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第21話 影響

「見て。蒼介とこれする」


 次の時間は体育だ。

 普通に体育館で男女に分かれてそれぞれ球技をする予定なのだが、何故か保健体育の教科書を取り出したルカがページを開いて見せて来た。


「ちょっ……おいバカやめろ!」


 よりにもよって生殖だの刺激強めの内容のところを見せて来やがった。

 真面目な授業でも何と無く気まずいような、何人かの男子生徒が顔を見合わせてニヨニヨ笑みを浮かべ合うあたりのところだ。

 他のクラスメイトはルカの奇行を蒼介が止めるのに慣れて来て気に留めていないようなのが不幸中の幸いだ。


「これで……赤ちゃ……」


「良いから!今日は保健じゃ無くて普通に運動する日だよ!ほら、さっさと移動しろ!」


 そう言う知識は常識を学んでから誰かにしっかり教えてもらって欲しい。

 慎み深くあれ!


 体育館で男子の方はバレーボールが行われた。

 女子はバスケっぽい。

 バレー部の奴らがスパイクを叩きつけてくるので、蒼介は対応できずに棒立ちだ。

 もう少し素人にも優しくなって欲しい。

 玄人どもがハイタッチで勝利を喜び合うのを蒼介はウジウジと眺めるしかない。

 

 それでも、一応の真面目さを見せてボールに一回でも触っておくべきだろうと頑張ったのが間違いだった。


「いってぇ!」


 声が体育館に響いて注目を集めてしまった。

 女子の方も蒼介の方を見ている。


「どうした?」


 体育教師に指を見せる。


「突き指か……保健室に行っとけ」


「はい……」


 だからバレーボールって苦手なんだよな……。保健室に向かう蒼介の後ろから、パタパタと言う足音が聞こえて振り向くと、何故かルカがいた。


 髪をポニーテールにしているが、表情が無なので活発には見えない。


「お前も怪我したのか?」


「私は怪我をしていない」


 仕方がないので蒼介はルカと並んで歩く。


「痛い?」


「心配してくれているのか?」


「その通り」


「平気だから戻れよ」


「戻らない」


 常識は無いが、要求や意思表示がハッキリしているルカとの会話に最近は慣れつつある。

 そして、言って聞かせることの難しさも理解しつつあるので、仕方なく保健室まで連れて歩く。


「こんちはー……怪我しましたー。えーと、いませんか?」


「この部屋には私と蒼介しかいない」


 パーテーションやベッド周りのカーテンに隠れている可能性を考えての声掛けだったが、スゴイ技術力宇宙人が居ないと言うなら居ないのだろう。


「困ったな。まあ、のんびり休むか」


「応急処置わかる」


 適当に丸椅子に勝手に座って休む蒼介を尻目に、ルカが勝手にあちこちの引き出しを開ける。


「おい!勝手に開けて良いのかよ!?せめて引き出しは開けたら閉めろ!」



 ボールに氷水を作ってくれた。包帯も手にしている。


 蒼介の言うことを聞いてちゃんと引き出しは閉めてくれたので、蒼介も指を冷やす。

 痛みはそこまでひどく無くなって来た。軽傷で良かった。


「痛い?」


 ルカがジーッと蒼介の負傷した指を見つめる。


「まあ多少は。でも大分良くなって来たよ…………ありがとう」


 面倒ばかりの宇宙人だが、礼を言うべきところでは言わないとな。

 自分が少しずつ宇宙人に絆されてきている自覚がある。

 性格が違うせいもあるのか、ルカを見て瑠璃を思い出すことも少なくなってきた。


 ルカの綺麗な顔を見ながら、蒼介は複雑な思いを自分のうちに留めおく。


 瑠璃を殺した相手にこんな風になれ合ってて良いのか?


 自問自答する。

 コイツらは卑怯だ。科学技術が優れているから地球人は言うことを聞くしか無いのに。

 例え蒼介がルカを許せなくても、表面上は許さないといけないのに。

 

 同じ顔のルカが隣にいる日々が、瑠璃との思い出を上書きしていく事に罪悪感がある。


 死にかけのルカを死にかけの瑠璃の近くに運んだのは、他の誰でも無い蒼介なのに。

 何もしなければ瑠璃はまだ生きていたかも知れないのに。

 

 瑠璃のこと、前よりも思い出しにくくなってきていないか?

 瑠璃のことは死んだその日の事ばかりを思い出してはいたものの、それでも大切な思い出はしっかり心の中にしまってあったはずなのに。


 「二人きりだね」


 ふと、ルカが蒼介の顔を見ながら口にした。


「何だそのセリフ」


「『君は子猫』で書いてあった」


 ……モモから無理やり借りてた漫画からの引用か。


「まあ、二人きりだな」


 ここの部屋に入った時に確認済みの情報である。


 「本当の私を君に見て欲しいの」


 口調がいつもと違うから、漫画の台詞をそのまま読み上げていることがわかる。


「怪我した姿なら小学生の頃見たけどな」


 蒼介も適当に答える。

 漫画のキャラクターの真似をするなんて子供っぽいなと思いながら。


 ルカが俯く。

 その姿が白く発光する。


「え、どうした!?」


 眩しさを覚えたが、光が少し収まると、そこには


 光り輝く体。

 殆ど人間と同じだが、いつもよりも背の低い少し小柄な体。

 顔立ちも変わっていた。

 いつものルカよりも少し子供っぽい、幼なげな外国の子供みたいな顔。

 地球人よりも顔の大きさに対して目が大きめだから、子どもっぽく見えるのかも知れない。

 白目の部分も少ないので、よく見ると違和感があるが、美しいビスクドールを見ているような感覚になる。


「これが私の姿。でも、人間に擬態してないと地球では生きられないから」


 いつもより舌っ足らずな声だった。

 声帯が違うからと言うのもあるのかも知れない。 

 大きな銀色の瞳が真っ直ぐに蒼介を見つめる。

 そこに縋るような、不安そうな光を見て、蒼介は動けない。

 

 ダボダボの服を着た幼なげな姿。

 迷子になった子供のような頼りなげな顔が近づいてくる。


 唇に小さく整った唇を押し当てられた。

 頭が真っ白になる。


「好きな人同士はコレするんでしょ?私のこと好きになった?」


 何てこった。蒼介にとってはファーストキスだったりする。

 瑠璃はたまにほっぺにして来ていたけど、唇は許して無かった。


 ルカの指が蒼介の唇をなぞる。


「……ここ柔らかいね。もう一回する」


「ちょい待ち、やめろ!」


「……やめない」


 もう一度キスされた。

 宇宙人の唇も柔らかいことはわかった。


『君は子猫』妹から借りてまた読んでみよう。過激な内容が無いかチェックしなくては。

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