彼女のいる街①
「この街はー」
「よく知ってるだろ?」
ゲーセンで遊び尽くした俺たちは、明日消える予定の街に泊まりにきた。
よく知ってるも何も、知りすぎている。知りすぎて、二度と訪れないようにしていた街である。なぜなら、
「まずい。もしここで元カノに出会ってしまったら、ストーカーとして通報される可能性がある」
「だろうな。でもまあ、いいだろ?明後日にはない街だ」
ああ、そうか、
「当然元カノもー」
「明日で、消える」
じゃあ会えるのか。会ってしまうのか、会っていいのか。人生において、唯一真剣に付き合って、本気でぶつかったからこそ、別れてしまった女の子に。もう二度と会えないと誓った、女の子に。その子が住んでる、この街で。
「まあとりあえず今日の宿に泊まろうぜ。今日の宿は旅館風だ」
「いつもすまないね」
お代は全部、悪魔に出してもらっていた。
「いいよ。経費で落ちるし。同じ部屋に泊まって良いか?分けるのめんどくさいし」
悪魔は宙に浮かんだ、液晶画面みたいなのを操作する。黒い手袋をはめた指は細長い。
「いいよ。僕は夜更かしするタイプじゃないけど。ぱっぱと寝て明日に備えるタイプ。それでも良ければ」
明日は元カノに会うっぽいし。
「じゃあそうしよう」
その日は宿の料理と温泉を満喫し、疲れを癒した僕らは、とっとと寝た。