第11話 ショッピング
「ねえ、あの子と付き合ってないよね!?」
トイレから帰って来るなり、由香里が顔を近づけて蒼介に囁き声で聞いてくる。
「あの子……って星名のことか?ナイナイ!つーか知り合ったばかりだから!」
「そうよね……でも、あの子蒼介のこと婚約者とか言ってるんだけど!」
「うへぇ!?」
変な声が出た。
変な事言いふらすのはやめて頂きたい……
「いや、日本に来たばかりで頼れるものが無いから、隣の席の俺を頼ってるきてるだけだよ。
婚約者とか言い出した理由は分からん」
由香里はしかし、眉を顰めて口を窄めて蒼介を不審のこもった眼差しでジトっと見つめてくる。
とうのルカは買い物を楽しむ子連れの家族を物珍しげに眺めている。
こちらの内緒話には興味がなさそうだ。
「でも、あの子って倉本先生の親族なんでしょ?
一緒に暮らしてるって噂聞いたんだけど」
倉本先生があえて流した噂だろうか?
一緒の車に乗ってるところを目撃されても良いように説明してるのかも知れない。
「先生も忙しい身だからな。ああ見えて心配性みたいなんだり気にかけてやってくれってさ。
だから、由香里も星名の事一緒に頼むよ。お前面倒見良いし、頼り甲斐あるもんな!」
ルカの面倒を見る人出を増やすため、ちょっと持ち上げておくと、蒼介の意図は理解しつつも、由香里は頼られて満更でも無い顔をする。
こいつチョロいぜ!
「ま、まあ、クラスメイトだし、困ってたら多少は助けたりもするかもね」
その言葉通り、由香里は別の店に寄った際も甲斐甲斐しくルカの世話を焼いてくれた。
蒼介は後ろでひたすら荷物だけ持っていたいが、たまに由香里が話しかけて来る。
「蒼介!こっちとこっち、どっちがどっちが良いと思う?」
「えー?どっちでも……」
「良いから!どっちかって言うと?」
「じゃあ……こっち?」
「うーん……やっぱりこっちかな……」
定番のやり取りだが、基本的に蒼介が選ばなかった方を購入するのは何かのお約束なのか?
そのお約束をジーッと大きな瞳で見ていたルカが、2着の服を手に持って蒼介に近づいてきた。
「どっち?」
「……こっちで」
「やっぱりこっち」
何かを誤学習したらしく、蒼介が選んだ方を元の場所に戻した。
いや、もう別に良いけど……
蒼介の両手に大量の紙袋が下がっている。
荷物持ちとして獅子奮迅の活躍をしていると、
――地下倉庫で火災が発生しました……
繰り返します……従業員の避難指示に従って……
モール内にアナウンスが響く。
「火災?やばいな。外出るか」
「蒼介、指示に従わないとだよ!……やっぱり外にみんなで出る流れみたいだね」
その時、無個性な電話のコール音が聞こえた。
「はい」
ルカが携帯電話に出た。そして直ぐに電話をしまう。
「どうした?」
「電話がきた」
「いや、それは分かってるから……」
「行って来るね。バイバイ」
ルカが走り出した。
「おい!待てよ!……悪い由香里、あいつ追いかける」
「ちょっと蒼介!?」
由香里を置いてルカを追いかけるが、速い速い。
なんとか見失わないようについて行くので精一杯だった。