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 「ここは」


「そう。お察しのとおりキミの故郷だ」


「なあ前から思ってたんだけどさ、残ってる街があまりにも俺に縁がありすぎないか?」


 悪魔は満足げにゆっくりと頷く。


「ご名答ー。だが逆だね。君に意味があったというよりは、残った街に思い出がある人を選んだんだ。だから、順番が逆。まず残った街があって、それから、キミを選んだ」


 そういうことか。でもまあー


「俺はずっと運がないと思っていたけど、最後の最後でこんな思いを世界で1人だけできるなんて、運が良かったかもしれないな」


「で?故郷に戻って何をする?」


 何をしようか。地元の友人は軒並み都会で就職してしまったし、つまりはもう、消えてしまった。


「まあ、せっかくだし実家にでも帰るか」


「お、いいね。今まで五年ぐらい帰ってなかったのに」


 実家の雰囲気が苦手な俺は大学を機に街を出て、そこからろくに帰っていなかった。


「そもそもみんな残ってる?」


 街の外にいるタイミングが悪いと消えてしまうので、もはや家族は残っている気がしない。


「一応父親だけは残ってるよ。現在無職になってるけど」


 じゃあもう、母と姉は消えたのか。まあそれは、ある意味ちょうどいいのかもしれない。あの2人は家族の仲で一番苦手だったし。


「好きじゃなかったんだな、家族のこと」


「だねえ」


 母と父は喧嘩ばっかりしていて、子供の僕は居心地が悪かった。母は体面ばかり気にする人で、父は体面を全く気にしない人だった。2人が結婚してしまうのがお見合い文化の悪いところでもあり、2人でも結婚できたところが良いところであり、そこで生まれてしまった僕の運は、きっと悪かったんだろう。


「かといって親を選べるわけでもないしなあ」


 人生において不都合なことを、ああでなければ、こうであればと考えるのは勝手だが、仮に何かを訂正できたとして、自分というアイデンティティを保っていられるかどうかはまた難しい問題である。全ての不都合を取り払って別の人間になった時、果たしてそれは自分と呼んでいいのだろうか。


「結局みんなさ、配られた手札でなんとかするしかないんだよ。どうしても嫌なら捨てればいいしさ」


 俺は手札の半分を、捨てていたようなものだ。


「それが原因で例の女に振られたのに?親に対する恨みはないのかい?」


 そう、元々彼女とはうまくいってなかったが、最後の最後で振られたのは、親についてのそういう価値観だった。家族が好きで、家族から愛されていた彼女にとって、親に感謝しない、愛せない、いざとなれば捨てれば良いという発想は、あり得なかったらしい。


「でもさ、俺が彼女が欲しいってそれほど強く思って行動できたのは、ああいう実家だったからこそだよ」


 喧嘩しない家族が作りたくて、仲良しの彼女が作りたくて。夫に対する愚痴の同意を求めない、母親が欲しくてー、僕は彼女を作ったのだった。


「彼女と別れる原因になったのも実家だけど、彼女と出会うきっかけとなっていたのも実家かー」


「だから、一概には恨めないんだよねえ」


 そもそも世の中に100%の悪なんてない。心の底から恨めるものなんてほんの少しで、あとは恨んだり、感謝したり、みくびったり、見直したり…さまざまな感情の混合体だ。


「まあ僕はネガティヴに感情を振りすぎて、彼女はポジティブに感情を振りすぎた。そしてお互いに歩み寄れなかったんだ」


 それでも別れた後、本当に本当に後悔したし、戻れないかとも思ったけど。


「まあでも全部消えちゃった。元カノも、母親も、姉貴も。父親とだけ最後、軽く話してくるよ」


「そうだな。時間を潰すのにおすすめの場所はあるか?」


 この街といったらやはり、あそこしかないだろう。


「歌劇に行って来なよ。この街に来たなら、見ておいて損はないよ」


「そうするか。じゃあ、御武運を」


「うい。また夜に。ここは泊まるとしたらあそこのホテルしかないしね」


 この街ではとても有名なホテルが1つある。泊まるとしたらそこだろう。


「ご名答。子供の頃からの夢だっただろう?やっぱりよかったよ、君を選んで」


 悪魔と別れた俺は、歩き慣れた、駅から実家への道を歩き始めた。


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