山のある街
「寝不足だ」
頭ガンガンする。今までで最高の夜だったが、世界があと3日で終わるというのにこんなことをしていていいのかという気分になる。
「今日は山に行くよ」
悪魔は腰を抑えながら言う。姿は元カノのままだ。えっちなことをした翌日に女性が腰を抑えている姿ほどえっちなものはない。
というか、海に行って山へ行くって、アウトドアミーハーか?アウトドア初心者?
「せっかくだから楽しそうなことをやって終わろうと思って」
「まあそれは確かに。かといって知識もないから、王道になっちゃうよな」
ということで、俺と悪魔は山登りの道具を悪魔の魔力で揃え、山に向かった。悪魔は面白がっているのか、元カノの姿のままだ。白いスポーツウェアに登山靴、ハンチング帽を被った彼女は、相変わらず可愛かった。
「あ〜〜〜〜お前はさ、俺が死ぬ前に見たかったものをすべて見せてくれる天使か?」
「残念ながら悪魔だし、これは君が死ぬ前に見ているものだよ」
悪魔は淡々という。冗談はそれぐらいにして、俺と悪魔は山に登った。真夏の山はとても暑かったが、悪魔と何気ない話をしながら登る山は楽しかった。世界が終わる3日前にしては、上々な日だと思った。
山を登り切った時、街中を見下ろすことができた。今自分たちがいる街は、真っ黒な世界に浮いているように映っており、遠くにあと2つ、街の塊が見えた。
「あー、こんなふうになってるんだ。これはなんていうか、すごい景色だな」
今まで街が消えていった実感はなかったが、改めて、世界は終わりに向かっているんだと実感した。
「そうそう。誰ともすれ違わなかっただろ、今日。この景色が見えないようになってんだよね。認識阻害にも色々種類があってさ。でも、どうせなら君とこの景色を見とこうと思って。今しか見れないしさ」
「そっか。ありがとう。いい思い出になったよ」
どうせ終わってしまう人生だとしても、誰かと2人だけの秘密を持ち歩いていくのは、気持ちいいものだ。
「じゃあ下りよっか」
「ん。姿戻しなよ。君の姿も目に焼き付けとかないとね」
「お言葉に甘えて」
悪魔はいつもの人型の姿に戻…頭がヤギだ。
「あれ?それが本当の姿?」
「そうだね。今まではちょっと人間に寄せてた。でもまあ、いいかなって」
悪魔は少し笑いながら言う。
俺と悪魔は山を下り、次の街へ行き、ホテルに泊まり。いつものようになんてことない会話をして、悪魔がまた元カノの姿になったり、ならなかったり、エッチなことをしたりして、眠りについた。