表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

計算機科学

CDは?夜眠れないのでアナログとデジタルとをぼんやりと考えてみたら迷走した(8)

●CDは?夜眠れないのでアナログとデジタルとをぼんやりと考えてみたら迷走した(8)ー媒体2


 ***


 アナログとデジタル。現在(2024年)では、良く知られている言葉ですね。


 これまでに思い付くままに考え、そして調べてみた結果ですけれども、アナログとデジタルに関して


 第1仮説 処理 数えたらデジタルで、量ったらアナログ

 第2仮説 表示 数値で表示したらデジタル、それ以外で表示したらアナログ


 と言う2つの仮説を作りました。


 処理については、連続的な量をそのまま連続的な量に相応させればアナログで、連続的な量をアナログ・デジタル変換(ADC)すればデジタルです。

 ADCするまでもなく、離散的なものはデジタルのはずです。ですが「人が数える必要がある」ものはデジタルで良いのかどうかについて若干の疑問が残っています。


 表示については、単に人が見る表示だけではなくて、信号も(これを表示というべきかは別として)重要と気付きました。媒体はアナログでも、信号として見ればデジタルである場合があるのです。

 それと、数値で表現したものだけがデジタルでよいのか、アナログ風に表示してもそれは本当にアナログと言ってよいのか?実はデジタルではないかという疑問が未解決です。


 今回は音楽の媒体について考えて、そして迷走して行きます。


 ***


 例えばCDコンパクトディスク。デジタルがアナログ(のレコード)を駆逐した例として良く知られていますね。


 CDは、パルス符号変調(Pulse Code Modulation、PCM)で、音を数値に変換して、更に幾らかの符号化処理をして、盤上の凸凹で0/1を記録します。数値ではありませんが信号としてみれば、デジタルですね。


 ***


 1970年代の話です。当時は音楽の媒体としては専らアナログなレコードの時代でしたが、本当の超ハイファイを目指すにはデジタル式のデジタル・オーディオが必要だ!という主張があったそうです。

 そう言うソニー研究所の方の雑誌記事がありました(月刊アスキー1980年5月号)。


 この記事によれば、PCMマイクから、PCMスピーカー、PCMレコーダー、デジタル・オーディオ・プロセッサ、そしてデジタル・オーディオ・ディスクなどの実用化が進められていて、何故ならばハイファイ・オーディオから雑音を除去するには、音声がマイクに入力された直後から、スピーカーで音声を出力する寸前まで、全ての信号をデジタル信号にすることが必要だからだ!と言う主張です。


 CDが発売されたのは1982年で、今はPCM録音機もあるし、Bluetooth接続のマイクやスピーカーもある。この頃の夢は実現されたのかも。


 ***


 PCMという技術は、ADCを更に発展させた技術とも言えると思います。


 PCMは、標本化サンプリング・量子化・符号化の3ステップで、(音声信号などの)アナログ信号をデジタル信号に変換します。


 標本化とは、アナログ信号を一定間隔で分割してその代表値を取り出すことです。量子化とは、取り出した代表値をADCして数値にすることです。符号化は数値を二進数にすることですが、フロッピーディスクのFMやMDMなどと同様な変換も行います。CDなら誤り訂正符号も付加します。


 1秒あたりの標本化する回数を「標本化サンプリング周波数」、量子化した数値のビット数を「量子化ビット数」と言い、この2つがPCMのスペックを決めます。


 CDの標本化周波数は44.1kHzで、量子化ビット数は16ビットです。


 その他、詳しくはWEBとかで検索してみて! 標本化周波数の下限(ナイキスト周波数)や量子化誤差、ディザー、アパーチャ効果の対処などデジタル信号処理の話題が諸々出てきます。


 ***


 と、突然ですが、今日のトリビアです。


 44.1kHzって44100Hzですけど、不思議な値ですかね。


 そこで44100を素因数分解してみると、


  44100 = 2 × 2 × 3 × 3 × 5 × 5 × 7 × 7


 こんな素数が入っていました。素敵!


