着いてくるんじゃ無くて、横に並んで歩けば良いんじゃないか?」
迷ったが、友達どうしならそうすべきだろう。
ルカが隣に並んで歩く。ひんやりとした感触が左手に……
「いや、手は繋ぐなよ。単なる友達で手は繋がないから!」
「……まだ早いってこと?」
「いや、ん?早いとか遅いとかじゃ無く……」
教室に戻ると倉本先生がいた。
ルカを待っていたようだ。
「星名、少し話があるから来なさい」
ルカの姿が見え無くなった途端、教室の後ろの方で三人でコソコソ話していた女子達が蒼介の元にやって来た。
普段はあまり話さない三人だ。佐々木さんと、木崎さんと……佐藤さんだったかな?
「ねえねえ青木君!さっき星名さんと二人っきりでなんかしてたよね?何してたの?」
「隣の席だからって仲良すぎない?と言うか、百々瀬さんとも仲良いよね!どっち狙い?」
「ユカリンとは中学から仲良いんでしょ?付き合わないの?ユカリンのことどう思ってるの?もしかして三股?」
女三人で姦しい。
「全員普通に友達だよ」
蒼介はこの状況をどうすれば良いのか分からないが、それなりにやり過ごすしかない。
「えー?でもユカリン絶対青木君のこと好きじゃん。知らないふりするの酷くない?」
「……そんな事ないよ」
……そうなのかな?
それなら少し嬉しい気もする。でも、由香里とは友達でいたいし……。
いやいや、それは無い無い。
「有名だよねー。ユカリン可愛いのにカレシ作らないのは青木君の事好きだからって」
「……それ星名さんとか知らないのかな?」
「普通気がつくよね……」
話がなんと無く不穏な方向に行っている気がした。
「あ、俺ちょっと忙しいからもう行くわ」
びびってその雰囲気をそのままに、その場を逃げ出したのを蒼介はすぐに後悔する事になった。