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第24話 モモと美空

「お兄ちゃん!おかえ……え!誰それ!可愛い!……で、さっきの男の人は?」


「あら、女の子連れてくるなんて珍しい」


 美空が目をまんまるくして、モモを見て驚いている。母親はモモの髪と瞳の色を見て何か察するところがあったのか、どことなくヨソヨソしい対外的な対応だ。


「さっきのは帰った。で、コイツはさっきの奴の妹。頬を……ぶつけたらしいから冷やした方が良いだろ?

 ……ほら、あがれよ」


「おっ邪魔しまーす!」


 モモは頬を隠すように片手で覆いながらも、素直に家に上がる。


 ビニール袋に氷を入れてタオルで巻いて差し出す。


「ほら、冷やせよ」


「痛そう……大丈夫ですか?」


 美空は眉を下げてモモの頬を見つめる。

 母親はお茶を出した後は台所で片付けをしている。何となくこちらの様子を伺っている雰囲気がある。


「へーきへーき。怪我には慣れてるもん。私は百々瀬モモ。あなたは?」


「あたしは美空です。よろしくお願いします」


 美空はニコッと持ち前の人付き合いの良さを全面に出してモモに絡んでいく。


「え!モモちゃんも『君は子猫』好きなの!?」


「全巻一気に読んだよ!」


「え、じゃあ同じ作者の『スイートスイーツロマンス』はもう読んだ?」


「まだ!気になってるけど、買うのは巻数多いから迷ってて」


「待って、あたし持ってるから!あたしの部屋来て!貸してあげるよ!」


 漫画の話で大いに盛り上がっている。もう蒼介そっちのけなので、蒼介は『君は子猫』の続きを読んでる。


「……美空、その人は蒼介のお客様でしょ」


 母親が止めに入った。

 宇宙人と娘を自分の目の届かないところで二人きりにしたく無いのだろう。


「あー……百々瀬は大丈夫だよ」


 蒼介がそう言ったので、二人は意気揚々と階段を上っていった。


 母親はそれでも心配そうに階段の方を見ている。


「危険な奴なら連れてこないから」


 と言うのは嘘になるかもしれない。

 モモは初めて会った時に蒼介を普通に殺そうとしてきたし、そな体には地球の技術力を超える兵器が収納されている。

 でも、大丈夫と言った言葉に嘘はないと思う。


 しばらくして二人で戻ってきた。

 モモは紙袋を下げている。


「私そろそろ帰るね。美空ちゃんもまた会おうね!」


「連絡先交換しちゃった」


 美空は嬉しそうだ。


「送ってくよ」


 兵器持ち宇宙人が夜道で危険にさらされることは無いだろうが、妹の手前、男前な兄を演じる。


 二人でしばらく夜道を歩くと、モモが口を開いた。


「漫画貸してもらっちゃった。

 でも、これ作者さん休載してるみたいね。

 まだ読みはじめだけど絶対気になるね」


「地球人滅びたら読めないぞ」


 そんな事で説得できるとは思えないが、思ったことを伝える。

 地球人として無力な蒼介に出来ることは、ただ会話することだけだ。

 

「作者さんは助けてあげようかな」


 モモの口調はおどけている。本気では無い。何もかも。


「その作品だけじゃなく面白い漫画も、小説なんかもたくさんあるぞ。

 読み終えるには何年も何十年も掛かるくらい。

 それに、来年、再来年、そのまた未来から連載始まるスッゲェ楽しい漫画だってきっとある。

 それを読む未来を潰すのか?」


「えー……そんなこと言われると、ちょっと迷うけど……。

 でも、私はお兄ちゃんには逆らえないから。

 ……ごめんね」


 いつの間にか元いた公園まで来ていた。


 モモの背中からウィングが広がる。


「じゃあね。蒼介は良いお兄ちゃんしてるみたいね。美空ちゃんによろしくね。

 これ、読み終わったらちゃんと返すから」


「ああ、伝えとく。多分他にもオススメ漫画今後も貸してくると思うぞ。アイツ少女漫画蒐集家みたいなもんだし」


 蒼介の美空に対する評価を聞いて、モモはふふっと笑った。


「確かに棚が壁一面にあって驚いちゃった。床抜けないか心配になっちゃうね。

 また明日ね……今日はありがとう。握手して」


「何の握手だよ」


「お礼の握手」


 モモはニッコリ笑って答えた。

 頬の跡は暗いせいもあるかも知れないが、そんなに目立たないようで良かった。


 モモと握手を交わす。

 モモの手はひんやりとしていた。

 

「……気をつけて帰れよ」


「うん!」

 

 ウィングに七色の光が灯る。

 光が夜空に一直線に伸びて見えなくなった。

 ……アイツも何考えてなさそうに見えて、大変な立場なのかも知れないな。

 母星から離れて暮らしてるんだ。苦労はあるだろう。モモにも……そしてルカにだって……。

 

 ……ルカの怪我は大丈夫だろうか。

 明日、学校で会えるだろうか。


 その晩はなかなか寝付けなかった。

 

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