 ***


 ちょっと余談が入りますが、歴史の話です。


 PCM方式の原理は、アメリカのITT(International Telephone & Telegraph)社のフランスの研究所にいたアレック・リーブス(Alex Harley Reeves)による1937年の発明です。なお、リーブスさんはイギリス人です。


 1938年にフランスで、1939年にはイギリスとアメリカで特許登録されるも、当時はPCMを実装できるだけの技術がなく、実用化の目処は無かったとされています。


 アメリカのベル研究所は(1940年頃?)PCMの特許を入手して基礎研究に着手します。戦時中(1939〜1945年)のことなので秘密も多くて触れないでおきましょうね。ベル研究所はアメリカのAT&T社が設立した研究所です。AT&T社はグラハム・ベルのベル電話会社が前身で、アメリカの電話会社です。日本なら電電公社(NTT)か。


 戦後になると、ベル研究所は1947〜1949年にPCM方式による無線通信の実験を行い(実装には真空管 electron beam deflection tube を使用)、1958年には時分割多重PCM通信装置を開発、実証化実験を行います。そうして、1961年に最終的なPCM通信装置が完成し、1962年から「T1 Carrier System」として実用化されました。


 PCM通信実用化の背景として、ショックレーによるトランジスタの発明(1947年)、それからPCMを実現する際の理論的な基礎となるシャノンの通信理論の発表(1948年)により実装技術が整ったことがあるのでしょう。1958年にはTI社のキルビーによる集積回路(IC)の発明もありました。


 なお、ショックレーもシャノンもベル研究所の人です。


 T1は、電話回線を4kHzの帯域として8kHzで標本化、8ビットで量子化して、1回線当り64kbpsとし、これを24回線分集めて時分割多重化して、フレーム同期信号を加えて1544kbpsとする方式です。


 これにショックを受けた日本では、電電公社の研究所がPCMの研究を進めて「PCM24方式」を開発。スペックはT1とほぼ同じです。1965年に実用化しています。これが日本でのデジタル通信の始まり。


 ***


 1947年のPCM実験で使用した真空管(というかブラウン管)は、このために開発されたものです。


 この真空管は電子銃と、XYの偏向部、遮光スリット、受光プレートからなり、このうち遮光スリットが次のように窓(■の部分)が空いているのがポイントです。本物の真空管は7パルス分ありますけど略して4パスル分の図です。


               111111

     0123456789012345 

    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓  X軸:横方向(→)

   0┃________■■■■■■■■┃  Y軸:縦方向(↓)

   1┃____■■■■____■■■■┃

   2┃__■■__■■__■■__■■┃

   3┃_■_■_■_■_■_■_■_■┃

    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━┛


 X軸に信号の電圧として「6」を、Y軸には電圧パスル「0123」を順に入力します(ビームはY軸をスイープする)。すると受光プレートから4つのパスルの列「0110」が順に出力されます。信号が「0」なら「0000」で「15」なら「1111」です。


 面白いですね!


 *


 さらに余談になりますが。PCMをPCMって命名したのは誰でしょう? PCMの原理を発明したアレック・リーブスでしょうか?


 でも U.S.Patent 2,272,070 の題名は "Electric Signaling System" で、本文を見ても Pulse Code Modulation という表現はないのです。


 本文中には "Pulse Modulation" や "codes representing amplitudes of the waves"(波形の振幅を表すコード) といった表現があるので、誰かが合成してPCMにしたのでしょう。


  H.S.Black and J.O.Edson, "Pulse code modulation", Transactions of the American Institute of Electrical Engineers, Vol.66, pp.895-899, 1947.


 という論文があるらしくって、この人達かも。調査中ですが。戦時中のことなので秘密かも。


 ***


 その次に、PCMはオーディオ機器にも適用されました。


 1967年にはモノラルのPCM録音機が開発されて、1969年にステレオPCM録音機(試作機)が公開されています。日本のNHK技研(音響研究部)です。どちらも世界初とか。イイネ!

 この試作機は、標本化周波数40kHz、量子化ビット数12ビット(折れ線変換により13ビット相当)、2チャンネル(ステレオ)の時分割多重です。


 なのに2年後の1971年には研究中止となってしまい、それを機に研究開発者たちは退職したとのこと(ソニーや日立などに転職)。

 転職先のソニーでは最初はひっそり(?)としていたけど、やはりPCMの研究を再開(1974年にPCM録音機Xー12DTCを開発)。

 そしてCDの開発! この功績により開発者は紫綬褒章を受賞! PCM録音に人生を賭けた人たちでした。


 NHKが時代の流れにより、PCM録音機の開発に至ったと言う記事も見かけましたが真実はどこに?


