第10話 トイレでの質疑応答
暫くは由香里の独壇場だった。
ルカは服屋に連れてこられても、ボンヤリしていた。
服屋くらいは認識出来るんだよな……?
「ねえ、これどう思う?」
由香里の問いに
「それはワンピースだと思う」
「そうじゃ無いでしょ!そんなことは分かってるの!」
ルカはトンチンカンな答えを言うが、由香里は持ち前の大雑把な性格で一方的にでも話を進めるので、以外とルカと相性が良いかもしれない。
「ほら、これ着てみて」
「はい」
「待ってよ!ここで脱がないで!ほら、あっちに試着室あるから!ここでこれに着替えて」
ルカは試着室に連れて行かれた。
「大丈夫?一人で着れる?」
「着れました」
由香里がカーテンの中をそっと覗いてから、開けた
「やっぱり似合うね。思った通り」
白いワンピースだ。
お嬢様然としているが、確かによく似合う。
制服以上に人間味が薄くなる。
「お金ある?」
「お金ある。カードある」
「クレカ持たせてもらってるの?お嬢様!?」
大丈夫だろうか?由香里がルカにあんまり興味を持ちすぎるのは良く無い気もする。
「まあ、何だって良いじゃん。……何ならその服くらい俺が買ってやるよ」
持ってるカードとやらがどんなもんだか分かったもんじゃ無いので、誤魔化すために自腹を切る所存。
もちろん後で倉本先生に手数料込みで請求する予定。
「え?星名さんの分だけ?なんで?……私には買ってくれたこと無いよね?」
「……まあ、お前にも買ってやるよ」
ルカの分は費用請求出来そうな気がするが、由香里の分は厳しい気がする……。
……あんまり高く無いよな?
手持ちで足りるか心配だったが、思ったよりはリーズナブルで助かった。
「ありがとね、蒼介」
由香里が笑顔で礼を言って来るが、何となく少し元気がいつもより足りて無い気がする。
疲れてるのかな?
「どっかで休憩するか?」
「ん、そうだね。その前に女子の作戦会議があるから、トイレ寄るね。はい、荷物持ってて」
「へいへい。荷物持ちの領分は忘れてません」
――――――――蒼介をベンチに待たせて、由香里はルカと共にトイレへ行く。
「私はトイレに行く必要は現在ありません」
日本語が下手くそなせいで、由香里はルカと会話してると機械と喋ってるような気分になる。
「良いから。私が行きたいのと……ちょっと聞きたいことがあるから」
ここの女子トイレは広くて、化粧を直すための専用のコーナーがある。
そちらは今の時間帯はあまり人が居ない……と言うより、使ってる人自体そんなに見かけないので、化粧直しのコーナーに行けば、他の人の邪魔にならずに、ルカと話ができる。
由香里はルカの腕を引っ張って、気になってることを質問する。
「星名さんは蒼介のこと、どう思ってるの?」
普段ならこんな質問絶対にできない。
こんなの……こんなの由香里が蒼介のことが好きだと告白しているようなものだ。
でも、ルカのある種人間離れした容姿と雰囲気、そして、察しが悪そうな様子が、由香里を少し大胆にしていた。
「………………背が高いと思う」
由香里はガクッとなった
「そうじゃなくて……」
「…………じゃあ、背が……低い?」
小首を傾げながら、辿々しく答える。
…………帰国子女って会うの初めてじゃ無いけど、こんな感じじゃ無いよ。
この子素で天然なのかな?
顔が可愛いから周りに天然でも許されて生きてきたタイプ?
由香里は別に英語の成績は悪い方では無いが、それで会話ができるかと言えば、かなり難があるので、ルカが日本語が苦手であっても、やはり日本語で頑張ってもらいたい。
「低くは無いでしょ!背はまあ、多少高い方で間違いないけど、言うほど高身長でも……そうじゃ無くって、その……好きなの?」
「好き……?何が?」
いちいち目的語をちゃんと入れないと通じないのか……。
「だから、蒼介のこと。あなた、蒼介のことが好きなの?」
「……!好き!」
通じたようだ。ルカもこちらの言いたいことがわかって嬉しいのか、灰色の目をキラキラさせて答えてきた。なにこれメチャクチャ可愛い……じゃなくて……。
「あなたは、蒼介と付き合ってるの?」
「……付き合う?何に?」
話が通じたのは一瞬で、気を抜いて少しでも分かりづらい言葉を使うともう話が通じないようだ。
「だーかーら!蒼介とあなたは恋人なの?違うの?」
「………………」
ルカは無言で固まった。
「えーっと、どうしたの?」
フリーズする瑠花に心配になって声を掛ける。
瑠ルカは少し目を伏せていたが、顔を上げ、まっすぐ由香里を見ると、断言する。
「恋人ではなく、婚約者!」
ルカは無表情なのにドヤ顔なのがわかるテクニカルな表情をした。
由香里はショックを受けつつ、信じきってはいないのが分かる不可思議な顔をした。