 NHK技研が開発した録音機は、日本コロンビア社が貸与を受けて、これを使ってレコードが2枚販売されています。「サムシング」スティーブ・マーカス+稲垣次郎&ソウルメディア(1971年1月)と「打!」ツトム・ヤマシタの世界(1971年4月)です。


 ***


 この後、日本コロンビア社でPCM録音機の開発が続きます。日本コロンビアは日立グループの1社です。


 1972年に日本コロムビア社(現在はデノン)がNHK技研と共同で業務用のPCM録音機「DNー023R」(試作機)を開発。

 標本化周波数47.25kHz、量子化ビット数13ビット。8チャンネル。記録メディアはモノクロ映像記録用の2インチVTRテープ(1本10kgですって)。


 1972年4月に東京青山タワーホールで、チェコのスメタナ四重奏団の「モーツァルト狩」の演奏を、DNー023Rを使ってデジタル録音。10月にLPレコードを発売。

 以後「DIGTAL RECORDING」というロゴが記されたレコードが増えて行きます。


 最初のPCM録音機は販売目的ではなくて業務用で、高品質なレコードの作製が目的でした。


 その後、ソニー社が1978年3月に業務用のデジタル・マスター・レコーダーPCMー1600を発売。44.1または44.056kHzで16ビット。改良版のPCMー1610が1980年に発売、1985年にはPCMー1630が発売。


 PCMー1610らは、CDのマスター制作用に世界中のスタジオで使用されたそうです。「1610フォーマット」という言葉があるくらい。


 ***


 ソニー社は、1977年9月に世界初の「民生用」デジタル録音再生プロセッサPCM−1を発売。44.056kHz、13ビット(3析線で14ビット相当)。48万円。PCM−1とVTRのセットで機能するタイプ。


 1979年6月に日本電子機械工業会(EIAJ)が「民生用PCMエンコーダ・デコーダ」についての技術ファイルを発表しています。

 ソニー社のPCM−1の発売を受けて、各メーカが作る機器の互換性がとれるような技術上の標準となることを目的としたもの。当時はソニーはベータマックスでやらかしている最中で、テープに互換性がないことが社会問題視されていたのです。


 主な規格値としては、標本化周波数は44.0559kHz、量子化ビット数は14ビット(リニア)。VTRのテープにデータを記録する際の信号形式は標準テレビ信号に準拠するものだが、データ部分は電圧(0.1Vと0.4V)で0と1を表すデジタル信号。データは、標本化信号ワード14x6ビットに、誤り訂正ワード14x2ビット、誤り検出ワード14ビットの計14x9ビットから構成される。


 1979年にはEIAJの発表に準拠したPCM録音機がソニー、日本ビクタ、日立製作所、東芝、松下、三洋電機、シャープなど各メーカから発売された(けど...、売れたのかしらん?)


 ともかく、オーディオ機器でPCM技術は1970年代の末には十分に実用化されたのです。


 ***


 デジタル・オーディオ・ディスク(DAD)は、1977年秋のオーディオフェアでは3陣営が試作公開していて競争状態にありました。そこで1978年9月にDAD懇談会。


 :

 :

 :


 色々あって、1982年10月1日にCBSソニーや日本コロムビアらから世界初のCDが発売されました。その第1号はビリー・ジョエルの「ニューヨーク52番街」。同日にはソニーと日立製作所、日本コロムビアからCDプレーヤーも発売。


 CD開発に至る経緯はWEBで公開されていて、読み出すと止まらない程に面白かったです。


 ***


 ソニー社は1982年には24トラックのPCMー3324を、1989年には48トラックのPCMー3348を発表しています。44.1kHzまたは48kHzで16ビット。記録メディアは1/2インチのリール・テープ。


 ソニー社のWEBによると「テープの手切り編集への対応」が課題だったとのこと。テープを切って、つなげなおす、という編集がアナログなテープでは行われていたのです。恐るべきアナログ技術。現在のDAWと比べると信じられない感じです。


 48トラックは魅力的だったのでしょう。ソニー社のWEBによると1990年代にはデジタル・マルチトラック・レコーダーのPCMー3348は世界中に普及していったとあります。


 ***

 ***

 ***


 PCM−1610でマスター音源のデジタル化、PCMー3324ではデジタルでの編集と、このように音楽を制作するスタジオではデジタル化が進行していったのですね。なんだかソニー凄いな。


 電話会社の人たちが発明・実用化したPCMという技術は、音楽に適用されてデジタル・オーディオとなった訳ですが、CDが普及した1990年代なら、音楽の制作、それ自体がデジタル化していくのも自然な流れだと感じます。


 この後はDTMとか、パソコンでの編集が登場しますが、それはまた別の話で。


 ***


 加筆を続けていたら随分と長くなってしまったのでここで分離します。続きは(9)です! 投稿後に改稿を続けるのは悪癖ですよね。申し訳ないです。


 ***


 間違いの指摘とか疑問とか、ご意見・ご感想とかありましたら、どうぞ感想欄に!


 ***


2024.4.3 挿絵を追加。推敲を少し。

2024.4.5 少し推敲。

2024.4.6 長くなったので2つに分けました。

2024.4.8 また推敲して少し直しました。

2024.5.22 推敲。

2024.5.27 推敲。

2024.12.19 微推敲。

2025.1.16 加筆と推敲。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